お母さんが万引きで捕まった
記憶にない
覚えてない
お母さんは
そう何度も何度も話したが
監視カメラにはバッチリその瞬間が写っていた
あのお母さんが
万引きなんかするはずがない

ごめんなさい      ごめんなさい
ごめんなさい       ごめんなさい

お母さんごめんなさい

厳重注意をうけ
未払いのお金をはらい
陳謝した
初犯ということもあり
今日は帰れることになった

帰りみち一言も話さない母に
不用意にも私は思わず口にしてしまう

「お母さんごめんね」

母は今まで見せたこともない表情をした

「なんであんたが謝るの」

ゆっくりとした口調でそう答えた

ごめんなさい     ごめんなさい
ごめんなさい     ごめんなさい

お母さんごめんなさい



次の日から私はまた協力者(幽霊)を探しはじめた
登校中でも下校中でも
学校内でも
授業中でも
彼ら彼女ら(幽霊)を見つけたら声をかけた
サラリーマン
主婦
OL
学生
オタク
あらゆる人達(幽霊)に話しかけてみたが
相変わらず
話しかけても返答がないものばかり
あっても
トンチンカンな答えばかりだった
とても私のために戦ってくれるような人達
いや幽霊ではなかった

諦めかけていたそんな矢先
突然
後ろから声をかけられた

「あの…」

「僕で良かったら力になりますけど」

私より若干背のひくい
同年代の男の子の幽霊

「えっ」

「本当ですか!」

思わず大きな声がでた
あたりの人がびっくりしてこちらを振り返った

「僕のことが見えるんですよね」

「はい」

「僕の声が聞こえるんですよね」

「はい」

「良かったぁ」

青白い顔をしたそのコ(幽霊)は
笑顔をみせた
私も自然に笑顔になった
幽霊の笑顔なんて初めて目にした

「ダメだよ」

突然厳しい口調で声がした

「お願い目をさまして」

そうはっきり聞こえた

女の声

どこかで聞いたことある声だ…

「…!」

「私だ!」

「私の声だ!」

辺りを見回し後ろを振り返った


 そこにはもうひとりの私
私を信じられない私が立っていた

「自分を信じたらだめ」

「いつもそうやって後悔してきてるじゃない」

「だからあなたは謝ってばかりなの」

「幽霊なんていない」

「幽霊なんて見えるはずがない」

そんなこと言ったって現にここにいるじゃない

青白い同年代の男の子の幽霊の方向を指さした

しかし
そこにはもう
彼の姿はなかった

「最初からいないのよ」

「すべて妄想なの」

「あなたも私も病気なのよ」

「わかってるはず」

「あなたはわかってるはずなの」

「私達は頭がおかしいのよ」

「わかるもんか」

「わかってたまるか」

ドンっと私は私を信じられない私を突飛ばした

「ふざけるな」

「私は私を信じるんだ」

勢いよく転ぶ私を横目に
お構い無しに走って私は私から逃げた

「あんな私は私なんかじゃない」

息がきれるまで全力で走った
どのくらい走っただろう
しばらくして息があごった
立ち止まり膝に手をやり呼吸を整える

「ゼエゼエ…ハァハァ…」

「ゼエゼエ…ハァハァ…」

「ゼエゼエ…」

気がつくと隣でも同じような声が聞こえる

「ゼエゼエ…ハァハァ…」

男の子の声だ

見るとさっきの青白い幽霊が同じように
呼吸を整えていた

「急に走りだすからビックリしちゃた」

「追いついて良かったぁ」

「君、足速いね」

そう笑顔で話かけてきた

「ごめんね」

「ごめんね」

「なんで謝るの」

「謝らないでよ」

そう言って彼はまた笑顔をみせた

私は嬉しかった

私の初めての味方

幽霊でもなんでもいい
妄想でもなんでもいい

君は私の初めての理解者なんだ
一瞬でそう確信した

「まだ名前聞いてなかったね」

「私は久田マキ」

「僕は山口シュン」

「宜しくね」

お互い自己紹介をしたあと
私はいろいろな話をした


邪悪な幽霊のこと

家族が崩壊しそうなこと

私を信じられない私がいること

他にも全然関係ない下らない話もした

私を知ってもらう為
彼のことを知る為

たくさんたくさん話をした

こんなにも気持ちを打ち解けられたのは
生まれて初めてじゃないだろうか


ひととおり話終えて
私は彼と握手をした

彼の手は物凄く冷たかったが
私の心は温かくなった


ありがとう

ありがとう

ありがとう

ありがとう

何回も繰り返し感謝の気持ちが涌き出てきた

…つづく




なんであんたが謝るの
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