「はぁ… はぁ… はぁ… はぁ… はぁ…」

夜中に目がさめた
全身が痛かった

膝小僧には大きな擦り傷ができていた

そうだ昨日、私は私を突飛ばしたんだった

「なんで私はあんなこと言ったんだろう…」

「私が私を信じるな、なんて」

「馬鹿げている」

傷口がヒリヒリする…

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」


「なんであんたが謝るの」


「私が私を信じないでどうする」

「私が私を信じないでどうする」


「私は私を信じるんだ」

「私は私を信じるんだ」



「おはよう」

 「おはよう」

「お姉ちゃん」

「昨日うなされていたみたいだけど大丈夫?」

「え?」

「お姉さゃんの部屋から聞こえてきてたよ」

「あ」

「たぶん…私、夢をみていたのかも」

「ごめんね起こしちゃったね」

「大丈夫?」

「大丈夫よ」

「夢だもん」

「夢をみてただけだもん」


ぱーん!

ぱーん!

突然何かが弾けるような音がする


「お姉ちゃん何これ?」

「何の音?」


ぱーん!


ぱーん!


「ヒロくんにも聞こえるの?」

「聞こえる」

ふたりとも動揺しながらあたりを見回す

「お姉ちゃん」

「なんか最近変だよね」

「ヒロくんにもわかるの?」

「わかんないけど何だか気持ち悪いよ」

「僕が僕じゃないみたいだし」


ぱーん!

ぱーん!

威嚇するように何度も何度も音かする


ガシャン!

台所の方でグラスか何かが割れる音がする


「ヒロくんお母さんは?」

「たぶんまだ部屋にいると思うけど…」


あれからお母さんはほとんど口を聞かなくなり
部屋から出て来なくなっていた


「今日は学校休んでお母さんと一緒にいてあげて」

「うん」

「わかった」

「私はお父さんを探しに行ってみる」

「え?!」

「お姉ちゃん本気で言ってんの?」

「うん」

「とりあえず会社に行ってみるよ」

「昼休みとかなら話できると思うから」

酷く困った顔をして…

「言いにくいんだけとさぁ…」

「きっとお父さんは見つからないよ」

「なんで?」

「なんでって」

「本当に覚えてないの?」

「お姉ちゃん」

「お姉ちゃん」

「しっかりしてよ」

「よく聞いてね」

「お父さんはね一年前に死んでるんだよ」

「え?!」

「交通事故で死んでるんだよ」

弟の目には涙を浮かんでいる

弟が嘘を言ってるようには見えなかったが
私は完全に信じることはできなかった

「こないだだって電話で話したばかりじゃないか」

「何かの間違いだ」

「何かの間違いだ」

「何かの間違いだ」

「何かの間違いだ」

バス停まで行くとシュンくんが約束どおり待っていてくれた


「おはよう」

「おはよう」

「良かったぁ」

「本当に待っていてくれたんだね」

「勿論だよ」

シュンくんの手にはマキの生徒手帳が握られている

昨日の別れ際
なんでもいいからマキちゃんの身に付けてるもの
何かひとつ貸して欲しいと頼まれた


幽霊になると極端に短期記憶がなくなるらしい

「今日のことを忘れないように」

「マキちゃんの身に付けてる物を持っていたいんだ」

場所や物には記憶が宿っているんだとか


「マキ」

「マキ」

「え?!」


突然女の子の声が聞こえる
振り替えるとエミが立っていた


「大丈夫…?」

「ずっと独り言喋ってたから」

「声かけずらかったよ」

「あ」

「シュンくんと喋ってた」

「シュンくん…?」

「そう昨日知り合った幽霊」

「私の力になってくれるって」

笑顔の私にエミは酷く困った顔をしている


「どこにいるのよ」

「え?」

「その子どこにいるの」

辺りを見回すがシュンくんの姿はなかった

「シュンくんは幽霊だからエミには見えないよ」

「マキ」

「マキ」

「本当に大丈夫なの」

バス停でバスを待っている他の人達も
不思議そうな顔で私を見ている


プルルルルル…

プルルルルル…

「はっ」

携帯の着信音がなる

「私のだ」

鞄から携帯をとりだそうとする

「何してるの」

「どうしたの」

「携帯なんて鳴ってないわよ」 

エミには聞こえてないらしい

「マキ!」

「マキ!」

「ちょっと待って…」

「お願いだからちょっと待ってて」

慌てて携帯を手にし
画面を確認する


「お父さんだ」

「お父さんから電話だ」

画面にはお父さんの名前と携帯番号が表示されている

「エミごめん」

急いでその場をはなれる

少し走ったあと歩きながら携帯にでる

はぁ… はぁ…
はぁ…はぁ…

話ができない

はぁ… はぁ…
はぁ… はぁ…

息を整えて

「もしもし…」

「もしもし…」

「私…私よ」

「お父さん…?」

一瞬間があいたあと

「マキ」

「マキ」

「元気か…」

携帯からお父さんの声が聞こえた…



…つつく


なんであんたが謝るの
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