行ってきました。
2024年9月3日(火)19時開演
牛田智大 協奏曲の夕べ
モーツァルト&シューマンの心を謳う
(東京フィルハーモニー交響楽団/指揮:飯森範親)
東京オペラシティ コンサートホール(東京)
ゆっくり進んでいた台風が温帯低気圧に変わり、この日の東京は朝から昼過ぎまでスコールのような土砂降りでした。
私はこの日17時30分から歯医者の予約が入っており
間に合うかしら?とちょっとドキドキしながら診察台で大きな口を開けてました。
実は、前々回の予約の時、疲れて15分だけ家で横になったつもりが
深く眠ってしまって気付いたら予約時間を過ぎており
前回の予約の時はすっかり忘れていて他の予定を入れてしまってダブルブッキング。
歯科衛生士さんからの電話で初めて気がつきました
「困った患者」リストに絶対入っているに違いない私
ああ、本当に申し訳ない…
夕方には雨も上がり、外は生暖かい空気。
ホールに向かうこの通路を歩くとき、いつも気分が高揚します。
ロビーでは牛田くんのCDやみなとみらいのリサイタル等のチケット販売などがあり
ファンからのお花も飾られていました。
シックな色調で素敵です。
東京オペラシティ コンサートホール(1632席)
(画像お借りしました)
この、オレンジ色の木の明るさが懐かしい。
そうだった。今年3月のリサイタルは、私来られなかったんだ。
プログラム
なんかすごくないですか?この大きな牛田くんの巨匠感。
または、魔法のランプから出てきて飯森先生の願いを聞いてあげる煙の巨人🤣
Program
♪モーツァルト:交響曲 第9番 ハ長調 K.73
♪モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466
~ ~ 休憩 ~ ~
♪シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 Op.54
舞台中央にはオーケストラ用の椅子が並び、既にど真ん中にスタンウェイが置かれていました。
椅子は先日の京都の時と同じ2本足タイプです。
1曲目がオーケストラだけの交響曲で、しかも序曲的な短いものではなく、第4楽章まであるしっかりした曲なのに
このピアノの存在感。
プログラムの写真の巨匠感といい、『牛田智大 協奏曲の夕べ』というタイトルといい
今夜の主役が「ピアニスト:牛田智大」であることを物語っている気がします。
向かって右側で、コントラバスの方達が音出しを始めました。
座席からぐるりとホール全体を見渡すと
懐かしい場所に戻ってきたような気がして落ち着きます。
ちょうど11年前の9月7日、私はここで牛田くんのピアノと出会いました。
オーケストラの方達が登場して、会場から拍手が起こります。
男性陣は夜の正装燕尾服。
マエストロも登場。
サラサラのヘアが印象的でした。
モーツァルト:交響曲 第9番
モーツァルトらしい軽やかな長調。
まとまりのある弦の音色がとても美しい。
なんとモーツァルトが13歳の時に作られたというこの曲。
やっぱり天才なんですね。
演奏会の幕開けにふさわしい華やかで上品な音楽を聴きながら
もしもモーツァルトが100年遅く生まれていたら
どんな曲を作ったのだろう、と考えました。
好まれ求められる、いわゆる「受ける音楽」という枠を取り外したのなら
案外短調の激しい曲を書いたりしたのかな。
自由奔放な型破りな曲を作ったのかな。
交響曲が終わり、黒い手袋をした男性スタッフがピアノの蓋を持ち上げました。
このスタッフが登場した時、ソリストの登場と間違えたのか、パラリと一瞬拍手が起こりました。
白い頭の年配のコンマスが、立ち上がりピアノの「ラ」の音を鳴らします。
オーケストラが一斉に音を出す、割と長めのチューニングの時間
突然心臓がお腹に降りて来てコトコトと鳴り出しました。
ああ、なんか私まで緊張してる…。
登場した牛田くん。
サッパリした黒い髪。
そして、明るく爽やかな笑顔です。
あ!
