梅雨の中、清美は彼氏の清彦と一緒に水族館にデートに来ていた。


雨のデートというのはいつも頭を悩ます。


どちらかといえば、デートを決めるのは半々の割合なのだが、


こう2年も続いて付き合うと、行く所がワンパターンになってくる。


そうすると、自然に新しい所か、決まりきった所になるのが定番。


今回もそうだ。


なんやかんや、喧嘩までして決めたのは清美だった。


前日の事だ。


「明日のデートどうする?どっか行きたい所ある?」

清美は少し、いつもの事のように話始めた。


「そうだなぁ~明日はどうせ雨だろうし、難しいなぁ~、

 行きたい所でいいよ。」


清彦はどちらかというと、こういうときの決定権がなく

はっきりしない性格だった。


「またぁ~最近、私ばっかよ、決めているの!」


「そういうなよぉ~、お前の主張を尊重しているんだから。」


「そういうのを尊重って言わないの!相手任せっていうの!」


すこしづつお互いに、喧嘩口調になりつつある。


これもいつものパターンだ。


マンネリというより、多分面倒くさくなるんだろうなぁ~

そんな事を思いながら清美は、切り出した。


「それじゃあ、屋根のある所っていうのはどう?」


「おっいいねぇ~、さすが清美!ナイスアイデア。」


「もぉ~、たまには清彦もそのナイスアイデアっていうのを出してよぉ~。」


「そうだなぁ~でも、清美には敵わないし…あはっ。」



確かに付き合い初めは男らしくって、引っ張るタイプな感じだった清彦だったが、

それも、今となれば逆の立場になり、上手くやっている。


とこういう感じで、今日は水族館に来ている。


さすがに、水族館は外が雨だけに、混んでいる。


まだ来た事がないとはいえ、有名なサンシャインの水族館でしかも

日曜日。少し、無謀だったのかもしれない。


「おっ、さすがに混んでいるなぁ~、人気だし、しゃあないなっ!」


「そうねぇ~、さっ行こっ。」


かなり混んでいたので、足早に館内をすすむ二人。

人気のペンギンの前や、熱帯魚の前は夏休み前の小学生が

群れをなしていた、ゆっくり鑑賞どころではなかった。


「なんだ、これ、全然見れないなぁ~、なんだよぉ~、もぉ出るか?」


「えぇ~まだ来たばっかりじゃないの!こっちこそなんでよぉ~だよ。」


「だって、これじゃあさぁ~楽しめなくない?」


「もう少しすれば、空くだろうし、ちょっとくらいい我慢できないの?」


「はぁ~い、すいませぇ~ん。」


清彦は少し、茶化しながら、謝ったのだが、その姿勢が清美は

気に入らなく、ふくれてしまった。


今日のプランだって清美が決めたもので、それを何か否定された感じに

なって悲しくなっていた。


「なんで、こんな事で、ふくれるんだよぉ~。」


「こんな事でも、膨れなきゃいけないのは何でか分からないあなたに

 悲しくなっているだけよ!」


清美の気持ちは正直だ。


その気持ちを解ってあがられない清彦。


清彦も悪気があったわけじゃない。


ちょっとしたすれ違いが起きた結果だ。


お互いがお互い少しでも、歩み寄れば多分分かり合えたはず。


その歩み寄りを、なぁなぁになっている事を、


そろそろ気付いてもいい時期になるのではないか。




結局、清美は水族館を出て、足早に池袋のアーケードをくぐり

駅へと向ってしまった。


それを無言で追いかける、清彦に今後の二人の行方にかかっている


そんな気が少し、してきた。






いよいよ大学に入ってから、初めての夏休みを迎えた晴海。


友人達と一緒に、カフェテラスで旅行の計画をしていた。


友人の香苗が、先頭きって提案してきた。


「初めての夏休みだけど、どうしても行きたい所あるんだけど、いいかな?」


「えっ、どこどこ?」


行きたい所が無かった晴海はその話に喰らい付いた。


「実は、今度留学する男友達が田舎に帰ってくるから、一緒に私の田舎に

 皆で行かないかなぁ~って思っていたの。」


「その男友達って?」


「うん、高校からの友人で、一緒によく馬鹿ばっかりやっていた仲間なの。」


「ってことは、軽い合コンが入るわけねっ。」


次に話に入ってきたのが、派手でBRAND好きな喜美だった。

喜美にしてみたら、田舎なんて…と思う晴海だったが。


「へぇ~その男友達ってかっこいいの?」


「まぁ~顔は悪くないかな。あっちも3人だし、丁度いいかなと思って。」


「そうなんだぁ~、でも田舎の男って…。」


喜美が少し渋り出した。


「それはだいじょうっぶ!一人は外国行ってきたから、一人は東京で、

 一人は大阪で、もう既に都会経験者だしねっ。」


「じゃあ、大丈夫かっ、良かった良かった。」


