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(ŎᴗŎ)シカハタビ

カザフの喉歌（komei,көмей)がカザフの嵐(tökpe, төкпе)を演唱する。

これがカザフの＂ある特定の＂喉歌への当ブログの推論であります。

…カザフ語が分かる方はこれを見て怪訝に思うでしょうけど、これは後の投稿にて。

今回は、カラカルパクの喉歌について投稿します。

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(ŎᴗŎ)シカハタビ

さて今回の投稿は『TURAN ethno-folk ensemble』のYouTube動画から始めましょう。

TURAN - DOMBYRA / music by Arslanbek Sultanbek

https://youtu.be/VFavRtSz9-E

TURAN - DOMBYRA / music by Arslanbek Sultanbek🎦 Filmed and made by Zhandos KhalelKara kıs avılımga kelgendeKürtildegen ( külpildegen) kar yerge tüskendeDombıramdı alarmanYurek sazın şalarmanKaygırgandı...

youtu.be

この曲については別の投稿であらためてご紹介する予定ですが、この曲は有名なノガイの曲のカバーです。

カラカルパクとカザフはノガイを通して強く結びついています。

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(6д6)シカタケル

もう一度Wikipediaの「Overtone singing」の問題の項目を引用しよう。

断言しよう、この項目には間違いがある。

なおこの引用は2023/06/01時点のものであり、投稿前にこの文面のままであることは確認済みだ。

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(ŎᴗŎ)シカハタビ

Wikipediaの「Overtone singing」よりカザフスタンについて記載している箇所を引用します。

文意を簡単にまとめるとこのようになります。

・カザフスタンとカラカルパクスタンのzhirau(жырау)という存在によってドンブラとともに「throat singing（komei,көмей)」が歌われていた

・「ethno-folk musical bands HasSak and Turan Ensemble」が『throat singing（komei,көмей)』を復活させた

・「throat singing（komei,көмей)」はロシアの征服やその他により消えたとカザフ人は信じている

「zhirau」をキリル文字で(жырау)としましたが、これはカザフ語です。

以下引用

Wikipedia

Overtone singing

Uzbekistan and Kazakhstan

The poet-musicians of Kazakhstan and the Uzbek region of Karakalpakstan, known as zhirau, employ throat singing in their epic poetry recitations, accompanied by the dombra.[5] Zhirau singers believe that the ability to throat-sing is an innate gift of selected Kazakhs, and that it cannot be taught.

Besides zhirau, there is another form of throat singing called "Kömeimen än aituw (Көмеймен ән айту)" in Kazakhstan. This technique is similar to throat singing in Altai Republic. The Kömeimen än aituw is now being revived by famous Kazakh ethno-folk musical bands HasSak and Turan Ensemble, after Kazakhs believed that this form of throat singing might have been died out because of Russian conquest or rarely practiced or didn't know them at all due to lack of documentings of this practice.

