本日、安倍内閣は地域を限定して規制緩和を進める
「国家戦略特区法案」を閣議決定したようです。

この法案が通れば、特区が創設できるようになり、またその特区内で実施する
具体的な規制緩和も盛り込まれております。
担当の新藤総務大臣は「この法案は、日本経済再生のための『第3の矢』である
成長戦略の重要な柱の1つだ」と記者会見で述べたようだが、果たして?

「3本の矢」の三本目となる「成長戦略」でありますが、6月に公表された
第一弾はの中身は、そのお粗末さから市場だけでなく一般の国民からの評価も
低かったと思える。10月に提出された経済産業省主導の「産業競争力強化法案」
もそうだが、「国家戦略特区法案」はどう評価されるでしょうか。

あの竹中平蔵氏は今回の法案には不満のようで、10月1日の産業競争力会議で、

「国家戦略特区は、成長戦略の最重要政策。国家戦略特区を軸に、岩盤規制を打破
 していかなければ、経済の成長はあり得ない。 これまで、国家戦略特区ワーキング
 グループを中心に、当競争力会議の立地競争力分科会もサポートして、関係省庁
 との協議を進めてきた。
 岩盤規制を含め、相当の前進もあったものの、まだ課題は多い。
 特に「雇用」分野は、残念ながら全く前進がみられないと評価せざるを得ない」
(第14回産業競争力会議 資料4「成長戦略の当面の実行方針」についてから引用)
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai14/siryou4.pdf)

と表明しています。

この「雇用」についてですが、安倍内閣参与で京都大学大学院教授の「藤井聡」
先生が、述べている記事がありました。興味ある方は、ご一読を。


【藤井聡】雇用に関する興味深い記事
(http://www.mitsuhashitakaaki.net/2013/11/05/fujii-62/)

国会では今,様々な論点が議論されています.

そんな中で,今国会で注目されているのが,「特区」の構想です.

この特区構想はアベノミクス第三の矢の一つの具体的な取り組みとして
構想されているものです.

アベノミクスの目的はもちろん,デフレ脱却.

今回の議論は,そのデフレ脱却を図るにあたっては内需の拡大が必要で有り,
そのためには,様々な「投資」が誘発されることが必要で有り,
そして,そんな「投資」を呼び込むための起爆剤として,
この特区が構想されている訳です.

言うまでもありませんが,国会という場所は,様々な意見がぶつかり合い,
様々に議論していく場所です.

したがって,この特区構想についても,賛否両論含めた,様々な議論が
なされています.

そんな中,この議論について,次の様な大変興味深い記事がありました.
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20131020/254790/?P=1

この記事では,アメリカのSASという統計ソフトの会社が紹介されています.
#ちなみに,このソフトウェア,筆者は若い頃,使い倒したソフトです.
今はSPSSに寝返ってしまいましたが(笑).

SASは,あの自由の国,アメリカ,今回の特区構想においても大いに
(少なくとも間接的には)参照されたであろう,あのアメリカの企業です.

が!

このSASという企業,何と「終身雇用」に近い雇用システムを掲げている
ようです.

で,「それによって」過酷な自由市場でのマーケット競争に打ち克つ競争力を
獲得している,とのこと.

こういうことは,「企業の活力が奪われているのは,終身雇用的な日本型経営が,
なぁなぁの怠惰な雰囲気を会社にもたらされてしまうからだ.雇用を流動化させる
ことこそが,企業活力を増進し,市場を活性化するために必要なのだ!」的な
意見を,反証する事例となっています.

が!

実を言いますと,このSASの事例の様な事が起こるのは,実証的にも,
理論的にも当然のこととして,過去の研究の中で明らかにされている事なのです.

もう絶版になってしまいましたが,例えば下記書籍などに,そのあたりのことは
詳しく書かれています.

http://amzn.to/171P7Es

ちなみに,この書籍の著者とは,当時よく一緒に議論したり共同研究したりして
おり,例えば,次の様な研究をやっていたりしました.

Forced commitment promotes attitudinal commitment and trust in an
organization
(http://www.union-services.com/shes/jhes-3.htm をご参照下さい)

この研究では,このタイトルの通り,

1)組織を重視して,少々強制的に組織運営をする組織(Forced Commitment)ほど,

2)メンバーはその組織に対する愛着(attitudinal commitment)を深めると共に,

3)そのリーダーは高い信頼(Trust)を得る事ができる,

ということをパネルデータで明らかにした研究です.

こういった研究は,一般に「組織心理学」と言われますが,何にしても,
組織のパフォーマンスというのはそのメンバーの様々な愛着やコミットメントに
大きく依存するものであって,そういった心的要因は,様々な要因に大きな
影響を受けるものである....ということです.

ですから,SASを論じた上記記事での,筆者の主張というのは,
至極真っ当な者である可能性が十分考えられる...と言う次第です.

で,こういった研究の全てが含意(imply)しているのは,

「企業組織は生き物であって,
そのパフォーマンス(あるいは,『競争力』)は,
その組織の『活力』に依存している」

ということです.

ここに,その(集団的なレベルで想定される)組織的活力というものは,
心理学的な個人レベルで想定される「愛着」「リーダーへの信頼」等と関連する
もので,組織というものを一個の有機体と見なした際に感得されるものです.

もちろん,こういう心理学的,あるいは,社会学的な議論は,マクロ経済の視点に
立てば,極めてミクロなもので,全体の無数にある企業の一部が活性化した
ところで,また,労働者の一部のやりがいなどが活性化しあっところで,マクロ
経済全体に及ぼす影響は小さい,ということは避けられません.

しかし!

「雇用政策」というマクロな視点での政府の取り組みは,日本国内の全ての
企業のあり方に,抜本的な影響を,長期にわたって及ぼすものです.

で,そういう「企業のあり方」は,それぞれの企業の「活力」に極めて大きな
影響を与えることになるのです.

したがって,今回,国会で検討されている「雇用政策」,すなわち,
「流動性を高める」,さらに言うなら,
「Forced Commitmentを低下させる自由化の方針」が,組織愛着や組織への信頼,
さらにはそれらを構成要素とする「組織の活力」にどの様な影響を与えているか,
ということを考えることは,重要な論点の一つではないかと...思います.

是非とも,こうした指摘が存在することも含めた多様な論点を踏まえつつ,
適正なご議論を国会の先生方にして頂くことを,心から祈念申し上げたいと
思います.(FROM 藤井聡@京都大学大学院教授)
[三橋貴明の「新」日本経済新聞]