[憲法改正⑧~竹田恒泰の憲法改正講義 下(2)~のつづき]


    [自民党は憲法改正ばかりを議論し守るべきものをしっかり議論しない]

――昨今、憲法改正論議ばかりが熱を帯びているイメージがありますが、確かに「守るべきものは何か」もよく論議されるべきなのでしょうね。

 私はいわば「護憲的改憲派」。憲法の変えるべきところは変え、守るべきところは守る、という立場です。憲法改正論者の意見を聞いていると、特に保守派は「ここもダメ、あちらもダメ。日本国憲法は悪の権化だ」とでも言わんばかりです。それは「国体の破壊」につながってしまう。私には、保守派の学者たちは革命でも起こしたいんじゃないかと思えます。

 少なくとも1条と2条(皇位継承についての規定)、13条(個人の尊重、幸福追求権及び公共の福祉についての規定)は守らなくてはいけないし、一方で9条を変えるべき、というのが私の主張です。

 ところが自民党の国会議員らは、「どの条文を変えるべきか」を議論する一方、「どの条文を守るべきか」を聞くと、皆「考えたこともない」と固まってしまう。そんな人たちは、「保守」を名乗ってはいけない。「ここを守りたいからこそ、ここは変えるべき」というのが、本来の保守派の議論。まずは憲法を守る議論を十に分に尽くした後で、改正ポイントを考えるべきです。

私が自民党の憲法改正案にリスクを感じるのは、まさにそこなのです。憲法を守る議論を尽くさずに、96条の先行改正や集団的自衛権の解釈変更ばかりが取り沙汰されるのは、やはり不健全。きちんと議論をしていれば、そんな話にならないはずなのです。

[「改憲のための改憲」ではダメ 最大の焦点は憲法論議の進め方]

――改憲を唱える国会議員たちも、憲法調査会や超党派の勉強会などにおいて、様々な議論を尽くしているはずです。なのに、どうして公には表層的な議論ばかりが出て来るのか。国民には、その成り行きがよくわかりません。

 その原因の1つは、憲法学界などを中心に、日本の憲法学者たちがほとんど護憲派であること。しかもそれは、「9条死守」を中心とする護憲派です。

 ただ護憲派と言っても、「1条や2条は将来改めて考えればいい」などと言っており、要は「9条さえ守れば日本の平和は守れる」と思っている左派的な人たちなのです。「1条を守ろう」と唱えているのは私くらいのものだし、その議論に入って来る学者もいません。

 以前のように、憲法改正を唱えるだけで「右翼」と言われた時代は不健全ですが、今のように「とにかく憲法を叩き潰せばいい」という風潮も不健全ですよね。やはり、物事には光と影があると考えるのが健全なのです。

 だから私は、自民党には憲法改正に費やす倍くらいの時間を、憲法研究の時間に充ててほしいと思う。そういう空気にならないと、やはり自民党の憲法改正論議は危なっかしくて、見ていられません。

――では、自民党の憲法改正案をかなり注意深く観察しているわけですね。

 評価できるところとできないところは混在していますが、改正案そのものについてはそうですね。

繰り返しますが、問題は改正案の1つ1つというよりも議論の進め方。憲法を全部守り続けようとしたら、実態と理想が乖離して国は混乱するので、バージョンアップは必要です。しかし、全て変えたらそれは革命になってしまう。今必要なのは、まさに「護憲的改憲」の考え方です。96条の先行改正を唱えた自民党のように「改憲のための改憲」になってしまってはいけません。

 私は個人的に、政治家としての安倍首相には好感を持っています。だから、安倍政権がずっと続く保証があるなら、96条を改正してもいいと思う。しかし、もし性急に改正した後に、かつての鳩山政権のような内閣が登場したらと思うと、恐ろしくて夜も寝られません(笑)。

竹田恒泰(たけだ・つねやす)
作家、法学者、専門は憲法学。慶應義塾大学法学研究科(憲法学)講師、担当は「憲法特殊講義(天皇と憲法)」。1975年生まれ。東京都出身。旧皇族・竹田家に生まれ、明治天皇の玄孫に当たる。慶大法学部卒。