「で、香苗の田舎ってどこだったけっ?確か東北じゃ~??。」

晴海がうる覚えで聞いた。


「そうだよ、宮城県。まぁ~田舎だけど、いいところだよ。」


皆が一致の元、大学生初めての夏休みの旅行は香苗の故郷に決まった。

男子がいるとしても、女友達との旅行だ、親も許してくれるだろう、

そうこの時は思っていた。


この日帰った、晴海は夕食時に両親と妹と囲む食卓で話を始めた。


「あの話があるんだけど…。」


「どうした、香苗、珍しいな話切り出すなんて。」

父親が答えた。少し、怖いが、銀行に勤めている真面目な性格。


「今度、女友達と一緒に、その子の田舎に旅行に行くんだけど、いいかな?」


「………。」

両親は少し戸惑いを見せながら、顔を見合わせた。


「そうか…、もう大学生だしなっ、いいじゃないのか?母さん。」


「えっ、許してしまうんですか?、大学生でもまだ18歳ですよ、

 そんな、まだ早いわよ。」

母親は、父親に比べるとかなり厳しい。

小さい時から、色々とうるさく、今回も一番の難関は母親だった。


「高校も、卒業旅行私だけいけなかったんだよ、そん時の約束が

 大学入ったらって言ってたじゃない。なんで、なんで、なんでよ。」


小さい抵抗かもしれないが、精一杯の抵抗をした。


親とはこういうものだ。


自分達の都合のいいように、良い様にするもんだ。


その場しのぎで、まるで自分達が正しいかのように。


こういうのは正直うんざりだ。


親にとっての子供は、一生子供のは理解している。


でも、縛り付けるのはどうなのか、そろそろかなりの葛藤が


晴海の中で大きく動き出している。




結局、この時は保留になった。


もう少し近い所にしろや、宿泊を4泊ではなく、2泊までにとか


条件をつけてきたので、一度考える事にした。



親の旅立ちは、やっぱり社会人になってからでないとダメなのか。


晴海はひどく落ち込んだ。






久々に引っ越した、最初の通勤はとても暖かく春の日差しに

恵まれていた、さわやかな朝だった。


俊樹は家の近くのバス停に向った。


最初の朝は、事前に時刻表など調べて、準備万端だった。


バスの来る10分前には既に到着しており、長い列を作っていた

一番後ろに並んだ。


丁度10人位の列だろうか。


並んでいると、慌しく駆け寄る一人のベージュのトンレチコートを

羽織った一人のOL風の女性が俊樹の後ろについた。


「はぁ、はぁ、はぁ。」


その女性は息があがり、今日一日の力をもう既に使ってしまった

勢いで、肩で呼吸をしている。


俊樹は心配そうに横目で見ていたが、女性はトートバックから

バーバリーの縞模様のミニタオルを取り出し、汗を拭った。


その様子を、気付かない様に一部始終見ていた俊樹だったが、

こういう光景は、いつも見ていたことなので、この時は何でも

無かった様に見過ごした。


バスがやがて来て、乗ろうとしたときに、俊樹はいつも持っている

小銭入れを家に忘れたのに気付いた。


「やばいなぁ~忘れた。」


乗ってから気付いたので、後から来たその女性を先に通した。


「先どうぞ。」


俊樹は女性を先に通して、女性は軽い会釈をして、バスの奥へと

進んでいった。


「スイマセン、一度降りますので、先行ってください。」


そういって俊樹は、バスを降りた。


バスは降りたと同時に、動き出し、その反対の方向で歩き出した時、

バスに乗っている、その女性と目があった。


女性は少し、可哀想にという目で、俊樹をずっと追っていた。

俊樹もそれに気付いて、歩きながら、顔だけはずっと

バスを追っていた。


これがその女性との最初の出会いだった。


自宅に戻り、財布を取り、会社を向った。

これが俊樹の引越し初日の出勤だった。




翌日はあいにくの雨で、同じく10分前には傘をさして、

昨日と同じ様な時間で列に俊樹は加わった。


列に並んだ俊樹が程とくして、こちらに向ってくる赤い傘を目にした。


赤い傘の下から覗く服装は、昨日と同じベージュのトレンチコートで、

昨日バスの中からずっと俊樹を見ていた女性だった。


バス停には屋根が付いていないため、傘をさしたまま赤い傘の女性は

俊樹の隣に立った。


俊樹は気付いていたが、女性は俊樹に気付かない様子であったので、

俊樹はそのままバスが来るのを待った。


まもなく、バスが来て乗り込むと、その列のままバスの置くから詰めて行くと

出口付近で、俊樹と女性は立ったまま隣同士になった。


俊樹は、気付かない振りをして、そのまま前を向いたままだ。


女性は傘を静かにたたみ、つり革につかもうとした時に、俊樹に気付いた。


「あっ。」


小さな声を上げて、俊樹は横を振り向いた瞬間、女性と目が合った。


