2023年は、暑い夏が長く続き、11月になっても暖かい日が断続していた。

寒気が襲来したり暖かい日が戻ったりしながら、12月下旬になってようやく冬らしくなってきた。

そして2024年の冬は寒暖を繰り返しながら、間もなく春を迎えようとしている。

 

寒さは緊張感を呼び覚ます。寒冷地の空港に降り立ち、荷物を手にして屋外に出た途端、ビシッと顔を叩かれたかのような痛みを伴う寒さに緊張感が心地よく蘇った瞬間が、妙に忘れられない。

寒くても暑くても、そこに住みつき生活する人々がいる。

当り前のことではあるが、信じられないと驚いたことを何度も経験した。

 

みかん園に親に連れられ寒さに耐えた幼少期を過ごした。自分は辛抱強い方だと思っていた時期があった。あの寒さの中で我慢した経験があるのだから――と思っていたのであるが……。井の中の蛙であった。

 

零下10℃を下回る、中国東北地方の建設現場での出来事。

現場は冬でも工事は継続する。零下15℃以下でも現地の労働者たちは作業を続けた。屋外の仕事だから、作業中はその寒さから逃れられない。しかも作業は、凍傷しそうな金属表面を素手で触って計測しなければならないものだった。彼らはこんな厳寒のなかで作業することに慣れているからできるのだろうか? 

この寒さでは30分ほどしか現場に居続けられなかった。手と足の指先が痺れて痛む。防寒服は現地の綿入りの重いものを着込む。が、指先の寒さが凌げない。懐炉を靴の中に入れてみると靴の中では収まりが悪くて歩けず、厚手の靴下を2枚重ねる。

そんな工夫をしながら、厳寒地の建設現場の冬を越した。蛙の最初の屈辱だった。

 

ハンガリーで、昼は会社の食堂で社員と一緒に食べた時のこと。

脂べっとりの豚肉料理が毎日のように出され、胃が受け付けない日があった。彼らはそれを常食としていて、体質も関係するのだろうが皮下脂肪が厚い。春先のまだ長袖を着て肌寒く感じるくらいの日でも、天気が良くなると、外で水着になって日光浴するのを見た。

近ごろ、涼しくなっても半袖短パン姿の訪日外国人を見かけ、つい目を逸らしたくなることがあるが、正に皮下脂肪の厚みの違いだと合点した。

 

真冬の厳寒のなかで裸同然の姿でストリートパフォーマンスする人を目にしたことがある。彼らは寒さを耐え忍んでいるのではなく、楽しんでいるかのようだった。

 

アフリカ人は、毛穴が開いて暑さを凌ぐ体質になっているため、寒い所に行ってもその毛穴が閉じ難くて、寒さに耐えられない、遺伝的な体質だそうだ。環境に適応したDNAが育まれてきたのだろう。

 

小鳥は今日も寒さの中を飛び回っている。鳥は適温の範囲が広いのかもしれない。飼い鳥は飼い主が対策するが、渡り鳥は適温を求めて移動する。

動物は生息する地域に適応できる体形が異なるようだ。

寒い地域に生息する動物は、大型動物になる傾向があるらしい(体積に対し比表面積が小さくなり、熱の放出が防げる理屈)。

北海道に棲む蝦夷鹿は、本州の鹿より大柄だそうだ。

寒冷地では、大型で皮下脂肪を多く蓄え、寒さに耐える体質をつくる。

 

環境に適応する形はいろいろだが、遺伝的な体質、環境に適した習慣や訓練などがある。各地を転々としている内に寒さ・暑さに適応して生きる姿があることを、井の中から飛び出した蛙に教えてくれた。