中国人(出身地不明)/20代前半/スト6
ある夜、ジムでトレーニングをしながらTantanをしていたら、妙に話が盛り上がる子と出会った。
しばらく話していると、ワイングラスの写真と共に「一緒に飲もうよ」と送られてきた。
どうも会社員のようだったので、平日の遅い時間に飲んでも勝機は薄いと思い渋っていたのだが、どうせやることもないし近場のようなので早めにジムを切り上げて合流することにした。
「今から行くよ。どこの店?」
「店じゃないよ、私の家だよ」
股間の高鳴る音が聞こえた。
「何か買っていこうか?」と聞くと、「シャンパン!」と言うので、ローソンで200元(約3,500円)ぐらいのものを見繕って持って行った。
部屋に入ると、彼女とアメリカンショートヘアの猫が出迎えてくれた。
「猫が出ちゃうから早くドアを閉めて。こっちこっち!」
狭いリビングに通してくれた。彼女はリラックスしたワンピースに生足で、靴下も履いていなかった。
「今日はルームメイトが出張だからいないの。まだこのワイン残ってるから一緒に飲もう」
彼女は赤ワインをグラスになみなみ注いでくれた。
広告会社でデザイナーをしているという彼女は、いかにもそれらしいおしゃれで雑多でお金がないといった風情の部屋だった。
30歳をとうに過ぎたにも関わらず、俺は女の子の家に入ったことがほとんどない。
肺胞の一つ一つに染み渡らせるようにして息を吸い込み、その匂いを堪能した。
しばらくすると彼女はタバコを吸いだした。メビウスだった。
「それ中国で売ってる?」と聞くと、
「売ってないよ。友達に日本で買ってきてもらった。これが一番好きなの」と言う。
俺もポケットから中南海を取り出して火をつけた。
「俺が中国のタバコを吸っていて、君が日本のタバコを吸っているのはおもしろいね」と言うと、
彼女は「もうワイン飲んじゃったの?シャンパン開けよう!」とキッチンにトコトコ歩いて行った。
危ないから俺がやるよ、とシャンパンのボトルを奪い栓を抜いた。彼女が歓声をあげる。盛り上がってきた。
彼女は音楽をかけ始めた。
スローテンポの心地いい曲だった。
「これいい曲だね」
本当にそう思ったのでそう言った。
「これはね、成龍の曲。『最好的我』って曲だよ」
「ジャッキー・チェン?息子、いたんだ」
「そうだよ」
何を話したかはあまり覚えていない。赤ワインが好きなこと、彼女の仕事は忙しいけど朝は遅いこと、プランナーが企画を出してからが仕事なので待ちの時間が長いこと、今日早く帰れたのは珍しく明日以降は忙しくなるであろうこと、そうこうするうちにシャンパン一本が空いていた。
ずっとスツールに座っていたのだが、話の区切りが良いところで、ソファに座っている彼女の横に腰かけた。
彼女は少し緊張した様子で、「トイレに行ってくる」とそそくさと駆けていった。
そうだよな。セックスの前にはトイレに行く必要がある。
俺はポケットの中のコンドームの位置を確認した。
彼女がソファに戻ってくると、すぐにキスをした。胸、股間を触り、お姫様抱っこで彼女の部屋へ。
彼女は控えめに言ってスト値こそ6だが、かなり好みのタイプだった。
いわゆる中華美人というよりは、少し小柄で日本人ぽい顔立ちの子だった。
それなのに、俺の股間は・・・ふにゃふにゃのままだった。
それでも前戯をしているうちには、と思ったけど、全然だめ。
観念して、「飲みすぎちゃったみたい。できないみたい」と彼女に伝えた。
彼女は、目を見開いて無表情で寝そべって上を向いていた。
俺はトイレに行き、手洗い場に無理やりチンコを乗せてコンドームの上から丁寧に石鹸で洗った上でコンドームを抜いて、更に念入りに洗ってからトイレットペーパーでゴシゴシと拭き、部屋に戻った(俺は性病リスクを最小限にするために、粘膜vs粘膜、粘膜vs体液の接触を最小限にするポリシーを常に実行している
彼女は既に服を着ていた。
「私、明日も仕事あるから」
語気には明確に怒りが表れていた。
「本当にごめん。飲みすぎちゃった。いつもはこんなことないんだけどなあ・・・。本当にごめん」
謝るしかなかった。
「あのね、あなたは私が初めて部屋に入れた男の人なの」
彼女の意味することはよくわからなかった。ファーストキスみたいな感じで、初めて部屋に入れる男ってのは彼女にとって重要なものだったのだろうか?
「もう帰って」
そして、「あなたは私が初めて部屋に入れた男の人だったの」と繰り返した。
一体、それはどういう意味なのだろう?考えてもわからなそうだったので、部屋を出た。
彼女は見送ってもくれなかった。
俺は一階の駐輪場でポケットに入っていたトイレで外したコンドームを投げ捨て、自転車で家へと向かった。
彼女に魅力がなかったわけでは決してないんだ。そういうことを伝えたかった。
そんなことを考えながら、しかし如何ともし難かった自分の中国語力、コミュニケーション力のなさを恨みながら、少し肌寒くなった上海の闇の中をプラタナスの樹に囲まれながら少し強く自転車のペダルを踏みしめた。
何日か経ってから家の近くでホットワインを出すバーを見つけたので彼女に連絡してみたが、既にブロックされていた。
上海を去るまでのしばらくの間、彼女の家がある准海中路と茂名南路の交差点の近くを通る度にこの夜のことを思い出していた。