見たことない衣装。
ダークスーツの中はいつもの黒のハイネックではなく白いシャツ。
衿先が折り紙のように小さく折り返されたウィングカラーです。
胸には白いポケットチーフ。
そっかー。
最近室内楽や大勢とのコンサートでちょっと陰の人っぽくなってたけど
今日は夜の演奏会でアラジンの巨人になるほどの主役。
正装でキメてきたんですね!
ウィングカラーの白シャツとシュッとしたシルエットの黒いスーツは
細身の牛田くんをさらにシュッと見せて
ちょっと福間洸太朗さんに似てる気がしました。
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
短調のこの曲の冒頭は、オケのみの演奏がしばらく続きます。
低く垂れ込める雲のように不安を掻き立てる弦の音色。
時々風に乗って聴こえてくる小鳥のさえずり。
膝の間に両手を落として俯いていたピアニストは
左手で紺色のタオルをピアノの上に置くと、構えに入りました。
なんてしなやかで優しい音色。
柔らかくて 触るともろく崩れてしまいそう。
絶叫のようなトリルで始まるカデンツァは、それまでひた隠しにしていた胸の内の独白を聴いているようでした。
今まで見せていた社交的な微笑みの内側の不安や怖れ。
誰かにすがりたい。
けれど結局自分の中で答えを見つけ出し
敢えて孤独を選択するような。
第二楽章は、優しい子守歌。
ううん、これは愛の歌。
愛しい人を思う切なさと憧れ。
寂しさと幸福。
抑えきれない激しい感情と自己嫌悪。
やがてまたうっとりと夢見るように
胸に温かく広がる幸福の余韻を残して優しく着地しました。
この曲を聴いて 恋の要素を感じたのは初めてかもしれません。
たった今までのゆったりしたロマンスはどこに行ったんかい?
と言いたくなるほど突然せわしなく不穏に変わる第三楽章。
鼓動のような小刻みなヴァイオリンの音色が 再び不安を掻き立てます。
牛田くんは、タオルを半分くらいに折って
額や目の辺りの汗を拭っていました。
やがて、ピアノから高速で紡ぎ出される音色は
第一楽章の冒頭の脆さが嘘のように芯を持ち
激しく情熱的に駆け抜けます。
徐々に進化・成長していくような音の変化と広がりは
一人の人間の成長物語を見ているみたい。
牛田くんの胸から踊るように白っぽい布が飛び出して
この時初めて彼がネクタイをしていたことを知りました。
後半の独奏は、まるでピアノ1台で紡ぎ出す交響曲のようでした。
ああ、すべてが内包されている…。
明るく華やかに盛り上がりフィニッシュ。
立ち上がり、マエストロと握手をし
両手を膝につけて深々とお辞儀をしました。
沸き上がる会場。
鳴り止まない拍手。
カーテンコールで登場し、オーケストラを讃えるように笑顔で手をかざしました。
後半のシューマン:ピアノ協奏曲
ピアノの前に座ると、マエストロに視線を送り軽く頷いて
すぐに鍵盤に両手を乗せました。
第一楽章
オケが奏でるクララのフレーズが、イメージしていたものより明るく緩やかだと思っていたら
続くピアノの旋律に胸がキリキリと締め付けられました。
黒い夜空に浮かぶ
青い月からこぼれる涙のしずくのよう。
いつもは川面のきらめきをイメージする部分は
今日は満天の星空のよう。
ドラマチックな第一楽章のフィニッシュに
先月の倉敷で拍手が起きたのが分かる気がします。
第二楽章
いつも森を想像してしまいます。
朝露に輝く朝の森
ゆったりした三拍子を弦楽器が奏でる部分は
なぜか楓の木から滴り落ちる琥珀色の樹液を連想しました。
甘くて茶色い森の木の蜜。
とろりと蜜のように艶やかな音色。
第二楽章が終わりを迎え
第三楽章への助走を始めたと感じる瞬間
ワクワクを通り越してゾクゾクします。
さあ、夜が明ける!
新しい朝が来る!
