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おいで、ゆらりくらり。
ゆらりくらり
はじめてみた光景はひかり。
ひかりがゆらりくらり縦横無尽にながれていた。
一点に焦点をあててみると
ひかりがだんだんかたちを成してくる。
ひかりがひかりでなくなってきて
いろんな色やかたちになってきて
それはおかあさんだった。
つぎにみえたのは
おとうさん。
最初はぼんやりしたひかりの渦だったものが、
おかあさんとおとうさんのかたちになっていた。
とてもあたたかいひかりの正体は
おかあさんとおとうさんだった。
「もう目がみえているんじゃないのか」
という音がきこえた。
「まだみえてないわよ」
という音も。
「だっておれをみてるぞ」
と弾んだ音がきこえる。
嬉しそうな音だ。
もっとよく見たいと思って、
またよく焦点をしぼって見ようとすると、
おとうさんのすがたを成していたものが、
また光の渦に戻った。
ひかりに戻ったりおとうさんに戻ったり。
おかあさんのかたちを成していたひかりが
さらにいっそう輝いたと思ったら、
わたしという意識はその輝くひかりの渦の中に包まれていた。
「お腹がすいたのね」
という音が間近できこえる。
なんておだやかでこころよい音。
輝いているひかりの渦のなかで
焦点が合わなくなってしまった。
あまりにも輝かしくて。
ただただあたたかい。
有機体特有のあたたかさ。
これが有機体というものなのか、と
わたしという意識は感嘆する。
ゆらりくらり
ひかりの渦をおかあさん、と思うとそれはおかあさんのかたちになる。
ひかりの渦をおとうさん、と思うとそれはおとうさんのかたちになる。
じつに愉快になった。
「わらってるよ」
「わらってるね」
また音がきこえる。
たのしそうな音だ。
「まだ目がみえていないのに笑ってるぞ」
いいえ、もう見えていますよ。
ただ、まだちょっと光の渦が強過ぎて…。
ひかりの渦がゆらりくらりと波を成す。
ゆらりくらり
あたたかいゆらりくらり
わたしという意識は決めた。
このひかりを放つ、ふたつの有機生命体を愛そうと。
どうやら、
このふたつの有機生命体の名を
そしてわたしという意識体は
このわたしという意識を眠らせて、
一つの有機体として機能しようと決めた。
「意識の旅」一部抜粋