「じゃあ、またね」
車から降りる前に、首を少しひねって顔を向かい合わせる。久しぶりに一緒にはしゃいだあなたと。
ハンドルを握っていた手。
いつもはパソコンのキィを叩いているその手。
自宅で私じゃない女の人に食事の仕度をする手。
夜は、たいていスーパードライの缶を握っている手。
長い階段をのぼる時、すっと差し出してくれた、手。
何もものを言わずに、その大きな掌が私の顎先を唐突に包んだ。
ずきん。と何かが疼く。
きれいな指は、風に弄ばれてくちびるにかかっていた髪をするりとはらった。
その時間は、一秒たらずのはずなのに。
今もくちびるに指をあてると、あなたのあたたかくて、乾いた指の感触をはっきりと思い出せる。
私のくちびるに。