「いや、ミヤビの記憶障害がね、ちょっとだけ改善したの。」by成増先生
「一番最初に思い出したのは晩ご飯に食べた豚足。」by津幡師長
「まだほんのちょっとですね。昨日のことがまばらに思い浮かんでくる程度で。」byミヤビ先生
「何でそんな顔。でも良かったじゃないですか。薬を増やして記憶が改善したってことは、やっぱり三瓶先生の言うとおり、記憶障害の原因は薬の量だったってことでしょ?」by津幡師長
「う〜ん、それならもっと改善してもいいはずなんです。」by三瓶先生

「作ってると何だか濃くなっちゃうみたいで。味見はちゃんとしてんだけどね」by女将

「それはいつ頃からですか?」by三瓶先生

「あぁ〜1週間ぐらい前ですかね」by女将

「大将。一度脳を検査してみませんか?」byミヤビ先生


「検査の結果、髄膜腫という腫瘍が見つかりました。」byミヤビ先生

「この髄膜腫がここにある嗅神経っていう嗅覚を管理する神経を圧迫しちゃってるんですね。なので嗅覚が低下して料理の味付けが濃くなってしまってるんだと思います。」byミヤビ先生

嗅覚障害はほとんどが自覚症状がありません。」by三瓶先生

「嗅いでるうちに匂いがわからなくなっても気付けないんです。」byミヤビ先生

「手術で髄膜腫を取ることは可能です。」 byミヤビ先生

「この嗅神経に髄膜腫がしっかりくっついてしまってるんですね。なのでこの髄膜腫を取るときに神経を傷つけてしまうおそれがあります。」byミヤビ先生

「つまり手術によって逆に嗅覚が失われてしまう可能性が高いということです。」by三瓶先生

「手術をしなかったらどうなるんですか?」by女将

「放っておくと髄膜腫が大きくなって、脳のいろんな所にダメージを与えてしまう可能性があります。そうなってくるといずれ命にも関わってきます。できれば早めの治療をおすすめします。」byミヤビ先生

「ちょっと考えさせてくれるか。来週には返事するわ。」by大将


「ブリ大根は美味しかったですよね」「大将がサービスで出してくれた。」byミヤビ先生

「ブリ大根は女将さんが作ったって言ってたよ。大将がくれたのはミヤビちゃんの好物の焼き肉丼。」by星前先生


「さっきの店員さんって昨日もいませんでしたか?」byミヤビ先生

「いました。昨日もおとといも。」「あの人勝手に抹茶パウダー入れてくるんですよ。まずいんですよ、これ。しかも今日なんて30振りぐらいしてましたからね。歯止めが利かなくなってるんじゃないですか?覚えてるんですか?」by三瓶先生

「はい」byミヤビ先生

「三瓶先生、今日、ちょっとこっちから行ってもいいですか?」byミヤビ先生

「けっこう遠回りですよ。」by三瓶先生

「なるべく遠く歩きたくて。」byミヤビ先生

「おいしそうですよね、新しいイタリアン」byミヤビ先生

「いや、これインドカレーですよ。」by三瓶先生


「川内先生が患者さんを間違えてしまって。」by彩音看護師

「もしかしたら記憶錯誤が起こってんのかもしれません。」by三瓶先生

「脳に貯蔵されたこのちらしという記憶とこのカレーという記憶を重複細胞という細胞が関連づけてるんですが、この別の記憶イタリアン…が結び付くと記憶錯誤が起きます。」by三瓶先生

「つまり記憶がすり替わっちゃってんのか。」「マジかよ、よくなってきたのに。」by星前先生

「記憶錯誤はどうすれば治せるんですか?」by津幡師長

「残念ながらまだ解明されてません。」by三瓶先生


「この髄膜腫か、手術するわ」「もうこの際すばっと取ってしもてくれや。」by大将

「この手術は難易度が高いので、僕と川内先生の2人体制で行ないます。」by三瓶先生

「あぁ〜そりゃ贅沢やな」by大将


「1番神経は今ぐらいの圧迫でも嗅覚にダメージ入りますから。」「このデリケートな感覚を覚えといてください。」by三瓶先生


「ミヤビちゃんの記憶錯誤は抗てんかん薬の量を増やしたからですか?」by綾野先生

「そうだろうね。このときと同じだよ。薬の量を増やせば記憶錯誤が起こってかえって苦しめることになる。症状を落ち着かせるなら薬の量を戻すしかないだろうね。」by大迫教授

