最初はサブタイトルについて、やや不思議な感じがしていました。
前回からの続きであるなら合戦がメインのシナリオになるので、何故「帰還」という文言が付くのかわからなかったのです。
その理由が分かったのは正にエンディングでした。
私はそれに結構衝撃を受けましたし、だからこそこのタイトルは上手いと感じました。
そこから考えると、このシリーズは王騎将軍を描くことが一つの目的であったのだと思えるのです。
信にとって明確な目標として存在し、映画シリーズでは常にストーリーの中核に居ました。
ダブル主人公とまではいきませんが、このシリーズを支えてきたのは間違いなく王騎将軍であったと言えます。
また、演じた大沢たかおさんがハマり役であったのも大きいと思います。
漫画の実写化に於いて、登場人物が観客に受け入れられるかで成否が別れることがあります。
私は原作未読なので、どこまで原作に近しいのかはわかりませんが、少なくともこのキャラクターに対しては賛辞の方が圧倒的であったと思います。
このシリーズのヒットの要因もこのキャラクター造りにあったのではないでしょうか。
そして、今作はその最大の功労者の最後の舞台ということで、正に有終の美を飾る内容になっていたと言えます。

全体の展開は非常にわかりやすく、一回観ればその内容は誰でも理解出来るものになっています。
しかし、表面上に見えている出来事以上に、結構裏側の構成がしっかり出来ているとも感じました。
特に上手いと思ったのは、背後にある軍略の緻密さですね。
冒頭では強敵の龐煖により追い詰められる信と、王騎との過去の因縁が同時に語られます。
この展開はテンポが良かったですし、王騎と龐煖の対立が明確に示されていて対決が盛り上がりました。
この二人の強者の強さを求める道筋に大きな違いがあった点も良かった点です。
龐煖が己一人で武を極めようとしているのに対し、王騎は多くの人の想いを背負って強くなる武将です。
その差を見ただけでも、誰しも王騎を応援したくなるものです。
この人心を惹き寄せる力こそ、彼の武以上の強味でもあったのでしょう。
だからこそ、李牧からすれば最大の脅威であり、その排除こそが最大の目的であったことも頷けます。
また李牧がその為に安易に暗殺という手を取らなかったこともなんとなく想像が付くのです。
彼が狙ったのは王騎将軍を戦場で討つことだったのではと思えるのです。
彼は王騎を討つことと同時に、打ち倒した後の事も考えた上で作戦を立てているのでしょう。
彼が秦軍を追撃しなかった理由を語りますが、その理屈も凄く納得のいくものでした。
決して見逃したのではなく、目的を達成させたからこそ無駄な戦いをしないという辺りが凄いのです。
勿論これは創作であり、あまりに非常識な軍略でもあると言えます。
しかし、それでも納得させるだけの説得力があるからこそ、李牧の怪物っぷりが際立つのです。
王騎という英雄を倒すのに、武力ではなく知力を武器とする李牧が対峙する辺りがこの作品の実に面白い点なのです。

このシリーズを通して観てきて一つ思ったのは、この作品はやはり日本の作品なのだということです。
登場人物の価値基準がやはりジャンプ作品のキャラクターと一致しますし、仲間同士の絆というものがとても濃いのです。
その点は三国志と比べると違いがわかります。
勿論、全然それで良いと思いますし、実際にこれだけ楽しめるのはジャンプが長い間積み重ねてきた信念によるものだとも思います。
だからこそ、今作はシリーズ屈指の映画になったのは間違いありません。
ですが、同時に作品としては一つのピークを迎えてしまったという気もするのです。
原作未読でアニメも見ていないので、その後の展開はわかりませんが、こういった長大シリーズは一つの最大の山場を越えてしまうと、その後に惰性になってしまう場合があります。
そういう意味でも、映画化するのはここまでとするのが一番良いのかもしれません。
今後も宿敵である龐煖や李牧との対決はこの後も続くのでしょう。
ですが、それはも長尺になり映画で描くには難しいのではと思えます。
なので、映画シリーズが今回で終わるというのは正しい選択のようにも思うのです。
だからこそ本作は是非とも大ヒットして欲しいものです。