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Overtone_singing

引用以上。

この時点では記事の中にある楽器はドンブラだけで、コブズがありません。

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(6∀6)シカタケル

上記の引用の中でカラカルパクをあげながら、コブズの例示がない！

カラカルパクとzhirauの単語を出していながら楽器がドンブラだけなのは、全くの間違いだ。

⊂O–O⊃あしべ

ま〜ち〜が〜い！！

Wikipediaをあてにしてはいけないとはよく聞きます。

けどワタシのような素人にとっては頼もしい存在なんですよ。

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(6∀6)シカタケル

Wikipediaは、万人に知見を広げる機会を提供する知識共有の場であって、その意味では、あしべのような素人にとって心強い味方であることに間違いはないんだよ。

だが万人向けだからこそ間違いの発生も多いのは気をつけないといかんよな

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(ŎᴗŎ)シカハタビ

ではWikipedia以外の資料を使いましょうね。

坂井弘紀教授（和光大学）のカラカラパクスタン訪問のレポートから引用します。

インターネットの中にある論文や国立国会図書館で、日本語で読めるカザフ文化の資料を漁る時に、ブログ主が最初にチェックする研究者がこの方です。

スラブ研究センターニュース 88号（2002年1月）

カラカルパクスタン共和国を訪ねて

＞もちろん、ジュラウ（叙事詩語り）による叙事詩「エディゲ」の一部の吟誦も行われた。とりわけ目を引いたのは、エセムラト＝ジュラウという著名な語り手の孫が祖父に倣いジュラウとして叙事詩を語っていたことである。この青年ジュラウが弦楽器コブズを伴いながら「エディゲ」を語る様は、祖父の才能を正しく引き継いでいることを示していた。もっとも彼は、現地では現代カラカルパクポップスの歌い手としても知られているようで、コブズ片手に叙事詩語り特有の「だみ声」で三人組ユニットのリードボーカルとしてもステージに立った。

https://src-h.slav.hokudai.ac.jp/jp/news/88/sakai.html

引用以上。

カラカルパクスタン共和国

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(6∀6)シカタケル

「だみ声」はいわゆる喉歌を表現する日本語の言葉だ。

⊂O–O⊃あしべ

カラカルパク人にはコブズを演奏するジュラウ（叙事詩語り）がいる、これがWikipediaの「Overtone singing」の内容の間違いということですね。

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(6∀6)シカタケル

「ジュラウ（叙事詩語り）」の部分だが、ジュラウのつづりは、坂井教授のこの論文のPage No.216で確認できる。

「жыраў」だ。

和光大学総合文化研究所年報『東西南北』2007

中央ユーラシアの英雄叙事詩『チョラ・バトゥル』の地域的特徴再考 : ノガイとカラカルパクのヴァリアントについて (研究プロジェクト中央アジア諸民族の文化諸相に関する動態的研究)

⊂O–O⊃あしべ

zhirauと、カザフ語のжырауとカラカルパク語のжыраў。

ほぼ一緒のつづりだから同じカザフ語もカラカルパク語も「ジュラウ」の「叙事詩語り」と考えて大丈夫かなぁ…

…YouTubeを「жыраў Каракалпа́к」で検索してみようかな。

あー、カラカルパクの民族衣装でコブズを構えたサムネイルがいくつか出てきましたね。

おぉーっカラカルパクの民族衣装を着たサムネイルなのに、タイトルが「жырау」のつづりのみの動画もある。

だからカザフ語の「жырау」の方も「ジュラウ」の「叙事詩語り」と考えて大丈夫ですね。

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(6∀6)シカタケル

じゃあ日本語解説があるカラカルパク喉歌の動画を見よう。

演奏者の名前はЖумабай Базаров師。

動画の曲の題名は日本語字幕で

「お説教　カラカルパクスタン共和国」

Жумабай жыраў Базаров

https://youtu.be/1L_yVsCVcL0

Жумабай жыраў БазаровТелеграм каналымыз t.me/baqsilar

youtu.be

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(ŎᴗŎ)シカハタビ

日本語のナレーションもよく聞いてくださいね。

「カラカルパクはウズベキスタンの一部ですが、カザフと同じような文化を持った遊牧民です」

と語っています。

⊂O–O⊃あしべ

お説教っすかぁぁ？

おや、聞いて見るとコブズのノリがとてもいい。

うわっこれは喉歌だ！

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(6∀6)シカタケル

ではЖумабай Базаров師の動画をもうひとつ。

坂井教授のレポートに「エディゲ」があったろう？

この動画はそのエディゲの演奏の一部だ、レポートとは違う奏者になってしまうが。

Каракалпакский эпос Едиге (отривок) - Жумабай Базаров

https://youtu.be/xBHrTCBTDA8

Каракалпакский эпос Едиге (отривок) - Жумабай Базаровавтор: Карл Райхл - профессор средневековой литературы и исторического языкознания Института англистики, американистики и кельтологии Боннского университета ...