「申し訳ありませんでした。僕まで大迫教授を疑って勝手なことをして。」by綾野先生

「まあ、君が気にすることはないんだけどね。」「苦労して見つけたベストな量だったんだよ。」by大迫教授


「あれ大将、こないだまた来てねって言ってくれませんでした?」byミヤビ先生

「えっ?あぁ〜言うた言うた。覚えてくれてたん?」by大将


「あのミヤビちゃんの薬の量だけど、元の量に戻さなくていいのかな?」by星前先生

「薬の量を戻したらまた記憶が戻らなくなります。」by三瓶先生

「そうだけどさ、ほら、またミスしたら自信もなくなっちゃうしさ。」by星前先生

「まあ、今はあくまで回復過程ですから。」by三瓶先生

「ほんとにそう思う?」by星前先生

「記憶は仕事のためだけにあるわけじゃありません。」by三瓶先生

「そうだね、おじゃましました。」by星前先生


「綾野君はまだおやじさんに話せてないんだって」by西島会長

「そうらしいですね。厚労省がせっついてきてますか?」by雄一

「松木君も気が弱いからね。本当に回復期にしてくれるのかって、毎日電話してくるよ。」by西島会長

「どういうこと?」by西島秘書

「何だお前わかってないの?」by雄一

「でも今はほとんど使ってないだろ?勲先生が過疎地医療ばかりやってるから。だから、綾野君が経営者になってまずは赤字になってる過疎地医療をやめさせる。で遊んでる80床のベッドを全部回復期病床として利用する。厚労省は自分たちが進めてる地域医療構想のために、あの地域で回復期病床を増やしたがってるから」by雄一

「関東医大の建て替えには厚労省の協力がどうしても必要だからね」by西島会長


「ちょっと答え合わせに協力してもらってて。」「仕事の時は何か思い出しても日記で確認するようにして。で、それ以外は思い出せたことを大事にしたくて。何かちょっとでも覚えてたらうれしいんですよね。」byミヤビ先生

「大迫教授には相談したんですか?」by津幡師長

「薬を増やしたことも言ってないんですよね。」byミヤビ先生

「てんかんのこと隠してたわけでしょ?」「さすがにそれはさありえなくない?」by津幡師長

「まあ何かよっぽどの事情があるんだと思います。」byミヤビ先生

「川内先生は強いなと思って」by津幡師長

「私さ、う〜ん、けっこう長い間、心によろいを着てたって言ったらまあ聞こえはいいかもしれないんだけど。周りを信頼できずに今まで生きてきたじゃない?人との距離感もバクっちゃったしね。ははっ嫌になっちゃう。」by津幡師長

「どんな師長も好きです。」byミヤビ先生

「あなたと一緒にいると…。何だろう、素直になりたくなりますね。」by津幡師長


「あんたが一番好きな匂いって何?」by女将

「やっぱかつお節の匂いやな。」by大将

「もし匂いがわからんようになったら料理人やめてもええか?」by大将

「あんたの好きにしたらいいよ。」by女将


「そんなカテーテルしかできないような医者になってどうするんだ。」by勲先生

「これからの患者に必要なのはカテーテルみたいな最先端医療だよ。お父さんも最新のカテーテル治療を見れば考えも変わるよ。」by綾野先生

「医者ならこのかばんの中にあるものだけで、何とかしなきゃならんこともあるんだぞ。そこで問われるのは最先端の技術じゃない。医者の力量だ!」by勲先生

「だから心配なのよ。最近、麻衣さんからあんまり手紙が来ないから。」by洋子

「知らないの?あなたがどうしてるとか病院での様子とか麻衣さんよく知らせてくれるのよ。あなたは忙しくて連絡する暇がないだろうからって。」by洋子


「あぁ…私たち実はけっこう仲良かったんだよ。一緒にご飯とか食べいったりしてたし。」by西島秘書

「何かやっぱりミヤビちゃんと話すと落ち着く。何か迷った時とかさ。話聞いてもらったりしててさ。懐かしい。最近ちょっとうまくいかないことも多くて自分で自分が嫌になったりもしてたんだけど。何か吹っきれた。ありがとう」by西島秘書

