ちょっと先の事だけど、年末に帰省するから、母親と電話で話をしてた。
そしたら母親が
「高校の時に仲が良かった⚫︎⚫︎君は何をしよるん?」と聞かれた。

今日はその友人の話をしようと思う。
正確に言うと、元友人だが。

元・友人ということは彼とは数年前に縁を切った。
同じ中学だったから20年以上の付き合いになる。
中学、高校の時はケンカをすることなんて無かった。

彼は頭も良く、運動神経も良く、話も面白く、彼の周りには絶えず人が集まっていた。

いわゆる人気者だった。
俺も尊敬していたし、彼と仲良しで居られる事を誇らしく思っていた。

高校を卒業した後、彼は大学へは進学せずに、
海外に住む知人の家にホームステイするという
進路選択をした。

当時、僕も含め、僕の周りは
「やりたい事が分からないから、とりあえず4年生の大学に行く」という人ばかりだった。

そんな中で、友人も多くて、頭も良くて、バイタリティーもある彼らしい生き方で、やっぱり凄いなぁと思ったのを覚えている。

一年に何回かは、日本に帰ってくるので
お土産話などを聞かせてもらっていた。
話が面白いので、一緒にいる時には腹を抱えるぐらい大笑いをするのだが、その帰り道には、
劣等感に襲われて、自分がとてつもなくちっぽけでつまらない人間だと思い知らされて、泣けてきた。

でも、そんな彼に負けないように、いつか肩を並べて話が出来るように、僕は僕なりに日常生活を全力で頑張ることにした。

アルバイトやサークル活動や彼女を作ったり、試験前日に徹夜で暗記したりとか、
卒論を期限ギリギリを提出したり、
大学生のほとんどが送るような毎日を送った。

人並みに就活をして、人並みに地元の会社に就職をした。

その頃、彼も海外滞在の経験を生かして、旅行会社に就職をした。
真新しいスーツを着て、仕事が終わった後に待ち合わせて、地元の居酒屋で乾杯したときは、なんだか感慨深いものがあった。

酒も進み、彼が寂しそう愚痴をこぼした。
「俺は大学に行っていないので、大手には履歴書すら出す事ができなかった。ようやく希望だった旅行業界に就職できたけど、高卒扱いなので企画や営業みたいな花形ではなく、与えられる仕事は資料のコピーとかチラシの封入作業といった裏方の仕事ばかり、、、」

「大学を出ただけで、ロクに英語も使えないヤツが作った企画書を見るとビリビリに破いてしまいそうになる」とも言っていた。

結局、1年も立たないうちに辞めてしまった。

その後は、
学習塾の先生のアルバイトやスーパーの品出しのアルバイトで食いつないでいた。
ポテンシャルもコミュ力も高いので、
正社員登用の話も出て、就職はするのだが、、、

もともと天才肌な性格と海外の自由な暮らしを経験した事により、日本の働き方は合わなかったらしく、どれも長続きすることはなかった。

彼から平日の昼間や金曜の夜に遊びやら飲みやら誘われるのだが、

僕を含め、学生時代につるんでいた友人達は
彼との遊びよりも仕事や恋人や家族を優先をするようになりました。

結局、時給の高いチェーン店の居酒屋で深夜に働いてたようです。

平日の昼間は寝て、夜から明け方まで働いて、
たまに休みは、後輩を連れて飲み歩く。なんてやっていると風の噂で聞いた。

彼とは生活リズムも価値観も合わなくなって、遊ぶ事も無くなりました。


それでも、毎年年末に行われる地元の忘年会にはに顔を出していた。
就職して一年目の時は、少し疲れている感じだったが、いつもどおりの彼だった。

二年目の時は、なんだか別人みたいな顔つきになっていた。

今まで全くそんな事なかったのに、
友人を雑に
扱うようになっていた。

自分が主催した飲み会なのに、『気分が乗らない」という理由でドタキャンしたり、

一緒に飲みに行ったのに、会計せずに1人で帰ったり、

飲み会には来るけど「金が無い」と言って飲まない食わない。それを見かねた人が「おごってあげるよ」と言うと喜んで飲み食いをし始める。

友人達は、みんな多かれ少なかれ、そんな目に遭っている。

就職して3年目の忘年会の時に、
仲間内でのカップルが結婚発表をした。

みんながお祝いのコメントをする中で、
彼は

『どーせすぐに別れるよ。俺の今の彼女なんてバツイチ子持ちだぜ?』

と言った。

当時はどうしてそんな事が言えるのか腹が立ったし、バツイチ子持ちを選んだのは、他でもない彼自身なのに、悲劇のヒロインを演じているのがカッコ悪いと思った。


そんな発言を受けてなのか、みんなの都合が合わなくなったからなのか、地元の年末の飲み会はそれが最後になった。

他の友人とは、たまに飲んだりすることはあったが、彼に声を掛けることは無かった。

月日が経ち、
僕は結婚をした。子供が産まれた。
名刺に役職が印字された。
毎日が忙しかった。
毎日が充実していた。

そんなある日、俺は県外の事業所へ転勤が決まった。

仲のいい友人には報告をして、送別会を開いてもらった。一応、彼にも声は掛けたが、
「行けたら行く」という返事が来たきり、当日は来なかったし、個別にメッセージが来る事も無かった。

引っ越しをして、2年が経ったある日、
彼からLINEが届いた。

「俺、バイト先のレジから金を抜いてたのがバレて、会社から訴えられた。妻も子ども連れて出て行った、、、」と。

たまたま会って飲んだ時に言うなら、まだしも、、、
遠く離れた友人にわざわざ言うことじゃないよね。

きっと、彼は僕に
『それは大変だな!大丈夫か?話聞こうか?
お金貸そうか?』なんて優しい言葉を期待したんだろうな。

驚きはしなかったが、30歳を過ぎた大人がする事では無いと情けなくなった。
それと同時に社会人になってからの酷い行いがフラッシュバックして、行き場のない怒りに変わった。

でも、心のどこかで
学生時代の優秀で誠実で清潔感ある人気者の彼に戻って欲しいと思った。


僕は『信用を失ってしまったね。迷惑を掛けた人達に謝罪をして、あなたが変わらないと離れて行った人は戻ってこないよ。』と返信をしました。

彼からは数時間後に
「わかったー。俺のことブロックしてもいいよ?」と返信が来たので、お望み通りブロックしました。
LINEはもちろん、SNSも。
かかってこないと思うけど、一応電話も着信拒否。

学生の頃は努力家でスポーツ万能で人気者だった彼。
僕も含め、みんな彼の背中を追いかけていた。

彼は挫折も味わった。
しばらく立ち直れなかった。
走ることをやめて、楽な道に逸れたこともある。
もちろん彼だけの責任では無い。


それでも周りの友人達は、社会に揉まれて、ツラい目に遭っても前に進み続けた。休んだり、横道にそれる事はあっても、諦めずに人生を走り続けた。
友人達は成長をして、いつしか彼を追い抜いていた。彼だけが取り残されていた。

現代版うさぎと亀、みたいな話だね。