半七捕物帳(66)地蔵は踊る
岡本綺堂
何やらタイトルは楽しげですが、読んでみたら切ないお話でした。
「縛り地蔵」といって、願掛けのときに地蔵に縄を縛り付ける。満願成就の際にはその縄を切るとよい、とされて信仰を集めた地蔵がありました。
財政が逼迫していたこの寺もその地蔵のお陰で窮地を脱します。と思ったのもつかの間、一過性のブームのようなものでまもなく人もまばらに…。
とそこへ、この地蔵が踊るという噂が立ちました。
踊るといっても元が地蔵ですから、ガタガタと体が揺れる程度のことですが。
しかしその地蔵が踊るのを見た者はコロリにかからないという噂です。
地蔵は再び信仰を集め、賑わいを見せます。
ところが嵐の日を境に、地蔵が踊らなくなった。
また人々は離れていく。
そしてある朝、女の死骸がその地蔵に縛り付けられていたのだった。
だが半七らが駆けつけると、遺体は消えていて…。
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若い美僧が出てきます。うーむ、吉野の君…(@なんて素敵にジャパネスク)
いやそれは置いといて。
この美僧さんが気の毒なんですよ。優しい感じの気弱な人なんですが、そのせいでタチの悪い女に見込まれてしまった。
いや元々は住職の失策が原因ですね。
寺を任されたはいいが、廃寺寸前の財政難。
責任感の強い住職だったから悩みに悩んでしまった。
そこで、町の石職人が入れ知恵をしました。
「縛り地蔵をでっち上げちまいましょう!」って。
そのためにこの石職人は地蔵を彫り、それを木の根元に埋めておいた。
2年ののちに口裏を合わせて、
住職が夢のお告げで云々…その場所を掘ったら地蔵が出てきたよ! ってやったんですね。
それをきっかけに寺の財政は持ち直しました。
だが、ズルはできないもんですね。
この石職人は気のいい人だったんだけどやがて亡くなり、出てきた息子がロクでもなかった。
事の顛末を知って、寺の人間を強請りはじめました。
対応していた役僧は病で亡くなってしまい、その後に前述の美僧が据えられた。
この美僧は住職らのやったことには一切関知していませんでした。
しかし、思いがけず上の立場になってしまったので関わらざるを得なくなった。
また、このロクでもない息子と繋がっていた女がいて、これもまた強請りをしようと寺にやって来た。
しかしこの女、美僧に一目惚れ。
他に要求は一切しないから、時々会ってくれという約束を取り付けた。
美僧は困って困って、でも住職への恩義もあるし、寺も守らねばならない。
石職人の息子には金をせびられるし、女には強引に迫られる。
気の毒すぎる。
あんまりあらすじ書いても長くなってしまうので結論だけ。
半七らが寺に踏み込むと、覚悟を決めていた住職は淡々とすべてを語り始めました。
踊る地蔵は、石職人の息子の案で、地中に穴を掘って、そこでガタガタ揺らすという細工をした結果だった。
発見された死骸は、美僧に惚れていた女。
殺したのは寺の小男。
美僧が悪い女に取り憑かれていると身を案じてのことでした。
しかし女が死んだのを目の当たりにし、美僧は悲しみの余り泣き崩れます。しかも犯人は寺の人間。愛情というより、仏教的な慈愛でしょうね。
美僧はその女が生き返るようにと願掛けのつもりで地蔵に縛り付け、熱心に祈った。
この状態の女を通行人に発見され、通報されてしまったのです。
祈りが通じたのか、女は息を吹き返しました。
そして住職に説得され、遠くへ逃げた。
寺を脅していた男は逃亡。のちに地方で事故死したとか。
住職は遠島。他は江戸から追放。
悲しいことに、美僧はこの事件が解決する直前で首を括りました。
いかんせん生真面目すぎた。
ほんのちょっとした出来心と欲が、多くの人間の人生を狂わせてしまったお話でした。