イランのライシ大統領が、ヘリ墜落により死亡した。

数百万人もの民衆が、道路を隙間なく埋め尽くすほど集結し、大統領の死を悼む。

このニュースを見て、かつて仕事で度々訪れたイスファハンのことが偲ばれる。

 

イスファハンは、イラン北部の綺麗な、静かな町。

イランの観光地となっているが、外国の観光客がほとんど訪れない。

私は、この町を訪れるのが楽しみの一つだった。

川幅の広い、ゆったりと流れる川の両側に幅広い畔が公園のように広がっていて、市民の憩いの場となっている。

その川の畔に沿って、いくつかのルートを散歩するのが楽しみの一つだった。

 

食の楽しみもあった。

ひつじの肉がとても柔らかく、いろいろな料理があったが、中でもキャバブと言って、串にさして炭火で焼いた肉が好きだった。分厚い肉の塊だが、柔らかくて肉汁がじわっと口の中で広がり、最高に美味しかった。

イスラム諸国では、羊が放牧される光景を目にすることがある。その羊が、祈りを捧げた後にと殺されるのを目にしたこともある。日本でも、ハラルミートを提供する店を目にするようになってきた。

イランを訪れなくなり20年近くなるが、イスファハンのキャバブをもう一度食べてみたい、と無性に思うことがある。

 

いつの頃だったか定かではないが、日本のドラマ「おしん」が、イランのテレビで放映され、ほとんどすべての家庭で家族みんなが見ていると思えるほどものすごい人気となっていた。

涙しながらドラマを見るそうだ。

「日本と同じ状況を自分たちも味わってきた。同じだ、まったく共感する。自分たちもこんな貧しさ・苦しみを潜り抜けてきたんだ」と口々に明かし、心が繋がっていった。今もきっと、多くのイラン人は、日本人に対し好意的な気持ちを持ってくれていることだろう。

「イランは、アメリカと断交し対峙しているが、苦しみのある中で、みんなが向き合っている。こんな真似を他国はできないだろう。自分たちは決してくじけない」と力強く語っていたのが印象的だった。

 

日本に居れば、こんなイラン人の感情を知ることができない、と思う。

イスラム教徒に、テロや好戦的などの凶悪な印象が付きまとうかもしれないが、一人ひとりの人間としてみれば、心が通じ合うことを深く心に刻むことができた。

 

大統領を乗せたヘリコプターは、アメリカ製の古いタイプのものだったと聞き、当時のことが脳裏に浮かんできた。