お父さん

今日は何時に帰ってくるの
今日は何時に帰ってくるの

ごめんなさい
ごめんなさい

はやく帰ってきて
お母さんの事が心配なの

ごめんなさい
ごめんなさい

ヒロくんが寂しがってるよ
私だって寂しい

ごめんなさい
ごめんなさい

向かいにいくよ
今から向かいにいくよ



「マキ」

「マキ」

「元気か…」


「お父さん」

「お父さんだよね」

ツー  ツー ツー ツー ツー ツー

そう喋ったあと通話は途切れてしまう…


「お父さん」

「お父さん」


すぐに掛けなおす

貴方のお掛けになった電話は現在電波の届かない場所におられるか、電源が入っておりません


「どうしょう…」

「つながらないよ」

何度描けても同じだった

「お父さんを向かいに行こう」

隣から声が聞こえた

「シュンくん」

「いつからいたの?」

「いつからってずっといたじゃない」


「とりあえずお父さんの会社に行ってみよう」

「駄目もとでもいいじゃない」

「お父さんもきっと向かいに来てほしいはずだよ」

「うん」

「そうだよね」

「そうだよね」


私達は最寄り駅から電車に乗って
お父さんの会社に向かうことにした

改札をぬける際

「僕も電車賃払わないといけなくないかな」

「なんかいけない気がする」

などと妙に真面目な可愛いことを呟いていた
 
「そうだよね」

私はシュンくんの分も切符買って彼に手渡した

「なんかごめんね」

「無駄なお金つかわせちゃって」

「なんでシュンくんが謝るの」

「私の事に付き合って貰うんだから当然だよ」

「ありがとう」

「ありがとうシュンくん


目的の駅に着いた
電車を降りて改札をくぐった
会社までは徒歩15分
Google Mapで調べた


「わたし、なんか胸騒ぎがする」

「大丈夫」

「僕がついてるから」


大きな交差点横断歩道を
青信号で渡ろうとしたところで

プルルルルル…

プルルルルル…

「あっ!」

携帯の着信音がなる

お父さんだ!

慌てて携帯を手にする

「お父さん」

「お父さん」

「お父さんだよね」

返事がない

「もしもし」

「もしもし」

一瞬間があったあと

「マキ…」

お父さんの声がした


「マキなのか」

「お父さん」

「お父さん大丈夫なの」

「何処にいるの?」

「マキ」

「可笑しいんだよ」

「何だかよくわかんないんだ」

「お父さん会社から帰る途中のはずなんだが」

「どうしても駅に着かないだ」

「歩いても歩いても」

「歩いても歩いても」

「どうやっても帰れないだよ」

「大丈夫」

「大丈夫だよ」

「心配しないで」

「今、お父さんのとこ向かってる途中だから」

「きっと会えるよ」

「きっと会える」

「とにかく携帯は切らないで」

「向かいに行くから」

「一緒にうちに帰ろう」

「マキ」

「マキ…」

「ごめん」


「お父さんの携帯電話…充電が切れそうなんだ…」

「だめ」

「だめだよ」

「待って」

「どこがに充電できる場所ないの?」

「馬鹿言え、外にいるんだぞ」

 「近くにお店とかない?」

「どこかで借りれないかな」

「マキ」

「マキ…」

「もうあまり長いこと話ができそうにない」

「お父さん…」

「マキ」

「いいかよく聞いて」

「お父さんはもう帰れそうにない」

「おろらくこれが最後の電話になる」

「不思議だかそう強く感じるんだ」

「だめだよ」

「だめだよそんなの」


「マキ」

「お母さんとヒロのこと宜しく頼む」

「守ってやってくれ」

「お父さん!」

「マキはとても頭のいいコだ」

「きっと守れる」

「マキと最後に話せて良かった」

「お父さん」

「お父さん」

ツー  ツー ツー ツー ツー ツー
通話がきれる

「お父さん」

「お父さん…」

目から涙が溢れた

「マキちゃん!!」

「しっかりして」

「諦めたらだめだ」


シュンくんがそう声をかけてくれた

「お父さんまだこの近くにいるばずだから」

「みつかるかな」

「みつかるよ」

「そうだよね」

「そうだよね」

涙を手でぬぐって
うつ向いた顔をあげた

「あ!?」

横断歩道の先
反対側にお父さんが立っているのが見える
携帯を手にして
画面を覗きこんでいる

「お父さんだ!!」

私にはきずいていないようだ


慌てて駆け出そうとする私を
シュンくんが手を掴んで引き留める

「危ないよ!!」

「赤信号だから!!」

スピードを出した車が数台
目の前を横切る

「待ってお父さんが…」

「お父さんがそこにいる!!」

再び目から涙が溢れでてきた

瞬間頭の中に映像が浮かびあがる

お父さんが
会社から帰宅中に
横断歩道を渡る最に
左折してきた車に跳ねられる
ドン
鈍い衝撃音がする

「お父さん」

場所や物には記憶が宿っているんだとか

「シュンくん」

「シュンくん」

「お父さんどこ?」

さっきまで居たはずのお父さんの姿がない

「消えたよ…」

「すぅーっと消えた」

シュンくんは交差点の中央一点を見つめている

「どうしよう」

「どうしたらいい?」

「きっとお父さん…」
「ここで事故にあったんだね…」

「シュンくんも見た?」

「うん」

「マキちゃん」

「帰ろう」

「え?!」

「お父さんはもうここにはいないよ」

不思議だが私にも強くそう感じた

「うん」

「わかった」

シュンくんの目はいまにも泣きそうに真っ赤になっていた

「ごめんね」

「シュンくん本当にごめんね」

「こんなことに付き合わせちゃって」

「悲しい思いさせちゃって」

「なんでマキちゃんが謝るの」

「謝らないで」

「謝らないでよ」

「そうだよね」

「そうだよね」

「友達なんだから謝るのは変だよね」

「ありがとう」

「ありがとう」

「シュンくん」

「本当に今日はありがとう」



同じ道を引き返し駅に向かった
その途中シュンくんは
私に会わせたい人がいるんだと
打ち明ける

誰だろう?
それは明日のお楽しみなのだとか

帰りの電車でまたシュンくんの分も切符を買った
切符を手渡すとシュンくんは

「幽霊だからいらないって言えはいらないんだけどね」

苦笑いしながら恥ずかしそうにつぶやいた

「こんなことぐらいしかできなくてゴメンね」


「そんな事ないよ」


「凄く嬉しいよ」


「凄く嬉しい」




…つづく

なんであんたが謝るの
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