「私、ミヤビちゃんに三瓶先生のこと言い過ぎだかもしれない。ごめん」by西島秘書


「おだしですから?」ミヤビ先生

「かつおだしや。女将が味見してくれてな」「ああ〜ええ匂いや。嗅ぐ納めやな」by大将


「俺のだしのどこが悪いんや。」by大将(高美)

「大将がああ言うんだから、きっともっとおいしくなるんだよ高美さんのだしは。頑張りぃや」by女将


「匂いは俺の…俺の全てや。はぁ〜」「このとおりや。ちょっとでもええから匂いを残しといてくれ。」by大将


「匂いが記憶を連れてきてくれたんですかね。」byミヤビ先生

「感覚と感情は一体化して働くんです。」by三瓶先生

「あっ咲いてる。ふふっ。昨日までつぼみだったんですよ。」byミヤビ先生

「へぇ〜覚えてるんですね。」by三瓶先生

「何か。季節とか。町並みとか。こう変化するものをちゃんと感じられると昨日と今日はつながってるんだなってうれしくなります。」byミヤビ先生

「三瓶先生。」「頼っていいですか?」byミヤビ先生

「回復に向かって1つずつ壁を越えていくと、必ず次の壁が立ちはだかるものです。記憶障害に限らず続けるほどにその壁は高く険しくなっていくかもしれません。でも今回の手術では川内先生の力が必要です。一緒に戦いましょう。」by三瓶先生


「大将が寝てる間に、あのだしの味みんなで守るからね」by成増先生

「そうだよ。魚の煮つけもうまいもんな、しっかり味が染みてて。」by星前先生

「おいしいよね〜。ミヤビは何が好き?」by成増先生

「私は焼き肉丼ですかね。」byミヤビ先生

「ミヤビちゃんね、前から思ってたけど、たかみは魚が自慢の店だからね?」by星前先生

 

「拡大率上げると。手元の操作にこまやかさが求められるのは知ってるよね?」「あっ見てごらん?」「こんなのよく縫えたね。」by大迫教授

「何か面白くなっちゃって。」byミヤビ先生


「ねえ、ミヤビってさ、もしかして三瓶先生以上に才能あるんじゃないの?」by成増先生


「わかるわ、匂い」by大将

「えっ?いや…やだもうちょっと、微妙な顔するからだめだと思ったじゃないの、もう!」by女将

「いや、匂った瞬間に、あの憎たらしい師匠の顔が浮かんできてん。」by大将

「もう…料理人はあかんかと思とったけど、おおきに」by大将


「では大将の嗅覚改善を祝っておめでとうございます!かんぱ〜い!」by津幡師長

「大将、匂いはどうですか?」by森看護師

「う〜ん、まだ元どおりとはいかんけどな。でも自分で作ってる感じは戻ったで。」by大将

「あとちょっとでお店乗っ取れるところだったのにね〜。」by女将

「記憶錯誤のほうはどうなんですか?」by津幡師長

「だいぶ慣れてきました。混乱も抑えられるようになってきて。」byミヤビ先生

「やっぱり薬の量は増やしたまんまにするんだね。」by星前先生

「はい。何かちちゃいことでも覚えてると生きてるって感じがしてうれしいんですよね。」byミヤビ先生

「カツカレーは覚えてても毎日食べてるけどね。」by森看護師

「やだ鼻水たれてますよ。」by小春看護師

「うわ恥ずかしい!ミヤビちゃん、これ日記に書かないで。」by星前先生


「これから言うことは日記には書かないでください。僕たちは婚約していました。」by三瓶先生


「私たち、結婚するのやめよう。」by西島秘書


 医者によって、何を大事にしているか違うから治療方針が違いますよね。大迫教授の考え方も、三瓶先生の考え方も、綾野先生の考え方も、勲先生の考え方も、相手を批判することではなく、それぞれ患者のことを考えての治療だよねって思う。

 麻衣さんはミヤビちゃんのことを友達として心配していたのですね。綾野先生のご両親に麻衣さんお手紙を書いていたり、気遣っていたんですね。そして、綾野病院のことを考えて、綾野先生との結婚は考えなおすようですね。

 みんなそれぞれ、相手を思って動いていたんですね。

 ミヤビちゃんは記憶が少し回復したけど、記憶錯誤が心配。