神戸市に流れる生田川に建てられた〈布引三十六歌碑〉

 

六甲山の麓に、東西のトンネルの間に新神戸駅が位置する。

駅を地上まで下りると、眼下に生田川が流れる。

北に向かって駅ビルを潜り抜け、六甲山を登っていくと、真っ白な絹糸の束を垂らしたような滝が目の前に現れる。布引の滝と称されている。

ハイキングコースになっていて、多くのハイカーがほとんど毎日訪れる。

すぐ西の方を見上げると、新神戸駅から布引ハーブ園に上るロープウェイが頭の上を通り過ぎていく。

 

布引の滝は、その名のとおり、布を引いたような細い滝に目を奪われる。その美しさを観に訪れた歌人たちが詠んだ歌が、歌碑に遺されている。

〈布引三十六歌碑〉である。

 

布引の滝は、上から、雄滝(おんたき)、夫婦滝(めおとだき)、鼓ヶ滝(つつみがたき)、雌滝(めんたき)の四つの滝からなる。総称して布引の滝と呼ばれる。

雄滝

 

雌滝

 

滝へ上っていく道沿いに歌碑が配置されている。

 

  

 

平安時代から江戸時代にこの地を訪れた歌人たちが詠んだ三十六の歌の中から、平安時代の歌をいくつか紹介します。

 

在原業平

 ぬきみたる人こそあるらし白たまの まなくもちるかそての狭きに

 

紀貫之

 松の音琴に調ふる山風は 滝の糸をやすけて弾くらむ

 

源 俊頼

 山姫の嶺の梢にひきかけて 晒せる布や滝の白波

 

藤原定家

 布引の滝のしらいとなつくれは 絶えすそ人の山ちたつぬる

 

藤原盛方

 岩間より落ち来る滝の白糸は むすはて見るも涼しかりけり

 

藤原良経

 山人の衣なるらし白妙の 月に晒せる布引のたき

 

藤原 良清

 音にのみ聞きしはことの数ならて 名よりも高き布引の滝

 

 

京の都が中心の時代に、文化人たる公家たちが、神戸の布引の滝を観ようとやってきたことが、歌人たちによって詠まれた歌から窺い知れる。

歌に詠まれるほどの見事な景観は、昔も今も人を惹きつける魅力を持つ。

 

神戸市には、多数の石碑があちこちに設置されている。

そしてこの地、生田川の布引の滝に登っていく道沿いには歌碑に刻まれた歌人たちの歌が、人々の心を惹く。

布引の歌碑を通じて、世界遺産・日本遺産ばかりでなく、価値ある遺産や美しい景観を大切にすることが、地域経済にとっても大事なことだと、認識を新たにする思いである。