「快楽」と「秘密」

 

「快楽」とは、官能的な欲望の満足によって生じる心地よく楽しい感情である。(明治以前は「けらく」と読み、明治以降「かいらく」と読むようになった。)

 

人類最古の商売は売春だと言う。これは万国共通の事象であるらしい。

「売春」とは「春を販(ひさ)ぐ」ことであり、「春」は快楽の場である遊郭・色気を指す。「ひさぐ」とは「売る・商う」を意味するとある。

 

「商売」の「商(あきなう)」と言う字は、女が股を開いた状態で中に口があるのが女陰を表しており、文字通り女を売ると言う隠語の異説がある。と、嘗てある本で読んだ記憶がある。言われてみれば、なるほど確かにそう見えてくるものである。と感心したものである。

 

モーゼの十戒の第七戒に「汝、姦淫をするべからず」とある。これは紀元前13世紀頃(約3300年前)に作られたと言うから、人間と言う生き物はこんな昔から、他人様(ヒト)のものを盗むことに秘密の快楽を感じていた様である。

 

また、聖書には「情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである。」と言うからチョッとばかり厳しすぎないか。と思う。

 

後期高齢者の齢になっても「変哲」(小沢 昭一の俳号)作の「まだ尻を 目で追う老いや 荷風の忌」の愛吟者を自認する小生なんぞは、差し詰め「歩く姦淫者(色魔)」になってしまうではないか。

 

これに関連して、我が国においてもこんな「一盗二碑三妾四妓五妻」と言う成句が残されている。

その意味するところは、男性が女性との性行為で興奮する順番を表したものである。

       

「盗」は人妻・他人の彼女、「婢」は下女、家政婦・使用人、「妾」は愛人、「妓」は遊女・売春婦、「妻」は正妻を表し、不道徳で秘密の度合いの高いほど興奮することを示すようである。但し、これはあくまでも男の立場からの勝手な言い分である。

  

こうやって見てくると日本も「一夫一婦制」がかなり昔から制度として成立していたようだけど、明治31年(1898年)の民法制定で法的に確立したと言うではないか。だから、日本はほんの100年ほど前まで(江戸時代まで)は「一夫多妻」であった。

 

江戸時代までは男社会であったから、男は甲斐性があれば武士だろうが商人だろうが妻や妾を何人持っても良いのである。反面において既婚女性は夫以外の男と情交を通じた場合は、「不義密通」として死刑など厳罰を科せられたのである。

明治時代の旧刑法においても「姦通罪」が明文化され、1947年の刑法改正によって姦通罪が廃止されるまで続いたのである。「姦通罪」は夫からの告訴のみで成立する親告罪であった。(北原白秋が隣家の人妻と出来て姦通罪で投獄されたのは有名な話。)

 

ある世事に長けたと思われている紳士の回顧録に、

「そのヒト(女性)は、めくるめく逢瀬が終わってホテルを出る際は、必ずさっきまでの淫靡(いんび)な痕跡を残す乱れたベットのシーツと布団を綺麗に元通りに直し、着ていたパジャマや寝間着を折り目正しくたたんで枕元に揃えてから帰る。」

いつもながらのその所作を見て

件の紳士は自分のことは棚に上げて、「なんと几帳面で真面目なヒト(女)なのだろうか、こんなヒト(夫人)でも不倫するのだ。」と

「彼女は家に帰ってからどんな顔してご主人と会話しているのだろうか?と考えるとふっと笑みがこぼれる。」と書いていた。

 

ある遊び人の旦那の話。

愛人の人妻とモーテルに入るときに、そこが誕生日割引をしていると、その人妻は受付で臆面もなく堂々と自分の免許証を見せて入る。女とはどこまで経済的に貪欲なのか、女も年を重ねると羞恥心ってものが薄れてくるらしい。「秘すれば花」も何処へやらと嘆いていた。(

 

オンナって生きものは、秘密の快楽についてはしたたかであり度胸が据わっているもので、生半可な男なんか敵わない。男の嘘はすぐバレルが、女の嘘はなかなか見抜けないものらしい。

 

オトコは謎の赤玉が出たら終了のゴングが鳴る消費期限があり、オンナは賞味期限はあれど消費期限がない。故に、人類最古の商売が語られる所以である。

 

欲望(本能)と理性が勝負したら欲望が勝つ。やり貯めと寝貯めは出来ないのである。何故ならば、人間は本能には逆らえない性(サガ)を持っているからである。

 

男も女も秘密を持っている方が魅力や人間味?が増すのかもしれない。快楽も秘密の伴わないものは、やがて飽きる様である。

 

欲望というのは制約をはねのけていく反作用で膨らむものである。だから、制約がなければ衰えるのは当たり前なのである。

 

肝心なのは、快楽は相手があってこそ成り立つのであり、その共犯性こそが快楽の泥沼に落ちる真意かもしれない。

 

「人の心の奥底には、己でさえも分からぬ魔物が棲んでいるものだ。」(池波正太郎)