今日の牛田くんの演奏は
どこがどうだと言えないけれど
何かまたひとつ突き抜けたような印象を受けました。
そして音色が明るい。
伸びやかで、生き生き・ピチピチしてて。
きっと彼は、この夏 とても豊かな時間を過ごしたんだろうな。
泉のように湧き出てこぼれ出す幸福感。
ああ、なんて幸せなんだ。
心から幸せだ。
こんなふうに幸福に身を浸しきってこの曲を聴けるのは
もっと ずっと先のことだと思っていました。
感情に飲み込まれるというよりは
どこか俯瞰的に「よかったね」と自分に声をかけたくなりました。
なぜか懐かしいと感じるオペラシティ。
明るいオレンジ色の木のホール。
フィニッシュと同時に立ち上がり
マエストロに駆け寄る牛田くん。
女性の声で、いくつものブラボーの声が上がりました。
スタオベする人の姿が何人も。
指揮台の上から、ねぎらうように 称賛するように 牛田くんの方をポンポンと何度も叩くマエストロ。
自ら手を差し出して、コンマス・副コンマスと握手。
正面に向き直って 深々と長い長いお辞儀。
顔を上げた牛田くんの表情は明るくて
そしてなぜか 少し幼く見えました。
おめでとう、牛田くん!
ありがとう、牛田くん!
ああ、なんて幸せな夜なんだ。
カーテンコールで登場すると
握った両手を顔の高さまで上げて
微笑みながらオーケストラに拍手を贈りました。
アンコール
あ、この曲は
倉敷のアンコールで聴いた吉松隆さんの「ピアノフォリオ…消えたプレイアードによせて」。
やっぱり水…。
でも、倉敷の時と微妙に印象が違う。
透明な水に浮かぶ青い一枚のもみじの葉。
もう何十年も前
女優の秋吉久美子さんが、テレビのトーク番組で
「プールに入って水の中に潜ると 水ようかんの中のもみじになったような気分になる」
と言っていたのを思い出しました。
今、まさにそんな気分。
水ともみじ
それから
青紫の空に流れる天の川。
牛田くんがONTOMOに載せてくれた
霧島の星空を思い出しました。
倉敷で聴いた時の方が、どこかひっそりした印象でした。
ホールの大きさに合わせたのかな?とも思ったけれど
席数で言うと倉敷の方が多いんですよね。
席数と言うよりも、ホールの構造なのかもしれません。
オペラシティの天井は
空に向かって三角形に突き上げるようだから。
ところで「プレイアード」ってどんな意味だろう?とあとで調べてみたら
フランス語でギリシャ神話に登場する女神アルテミスに仕えた7人の姉妹を意味する言葉。
そして
冬の夜空に特に輝く美しい星団。
あ、イメージ遠くなかった…(〃∇〃)
会場は熱く沸き
鳴り止まない拍手に応えて何度もカーテンコールで登場してくれました。
2階席、3階席、P席に
笑顔で丁寧に挨拶する牛田くん。
とってもいい表情。
最後に飯森マエストロと並び、舞台中央に立った時
拍手の音が一際大きくなり まるでスコールのようでした。
オペラシティの大男は、まだ暑い夏の空気を裸体に纏い、夜の空を見上げてました。
ジャパン・アーツ Xより
#牛田智大 協奏曲の夕べ。#飯森範親 & 東京フィルと共にモーツァルトとシューマンの心奥へと迫る演奏に拍手万雷。アンコールに #吉松隆 の「ピアノ・フォリオ・・消えたプレイアードによせて」を演奏しました。
— ジャパン・アーツ(Japan Arts Corporation) (@japan_arts) September 3, 2024
ご来場ありがとうございました!#JAアンコール pic.twitter.com/EHMu6HJj2X
コンサート情報です。
2025年1月18日(土)14時開演
リサイタル
ザ・シンフォニーホール(大阪)
14時開演
リサイタル
岩国市周東文化会館 パストラルホール(山口)
こちら、とうとう文字数制限を超えてしまい追加出来ません。今しばらくお待ち下さいm(_ _)m
コンサートの翌日から長野に来ています。
初めて帰省先でブログを書きました。
今朝の空
皆さま、よい一日を!
(^-^)ノ~~