私の勤める病院には、小さなギャラリーがあります。
かつて入院していた患者さんの作品や
アーティストの方々の絵画や切り絵、写真展。
春先には春の訪れを感じさせる手作りの吊し雛。
期間限定で様々な作品が展示されているこの場所に
お昼休みに時々足を運ぶのが、私の小さな楽しみです。
先日、ギャラリーに足を踏み入れたら
大地に沈むサバンナの夕陽が目に飛び込んできました。
【プレリュード(前奏曲)】
夕陽が沈む向こう側では、
朝日が世界を照らし、
あたらしい朝が始まっている。
夕陽は明日へのプレリュード。
さあ、まもなく終わる今日に感謝して
明日を迎える準備をしよう。
向こう側を照らし始めた足が
こちらに届き、
光が溢れ始める、その前に。
流れているこのあたたかい音楽は、なんだろう。
郷愁とも違う。
もっと熱く、魂で感じるような懐かしさはなんだろう。
笑わないでくださいね。
前から私は、かつて自分はアフリカに住んでいたのではないかと感じるような瞬間があるんです。
今のこの人生ではなく、自分でも知らないような遙か昔に、そんなことがあったんじゃないかって。
アフリカの大自然と動物たちの色彩の中
象の群れを写した一枚の色のない写真がありました。
写真の下のこの言葉に、釘付けになってしまいました。
【色のない世界】
目の前から、たとえ色が失われても、
不安に思わなくていい。
怖がらなくてもいい。
色が失われたからこそ、見えてくるものがある。
聞こえてくる音がある。
そして、感じる風がある。
さあ、もういちど、静かに景色を見渡してみよう。
じっと耳を澄ませ、頬に当たる風を感じてみよう。
きっとそこに、今まで気づけなかった
美しい世界があるはずだ。
この病院を訪れる患者さん
入院している患者さんは
大きな不安を抱えた方が多いと思います。
病気を宣告されて、突然目の前の景色が色を失ってしまった人
病気とどう向き合っていいのか分からずに途方に暮れている人
病気のご家族に寄り添いながら疲れ果てている人
そんな方達もたくさんいらっしゃると思います。
この言葉は、そんなみんなへのエールではないだろうか…。
以来毎日、お昼休みにこのギャラリーに足を運ぶようになりました。
遠く離れたアフリカでは
今日も朝日が昇り
シマウマが草を食み
フラミンゴが一斉に飛び立って
命の営みが繰り返されているんだな…。
そう思うと
仕事でクタクタになった体と心に
不思議な力が湧いてくるような気がするんです。
いつもは時間がなくて
昼休みにバタバタと1、2分、ここを訪れるだけでしたが
昨日は、お昼過ぎにあがれたので
またギャラリーに足を運びました。
ゆっくり写真を眺めたかったんです。
そしたらなんと、
この写真を撮られたカメラマンの方がいらしていて
お話しすることが出来ました。
渡壁 大(わたかべ だい)さん。
子供の頃、テレビ番組「野性の王国」を見て、アフリカの大自然に憧れを抱いたのだそう。
ずっとサラリーマン生活を続けていたけれど
50歳になった頃、思い切って退職し
何度もアフリカを訪れて
動物たちの写真を撮るようになったそうです。
「自分が机に向かってあくせくと仕事をしているこの瞬間にも
アフリカでは大きな夕陽が沈んでいる。
そう思ったら、いてもたってもいられなくなった。
人生は一度しかないのに
後悔はしたくないと思った。」
と。
なぜか懐かしさを感じるんです、という私に
「まさにこれですよ。」
と指さした写真の下にこんな言葉が。
【望郷】
その昔、僕らの遠い遠い祖先は、
ここアフリカから世界への旅に出たという。
サバンナに立つと
何故か懐かしさを感じるのは、
サバンナの空気が祖先から引き継がれ、
僕らのDNAの片隅に残っているからだろうか。
さあ帰ろう、サバンナへ。
心の故郷が、僕らを待っている。
いのちの歌が、僕らを呼んでいる。
アジア、アフリカ、ヨーロッパ。
地球上には多くの人種が存在するけれど
人類学や遺伝子学の研究者達によると
最初の人類はアフリカで誕生したと言われているそうです。
だから、あなたが懐かしさを感じるのは
あなたの中に眠るDNAが
それを思い出しているのではないですか、と。
そんなふうに感じるのなら、絶対アフリカに行った方がいいですよ、とも。
そして、
「お嬢さんが高校を卒業したら是非アフリカに行ってください。案内しますよ。」
って。
うわあ~!
遠いと思っていたアフリカ。
渡壁さんとお話ししてるうちに、急に身近に感じてきました。
だけど私、アフリカに滞在したら
人生観や価値観がすっかり変わって
もう日常に戻れないような気がするなあ…(^^;)
私が心動かされた【色のない世界】は
やっぱり患者さん達へのエールでした。
「患者さんや来院される方達に、悠久のサバンナが与えてくれる勇気と安寧を少しでも感じていただければ、と思っています。」
きっと渡壁さんの写真と言葉に
たくさんの患者さん達が勇気づけられていることでしょう。
病気を抱えた方だけでなく
何かしらの悩みや不安を抱えた人
壁に突き当たって行き詰まっている人
自分の価値が見いだせずにいる人
よくわからないけど寂しさや虚しさを感じている人
そんな方達に、届けばいいなあ、と思って
このブログを書きました。
いつも私のブログを読んで下さっている方のブログに
病気の再発を心配しながら、大学病院を受診されたことが書いてあったので。
ひとりじゃないよ。
不安を感じても
寂しさを感じても
かけがえのない大切なあなた。
一人でも多くの方に写真を見ていただけたら、という
渡壁さんの言葉です。
「迷いや悩みがあったら、心の言葉で訊いてみてください。
そしてサバンナの風の音、動物たちのつぶやきに、耳を澄ませてみてください。
動物たちはきっと、優しく語りかけてくれると思います。」
(掲載許可いただきました)
今日も皆さまが、幸せでありますように。
さだまさし×佐渡裕 「風に立つライオン」













