薄暗くなった公園で
女子高生がひとりブランコに乗っているのが見える

ゆっくりと…
ゆっくりと…

ギーコ…ギーコ…
金属音をたてている

ゆっくりと…
ゆっくりと…

だが不思議な事に
その女子高生の両隣のブランコ
二つとも
同じように
揺れているのだ

ギーコ…ギーコ…
ギーコ…ギーコ…

ごめんなさい
何故?
とても理解できない
あれは何?

何かのトリックなの?
見えない誰かがこいでいる?

幽霊…?

ギーコ…ギーコ…
ギーコ…ギーコ…

女子高生は何やら楽しそうに独り言を話している
時折笑ったりしている

ギーコ…
ギーコ…

少し離れた場所で偶然居合わせた
若いカップルがその光景をスマホで撮影している

SNSにでもあげるつもりなのだろうか?

ゆっくりと…
ゆっくりと…
 
ブランコが揺れている
ブランコが揺れている




放課後
シュンくんとケイちゃんと
いつもの公園で待ち合わせた

夕暮れでもあり
ひとけもなく
子供もひとりも遊んでいなかった

公園の奥には数台の遊具が置いてある

三人はブランコに乗って話しはじめた

ギーコ…ギーコ…
ギーコ…ギーコ…

家族のことを順番にはなした

母がより一層壊れてしまったと感じたこと…

弟が幽霊を目撃したらしく
お姉ちゃんみたくなっちゃう…って
泣かれたこと…

そして
亡くなったはずの愛猫
茶々のこと…

きっと私達家族を守る為に
戻って来てくれたんだ…


ひととおり私の話を聞き終えると
シュンくんがブランコから飛び降りこう答えた

「よし今夜決行しよう」

びっくりした…

「仲間とかもっと集めなくて大丈夫?」

「大丈夫」

「僕達に任せて」

「うんうん」

ケイちゃんも隣で数回うなずいた

「悪霊って言ってもあっちは所詮ひとりだし」

「それに女の子だろ」

「でも凄く邪悪で強いのよ」

「陰険だし頭もきれる」

「心配だよ」

「大丈夫」

「それに僕は戦うつもりはないから」

「え…?」

「話してわかってもらうつもり」

「話してわかるようなやつではないと思うんですけど」

「僕はもともと暴力反対」
「平和主義だから」


「でも殴りかかってきたらどうするの」

「そのときは、そのときだよ」

シュンくんはいつもの優しい顔で笑った

「その時は私がシュンを守ってあげるから」

ケイがふざけた口調でそう答えた

「私だって守るよ」

「シュンの事もケイの事も」

「命がけで」

「二人は私にとって凄く凄く大事な友達だから」

本当にそう思った

生きてる人間が
死んでる人間を
命がけで守るなんて
変かもしれないけど
本当にそう思った


「マキの家に遊びに行くのって初めてだね」
シュンが嬉しそうに言った

「正確には遊びに行くでは無いけどね」
ケイがまたふざけた口調で答えた

「ほんとだよ」
私も自然に笑顔になった


いつの間にか辺りは暗くなっていた
バス停まで歩いて
そこからバスに乗った

幸いバスの中は空いていた
一番後ろの席があいていたので
そこに三人は座る事にした

シュンを真ん中に
ケイが右側
私が左側

「両手に花だね」

ケイの言葉にシュンの顔が赤くなった

私は
プッと大きな声で吹き出した

すると…
数列前の座席のサラリーマンが嫌な顔をして
こっちを振り返った

私は慌ててを目をそらした

「ねぇ…ひとつだけお願いがあるんだ」

「お願い?」

「うん」

「二人にお願い」

「シュンくん急にどうしたの」

「何?お願いって…」

「これが無事解決したらさ」

「三人でボーリング行かない」

「え?」 

「ボーリング?」

「うん」

「生きてる時はよく友達と行ってたんだ」

「いいね」

「私も死んでから一回も行ってないや」

「てゆうか生きてる時もあんま行った事ないけどね」

笑いながらケイが言った

「楽しそうだね」

「楽しいよ絶対」

「それいいね」

「行こうよ」

「三人で行こう」

「うん」

「行こう!!行こう!!」

また興奮してつい大きな声をだしてしまった

さっきのサラリーマンがまたこちらを振り返って
また嫌な顔をした

頭のおかしい変な子がいるとか
思われたかも

「まぁいいか…」


別に殺される訳でもないし

慣れっこだ

それよか楽しい時間を邪魔されたくない

私は辺りの目を気にせず話し続けた…

独り言を話す頭のイカれた女子高生がいたとしても
 どうという事もないだろう

別に悪い事をしてる訳でもないし
友達と話してるだけ

そう友達と話してるだけなんだ

「次のバス停で降りるよ」

「うん」

「いよいよだね」

バスから降りる際に
あのサラリーマンの横を通った
わざと私の方を見ないでいる

「うるさくしてごめんなさい」

私はペコリとお辞儀だけして
バスを後にした

「家までもうすぐそこだよ」

「緊張してきた」

「大丈夫だよ」

シュンが優しくそう答えた


「なんか今日はシュンが男らしく見えてきたな」

ケイが話す

「よせよ」

「凄いドキドキしてんのわかんないの」

「え?」

「幽霊も胸ドキドキするんだ」

「勿論だよ」

「そりゃするよ」

「私もドキドキしてきた…」

「やっぱりやめようか…」

「何言ってんのここまできて…」

「それでどこ?」 
「家は…」

「そこの角を曲がったところだけど」

「そっか」

「よし」

「じゃ行こう」

「ごめんなさい」

「えっ…?」

「ごめんなさい」

「やめよう」

「やっぱりやめようよ」

「なんでマキちゃんが謝るの?」

「そうだよ」

「私達友達じゃない」

「嫌な予感がするの」

「凄く嫌な…」

「二人がいなくなっちゃうような…」

「このまま放って置けないよ」

「マキちゃんのお母さんや弟さん…」

「それに茶々も…」

「でも二人に何かあったら…」

「大丈夫」

「僕らは死ぬことは無いから」

「そそ」

「私達は死んでるもんね」

「ごめん何だかそれ笑えないよ」

家の前に立ち玄関の前でフウっと息をはいた

私が鍵をあける

「よし行くよ」

シュンが玄関のドアに手を伸ばした

瞬間…

ガチャッ

こちらが開けるよりも早く
玄関のドアが開いた!!



…つづく