★少年と犬/馳星周 | うまうまセブンのブログ

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少年と犬/馳星周

2020年上半期 直木賞受賞作



泣いた……犬好きには堪らない一冊だった。
どうやら、直木賞選考委員にも犬好きが多いらしい。(拙者推測)

多聞と名付けられた一匹の犬と、不思議なめぐり逢いをする人たちの珠玉の六編。
連作短編でありながら、それは五年にも及ぶ長い長い多聞の旅路の記録。
その果てにたどり着いた奇跡は、犬を飼ったことのない人には到底理解できまい。
そして最後多聞に待ち受ける運命。
もう涙腺崩壊必至である。

さて、この作品の主人公は間違いなく多聞というシェパードと和犬のミックス犬だ。
多聞とは実に上手いネーミングだと思う。
多聞は、毘沙門天の別名多聞天から名付けたというくだりがあるが、その名の通り守護神であり、七福神であり、めぐり合う人たちにとって宝物のような存在だ。
東日本大震災と熊本大地震という未曾有の災害に、心ならずも遭遇することとなる一家の救世主として天より遣わされた使者とも言えるだろう。

作中、犬を嫌ったり虐待するような輩は一切登場しない。
そして各編で多聞と遭遇することとなる6人は、まるで導かれるように多聞を受け入れる。そして多聞もまた、極めて友好的に6人に寄り添う。
読んでいてとても嬉しくなる。
動物虐待や飼育放棄などが社会問題となっている昨今、薄汚れた、しかも雑種の中型犬などそう簡単に保護しようなどとは思わないだろう。
そもそも、多聞と出会う6人のエピソードは、長くても数ヶ月の関係しか続いていない。
となると、5年にも及ぶ多聞の旅路には、更にいくつもの出会いがあったと思われる。
その中には、棒で追い払う者、石を投げつける者もいたかもしれない。
そこを敢えて書かないのは、作者の慈愛なのではなかろうか。

奥付によると本作は、六編の最終話「少年と犬」が最初に発表されたようだ。実際には、どのエピソードから書かれたかは知らないが、小説しかり、脚本しかり、エンディングを決めてから肉付けしていく手法も効果的と聞く。
だとすると、「少年と犬」という短編を膨らませて連作長編に仕立てた、作者及び編集者に感謝したい。
「少年と犬」一編だけでは、到底このカタルシスは味わえなかったであろうし、犬に限らず、全ての生き物に対する接し方を考え直すきっかけを与えてくれたようにも思う。

我が家では、柴犬を飼っているが、賢さや行儀良さで到底多聞には敵わない。
だが、計り知れない幸せと喜びを家族に与えてくれる。
だから、その何倍も愛してあげたいと心に誓った。



追伸   
余談だが、手塚治虫の短編漫画『ロロの旅路』を思い出し、再読  (…… いや再再再再再読くらい)して、また泣いた。。。