宇治田原から柳生の里への道中はかつての
信楽の宮へ通づる里山の道で、忍びらの
結界が未だ続いている。
天正伊賀の乱以降、織田家が平定したかの
如く感じるが、異能の集団は形にとらわれない。
程なくすると柿の葉色した目元以外覆い、
背中に刀を背負う集団が現れる。
「透破(すっぱ)の類いなるか」
「そこもとは甲斐の武田家の者である」
棟梁らしき者が前に出る。
「如何な赴きで道を進みなさる」
梅雪は落ち着きを払い理由を説明する。
織田徳川なら命を狙われるのは
当然の仕置きなれど、
殲滅に近い形で織田家の仕打ちを
受けたなら当然忍びの者なら理解出来るであろうと読んでいた。
「此度、京にて政変が発生した模様」
「我ら織田家へ含む処がある者達に取っては、絶好の土重来」
「武田家の家中の穴山様ですな」
「なれば我らの敵となります」
梅雪は鼻白む。
「何を戯れ事を!」
「織田に降るはやむ無しの出来事!」
「武田家再興には必要であるから
一時的に降ったに過ぎぬ」
「ほれ金子もある」
「柳生の里へ道案内を頼みたい」
従者に急げとばかりに金を用意させる。
忍びらは棟梁の判断に従う、
数も穴山一行より遥かに多い。
「・・・複雑な事情とは察しますが」
「我らは任に対し徹底する様に
命じられております」
忍びの者は常日頃から客観的で
主観は存在しない。
話しを聞いたり、
此方の事情を話す事はあり得ない
訓練を受けて育つ。
会話をする事があるならば、
その相手を始末する時のみである。
「・・・主家滅亡への道案内役には
死罪が相当するものと存じます」
「我らは勤皇であらせられた
信玄公や、忌むべき織田徳川に
一矢報いたる勝頼様寄りでございます」
梅雪はその話し内容に誤解があり
立腹する。
「そなたら忍びはその場、その時に
雇い入れられる異能であろう!」
「勤皇の意味が理解出来ぬが、
今はそなたらの力が入り用である」
「速やかなる道案内を請う!」
金子を棟梁の足元に投げ入れる。
棟梁は背中の刀に手をかけると、
他の者も習う。
こうなると老獪な梅雪も形無しである。
「何が目的じゃそなたら・・・」
忍びは最期に声を掛ける。
「我らは都が飛鳥にあった頃より
帝を支えてきた集団」
「この国を正常に保つ為に様々な
仕掛けを展ずる事が至上の務めにて」
「魔王に加担した輩は排せねば
なりませぬ・・・」
音もなく斬り込むと、一刀のもとに
急所を突く。
続く🌷