youtu.be

⊂O–O⊃あしべ

YouTubeで見られるカラカルパクの喉歌の中で、一番古い時代の方がЖумабай Базаров師らしいですね。もちろんもっとお若い叙事詩語りの方もいる。

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(6∀6)シカタケル

ではあしべ、坂井弘紀教授の論文を漁って、エディゲを中心にカザフとカラカルパク、そしてノガイについてかんたんにまとめろ。

⊂O–O⊃あしべ

「ノガイ大系」は、カザフ、バシュコルト、カザン=タタール、クリム=タタール、カラカルパク、ノガイなどといったキプチャク草原の諸民族に伝えられているそうです。

・その内容はノガイ・オルダの興亡

・ノガイ・オルダの創始者がエディゲ

・エディゲはチンギス・ハンの血統ではなかったけど、ノガイ・オルダはキプチャク草原にひろく影響力をおよぼした

・カラカルパク人はノガイの子孫で、その多くはウズベキスタン共和国の中の自治共和国であるカラカラパクスタン共和国に住んでいる

・ノガイ・オルダの故地の一部は、カザフスタンの前身のカザフ・ハン国に吸収されており、それは現在でもカザフスタン共和国の西側の領土の一部

・ディアスポラのノガイ人の一部はカザフ・ハン国へ向かった

・ノガイの口承文学や詩人の流入がカザフ人の詩の伝統の始まり

・カラカルパク人とカザフ人の口承詩の文化は共通する部分が多い　

「ノガイ大系」は、キプチャク草原の人々に共通した連帯意識の象徴であったと考えられルナとのことです。

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(6∀6)シカタケル

カラカルパクとカザフのノガイ・オルダを介した深い関係が以上で説明できた。

カザフ・ハン国に吸収されたノガイ・オルダの一部はカザフスタン共和国の西部にあたり、カラカルパクスタン共和国はカザフスタン共和国の西南にある。

喉歌の発信地であるトゥバ共和国やアルタイ共和国はカザフスタン共和国の東側で、ここからカラカルパク人に喉歌の文化が伝播した時に、カラカルパクと文化的に近い関係にあるカザフ人のテリトリーを素通りしたとは考えにくい…。

…とまぁ、直接証拠ではない状況証拠だが、これをカザフスタンに残っている喉歌（komei,көмей)の文字資料と合わせれば、カザフの喉歌の存在を否定することはできないと思う。どうだあしべ？

⊂O–O⊃あしべ

はい、カザフの喉歌throat singing（komei,көмей)の存在は否定できないですよね。

直接証拠を見つけられなかったのは残念ですが、これは将来に期待したいです。

ノガイ、カラカルパク、カザフの関係をまとめた時に参照したの論文は以下です。全て坂井弘紀教授の論文です。

「ノガイ大系」における主人公の「移動」の特徴 - ~ 「エル=タルグン」

https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900023306/KJ00004165989.pdf

坂井弘紀論文カザフの英雄叙事詩　エル=エディゲ

https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900022853/Sh-H0106.pdf

中央ユーラシアの叙事詩に謡われる「ノガイ」について

https://src-h.slav.hokudai.ac.jp/casia/sakai-ron2nogai.html

カザフ口承文芸における「ノガイ大系」の影響ーー「オラクの詩」を題材としてーー

https://ko-sho.org/download/K_024/SFNRJ_K_024-12.pdf

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(6∀6)シカタケル

最後にまとめよう。

次の次の投稿「カザフの喉歌（komei,көмей)がカザフの嵐(tökpe, төкпе)を演唱する。1/2」で、カザフスタン西部をもう一度取り上げる。

Махамбет Өтемісұлы、

Qūrmanğazy(Құрманғазы)、

tökpe(төкпе)。

これらはカザフスタン西部の口承文学と音楽を代表する存在だ。

そして＂ある特定の＂喉歌（komei,көмей)の舞台となるのがカザフスタン西部だ。

そこはかつてノガイ・オルダがあった土地なんだが、カザフ語が全く分からんブログ主では残念ながら、ノガイの音楽とこれらが関係しているのかどうかを調べるのまではできなかった。

Nogaju_orda.svg: Ausis derivative work: Hoodinski (talk) • CC BY-SA 3.0

/")/") 次回の投稿は

( ŎᴗŎ)「ドンブラの完全(шертпе)と弦楽器の始原（三人童女埴輪）、そして「全集中　弦の呼吸)」でございます。

カラカルパクとカザフの喉歌