2025年11月22日(土)15時開演
日本フィルハーモニー交響楽団
第412回 横浜定期演奏会
横浜みなとみらいホール(神奈川)
この日の横浜はいい天気。
けやき通りの落ち葉をシャカシャカと踏み鳴らして行きました。
マンホールは、帆船日本丸。
ホールのすぐ近くには大きな観覧車が見えます。
正面入り口
ロビーにはファンからのお花
横浜みなとみらいホール(2020席)
(画像お借りしました)
舞台上には指揮台と白い椅子が並び、中央にはスタンウェイ。
ピアノの椅子は、背もたれのあるタイプです。
プログラム
♪ショパン:ピアノ協奏曲第2番
~ ~ ~ 休憩 ~ ~ ~
♪チャイコフスキー:交響曲第5番
牛田くんのショパンピアノ協奏曲第2番を聴くのは久しぶり。
最後に演奏したのは、今年の7月、ここ横浜みなとみらいホール。
まだ4ヶ月しか経っていないのに、もっとずっと前のことのような気がします。
開演前に、音楽評論家の八木宏之さんによる曲解説がありました。
オーケストラが登場し、コンマスがピアノの「ラ」の音を鳴らしてみんなが音合わせを始めると
客席が暗くなり、正面のパイプオルガンの中央と両サイドの紺色のバナーに縫い付けられた銀色の刺繍糸が、夜空の星のように光を放ちました。
牛田くんが登場しました。
黒いスーツの下に黒いTシャツ。
髪を切ったみたい。
この前まで髪で隠れていた耳が見えていて、襟足もすっきりしています。
今日の演奏会の、この不思議な感覚を
うまく伝えられるか分かりません。
指揮台に立った太田マエストロの、中指と人差し指を立てた左手が上がって音楽が始まりました。
牛田くんが紡ぎ出した第一音に
またしても、なぜか日本画のような春の海を連想しました。
冴え冴えと 新しい季節の始まりを告げる音。
響きがとっても美しい。
ピアノ協奏曲第1番に比べると
第2番の印象はどこか曲線的で女性的。
目の前に広がる紺色の音色。
誠実で 柔らかで 自由で自然体。
私は、今まであまり経験したことのない感覚に包まれました。
ぽかぽかと心地よく
目や耳だけじゃなく、肌というか、目に見えない触角というか
いつもとはまったく別の周波数でキャッチして聴いているような不思議な感覚。
思考や言葉が浮かばずに、自分を包む安全な繭の中で
まどろみながら、ただ音楽に身を委ねているような。
第一楽章が終わると、マエストロは牛田くんの方を振り向いて
「いい?」と確認するようにして、第二楽章に入りました。
暗い夜空にオーケストラがオーロラのカーテンを引き
ピアノが小さな星をちりばめる。
いつも牛田くんの演奏を聴くときは、なぜか客観的になれずに肩に力が入ってしまうのに
今日のこの心地よさはなんだろう。
すべてを手放して、宇宙空間に漂っているような解放感と安心感。
眠いわけじゃないのに瞼が自然と半分降りてきて
今自分がものすごくリラックスしているのが分かりました。
消えていく小さな命を慈しむような高音の弱音が
儚く 尊く 美しかった。
マズルカの抒情たっぷりの第三楽章に入っても
このぽかぽかした心地よさは抜けなくて
というか、抜け出したくなくて
こんなに気持ちよくて何も考えられないんだから
もうレポ記事のブログ書けなくてもいいや、とさえ思いました。
ブログを書くために聴くのはすごくもったいないし。
(結局こうして書いてますが(^^;))
歯磨きや洗顔みたいに
もうすっかり馴染んで考えなくても自然と体が動くような
細胞レベルで体に染み込んでいるような牛田くんのショパンピアノ協奏曲第2番。
やっぱり好き。
ショパンコンクールでは、エリック・ルーがこの曲を弾いて優勝したけれど
彼の演奏もよかったのだろうけど
私は牛田くんの演奏が一番好き。
懐かしくて安全な、母の胎内に戻ってきたような絶対的な安心感に包まれる。
後半のファンファーレのようなホルンの音が綺麗で安心しました。
曲の出来栄えを左右する、重要な役割だと思うんです。
オーケストラと共にに大きく盛り上がり
最後の打鍵は右手で強く
