広島県・・・

 

三月

啓蟄を過ぎるとどことなく陽射しもゆるみ、

寒さに閉じこもっていた木々や草花たちも少しづつ、

硬く閉じていた小さな蕾の紐をほどきだす。

 

 

行く手に白く小さな花が咲いています。

二週間前に蕾を見た、コショウノキ(胡椒の木)です。

常緑の小低木で山地に自生して、

ジンチョウゲにそっくりですが、

葉柄があり、葉先が鋭く尖っています。

花弁に見えるのはガク片で、しっかりとした香りが爽やかでした。

 

 

陽当りでは

出始めで背の低い、タチツボスミレや、

 

葉脈の赤紫色が目立つ、アカフタチツボスミレに、

 

まだ葉の丸い、ナガバノタチツボスミレたちも、

僅かに目ざめています。

 

心待ちしていたスミレたちが咲き誇るのももうそこまできています。

このまま気分よく、場所を変えて歩いてみるとしましょう。

 

風が冷たくても早咲きの

イブキスミレや

 

アオイスミレが咲いていますが、

 

陽射しが少ないのかアズマイチゲは残念、

出始めたばかりの初々しい顔を閉じています。

 

でも取っておきの花を探しに行って見ると、

下膨れで柔かい葉の付け根に目立たない花が咲いています。

高さ1mも無い小低木の、オニシバリ(鬼縛り)です。

樹皮が丈夫なので鬼でも縛れるということ。

黄緑色の花弁に見えるのはガク片、

肉質で硬いガク筒の先で4裂しています。

コショウノキと同じジンチョウゲの仲間ですが

コショウノキのような強い香りはありません。

 

オニシバリの花を見るのはかれこれ8年振り、

人知れず早春の片隅で目立たず咲く姿にすっかり見惚れてしまいました。

 

 

帰りがけの道、

草地に座って休憩中のご夫婦に声をかけ

一面に咲くミチノクフクジュソウを見せていただきました。

 

 

「この頃は、イノシシが出て掘り起こすようになってしもうて、

だいぶ減ってきたんでー」 と残念そう。

「おたくらは何処から来られたんねー」

「三原からです」

「まー、遠いとこから来られたんじゃねー」

「えー、ここは珍しい花があって好い所で再々寄せてもらうんですよ」

「まー良いとこかどうかよう分からんけど、私らは生まれてからずーっとここで、

ここが静かで一番ええですわー」・・・

 

 

フクジュソウや草の芽に囲まれ、並んでくつろがれる後姿に

春の陽射しがやさしく注いでいました。

                               「ものの芽や 畑しごとの 手をやすめ」