最初に声をかけたのは、俊樹だった。


「どうも。」


会釈をして、女性は笑顔で応えた。


「昨日は災難でしたねっ。自分もギリギリでしたけど。」


女性の声は小さいものだったが、とても通る声をしていた。


「えぇ~本当に。」

俊樹は少し、はにかみながら、照れていた。


「こっちは昨日から初めての出勤で、初日からやらかしてしまいましよ。」


「あっどうりで、見慣れない顔だと思って、見てしまいました。

こんな、小さいな町なので、見ない顔は目立ちますからねっ。」


細いラインの女性は、春らしくピンクのインナーを着ており、

シルバーの星とハートの小さなチャームのネックレスが目に入った。


「そうなんですかぁ~、でもここからでも十分都内に通えて、いいですよねぇ

住めば都なんでしょうけど。」


「どうして、こちらにいらしたんですか?お仕事か何かで。」


「えぇ、会社が紹介してくれて、自分の希望でこの街になったんですけどねっ。

全然知らないんですけどねっ、この辺は。」


「そうなんですかぁ~、私なんか中学の時に引っ越して以来まだ、独立できないで

いるもんですから、実家通いで。」


丁度話しも、いい感じで続いているときにバスは、駅へ着き

出口のドアが開き、人がなだれ込んだ。


二人は同じ駅へと歩き出したが、距離が遠く、その時は会釈をして

別れた。






3日目も雨だった。

俊樹は少し張り切り、お気に入りのオレンジと白の斜めのストライプの

ネクタイを締めた。


バス停に向うと、既にいつも女性は列に並んでいた。


女性は気付かずに、手元にある本に夢中になっていた。


俊樹は最後列に加わったが、女性の方をちらちらと見ていたが、

女性は全く気付かない。


バスが来て、乗り込んだ後、俊樹は何とか近づこうと、女性の居る

最後尾付近まで近づこうとしたが、人の多さに途中で断念した。


なんとか、昨日よりスマートに近づく方法はないかと俊樹は必死に

知恵を絞った。


俊樹は行動に出た。



駅に着くと、バスにいち早く降りた俊樹が向った先は、駅の事務所だった。


俊樹は駅員に何かお願い毎をして、改札をくぐり、その日は何事も無く、

会社に向った。





4日目は、いつもより1時間ほど早く家を出た。

準備があったのだ。


俊樹はいち早く、駅に着き、トイレに向った。

これは少し身を潜める気分だったのかもしれない。


いつもの時間の1時間後にはいつもの女性が改札をくぐる。


その時を待った。



いつも乗っているはずのバスが駅へと着き、その女性も駅へと向い、

同じ時間で、改札をくぐった。


そのときだ。


駅構内にアナウンスが流れた。


「赤い傘をお持ちで、ベージュのトレンチコートを羽織った女性の

お客様、お連れ様がお待ちでございます。駅構内駅員事務所まで

お越し下さいませ。」


女性は、雑音の中で辛うじて急に入った、そのアナウンスに気付き、

駅員事務所に向った。


「すいません、さっきのアナウンスなんですけど、多分自分の事じゃないかと

思うんですけど。。」


「あっそうですかぁ~すいません急に呼び出して、これを。」


駅員は用意してあった、手紙をわたした。


女性は手紙を開いた。


その内容は、、


「急な手紙でスイマセン、実は私はバスで4日前に一緒になった、者です。

お近づきの印でこの、手紙をお渡しします。もしよろしければこれから、

一緒に電車に乗りませんか?もしよければ、その手紙を持ったまま、事務所を

出てください。ダメであれば、手紙を駅員さんに返してもらって、結構です。」


女性は、すぐ俊樹だと気付いたが、名前も知らない、出会って間もない

男性に、少し不安を覚えたが、女性も少し気になってはいたので、

手紙を持って事務所をでた。


出ると直ぐに、目の前に俊樹は立っていた。


「あっ、すいません、こんな事して…。」


「いいえ、私も少しきになっていたので。」


「えっ、そうなんですか?ちょっと気になっていたんですけど、どうして初日

バスの中から、俺を見ていたんですか?」


「それは可哀想だったのもあるんですけど、どうしてあの時お金を貸して

上げれなかったのかと、自分を悔やんでいたんです。だから…。」


「そうだったんですかぁ~、それを聞いてやっとほっとしました。胸のつっかえが

取れました。自分にとって大きな謎でしたもので…」



俊樹とその女性はホームに向う、階段を一緒に下っていった。


まだ名前も知らない女性と共に


名前を知る事も、どんな人なのかも知るのもこれからになりそうだ。



~FIN~




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