音楽の終わりには、マエストロが牛田くんの方を振り返り
称えるように手を伸ばしました。
拍手と共に、男性の太い「ブラボー!」が響きました。
立ち上がり、互いに両手を伸ばしてガッチリ握手して
日本人らしく頭を下げるマエストロと牛田くん。
上手く言えないのだけど
すっきりした表情の牛田くんを見たら
彼はすでに次の扉を開けて歩き始めているのだな、と思いました。
牛田くんがピアノの前に戻り、客席に向かって頭を下げると
指揮台の上のマエストロがニコニコしながら両手を上げてパチパチと小さな拍手を贈り
牛田くんも、マエストロに向かってパチパチと拍手をして片手をかざしました。
アンコールは、ショパンのノクターン17番。
とにかく美しかった。
世の中の
弱きもの 小さきもの 死にゆくもの
すべてに手を差し伸べて包み込んでいるようで。
そしてまた、私は実家の庭を思い出しました。
更地になって、黒い土の中から芽を出し咲いていたムスカリの花。
母が大切にしていた、フェンス沿いに続くコスモスの花。
新しい所有者のもとで、今度はどんな花を咲かせるのだろう。
生々流転。
変わらないものなんて何一つないんだな。
私もいつか命に終わりが来る。
今ここにいる人たちも、いつかはみんな死んでいく。
だけど、そのことが、怖くも悲しくもなく
とても自然なことなのだとぼんやりしながら感じていました。
いったいどうしたんでしょうか。
両膝に手を当てて、深々とお辞儀をする牛田くん。
正面に、2階席3階席に、振り返ってP席に、サイドの席に。
彼の、音楽家としての姿勢が垣間見える瞬間でした。
彼が姿を消しても拍手は鳴り止まず
もう一度登場して、挨拶してくれました。
牛田くんと太田マエストロが並ぶと
マエストロが小さく見えました。
休憩時間に、ちょっと現実に戻りました。
トイレは予想通り長蛇の列。
トイレの数はたくさんあるのですが、並んでる人の数が凄い。
休憩の終わりを知らせる銅鑼の音が聴こえてみんなが焦っていると
制服姿のスタッフさんが、「奥から〇番目があいてます!」と声を張り上げて誘導してくれました。
体育会系のお仕事です(感謝)。
後半のチャイコフスキー交響曲第5番は、先日京都で聴いたばかり。
私は第二楽章にすっかり魅了されました。
ホルンが奏でる優しい音色と美しいメロディ。
目を瞑ると見えてくる、茶色い土から立ち上る湯気のような白い朝靄。
祈りのような静謐な時間。
ミレーの「晩鐘」のような一枚の絵画が脳裏に浮かびました。
軽快なワルツの第三楽章になっても
勇ましくてかっこいい第四楽章になっても
私はずっとミルクティー色の第二楽章が恋しくて
足元にずり落ちた毛布を引っ張り上げるようにして、あのぬくもりに包まれていたかった。
第四楽章は格調高く
疾走感と威厳があって
きゅるんとしたきみどり色の風のようでした。
指揮台の上のマエストロは、小柄なのに大きく見えました。
どっしりと、体幹がしっかりしているんでしょうね。
ピカピカの靴が時々指揮台から浮き上がり、小さくジャンプします。
にこやかで丁寧。
ツヤツヤの黒い髪(毛量も素晴らしい)。
将来どんな指揮者になるんだろう。
先日、あさイチに登場した山田和樹さんの話を聞いて
指揮者の持つ音楽性と人間性に感嘆したばかりだったので
そんなことを考えながら聴きました。
この方が、40代、50代になった時の指揮も見てみたい(ギリいけるかも)。
アンコールはチャイコフスキーの弦楽セレナードより「ワルツ」。
この曲は、私の中では大友直人さんの十八番のイメージです。
艶やかな弦の音色がとても美しく
キューティクルしっかり、という感じでした(笑)
花占いが出来そうな、花びらの長い丸い花がくるくる笑いながら回ってる。
ああ、明日も同じプログラムで聴けるんだ…。
今日とまったく同じ感想になることはないと思うけど
嬉しくて、幸せ…。
このまま自分の繭に包まれて
誰とも言葉を交わさずに家まで帰りたい気分。
音楽って、やっぱり特別…。
(^-^)ノ~~













