2021年3月3日(水)18時30分開演
牛田智大 ピアノリサイタル《振替公演》
千葉県文化会館
元々は2020年5月24日に予定されていたリサイタル。
発売当初、会場まではるばるチケットを買いに行ったけれど、公演の中止が決まり
数日後、会場から電話があり、枚数を減らして発売し直すので
キャンセルして払い戻しをするか、座席をお任せにしてそのままにするかと訊かれました。
再び緊急事態宣言が出た中で、無事こうして開催されて本当によかったです。
約2時間の会場までの道のり、電車の中で小説を読んで行きました。
『サイレント・ブレス 看取りのカルテ』
南 杏子
『月刊ピアノ』 1月号のインタビュー記事の中で、牛田くんが「最近読んで面白かった本」と言っていた作品です。
その中で、とても印象深いことが書いてありました。
『死の受容』。
アメリカの精神科医で終末研究の第一人者であるキュープラー・ロスが提唱した「死を受容する5段階」。
「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」。
人が不治の病に直面したとき、最初は自分が死ぬのは嘘だと否定し、
次になぜ自分が死ななければならないのかと怒り、
さらに死なずにすむための取引を試み、
やがてうちのめされて何も出来なくなる段階を経て、
最終的に死を受け入れるに至る心のプロセスのことだそう。
小説の中で、この説について解説書を書いた気丈な女性ジャーナリストは
実際に自分が末期癌で死に直面したとき
「あんなにうまくいくもんじゃなかった。」
と口にしています。
小説の中では、さらに、
「死を受容する」ことが困難なときは
「受容できない自分を受容する」ことによって真の心の安寧が得られる、
と結ばれていました。
これは、死についてだけでなく、すべての苦悩に共通することではないだろうか、と思いました。
自分に降りかかった問題を解決しようとあがいてみても
自分一人ではどうにも出来ないことがある。
問題そのものだけでなく、ダメージを受けた心を立て直せないときもある。
そんな時救いになるのは、「立て直せない自分」「ダメージを受けて弱っている自分」を認め、受け入れることではないだろうか、と。
そして不意に、39歳という若さで旅立ったショパンのことを思いました。
冒頭から、こんな暗い書き出しでごめんなさいm(_ _)m
3月3日のひな祭りの日だというのに、とても寒くって
震えそうになりながら駅から会場に向かいました。
昨年2月、チケットを買いに来たときも、すごく寒い日だったなあ…。
千葉県文化会館。大きな公園の中にありました。
大ホールは1787席。
(画像お借りしました)
とても綺麗なホールでした。
赤いシートとぬくもりある明るい色の木の壁面。
曲線を描いた壁やシートのデザイン。
奥行きのある舞台。
舞台と客席の段差の部分は重厚感のある石の素材です。
そして、舞台の上には真っ黒なつや消しスタンウェイ。
枚数を減らしただけあって、人の数はかなりまばらでした。
プログラム
オール・ショパン・プログラム
♪ ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 op.35「葬送」
♪ ポロネーズ 第6番 変イ長調 op.53「英雄」
~ ~ ~ 休憩 ~ ~ ~
♪ 幻想曲 ヘ短調 op.49
♪ バラード 第4番 ヘ短調 op.52
♪ 舟歌 嬰ヘ長調 op.60
ええっ?!ノクターンもワルツもマズルカもない!
そっか…。夜の公演だから、緊急事態宣言下、終演時間が早くなるように曲数を減らしたのですね。
それでもこうして開催してくれたことに、つくづく感謝です。
だけど、大曲ばかりを続々と。
前菜もスープもなく、メインディッシュばかりが続くプログラム。
牛田くん、大変じゃないかなあ。。。
明るく綺麗な照明の中、登場しました牛田くん。
黒いスーツに黒タートル。手には水色のタオル。
あっ!ピアノの向こうに置いてあるマイクを手にしました。
きゃー!トークしてくれるんだ!![]()
以下、だいたいこんな感じだったと思ってお読みください。
「皆さまこんばんは。牛田智大です。
本日は寒い中、また、コロナ感染拡大の中、お越しいただきありがとうございます。
ここ千葉県文化会館で皆さまとショパンの音楽を共有出来ることをとても嬉しく思います。
本日は、緊急事態宣言発令中のため、8時までに終演しなければならないことになり
当初予定していたプログラムから変更になり、かなり曲数を減らしました。
その代わり、ショパンのエッセンスを凝縮してお届けしたいと思います。
前半は英雄ポロネーズとソナタ第2番。
ショパンは祖国ポーランドへの強い想いがありました。
英雄ポロネーズは、そんな祖国への想いから作られた曲です。
ソナタ2番は、ショパンの身近な人の死なのかもしれないし、祖国への想いかもしれませんが
やはりショパンの強い想いが込められています。
後半は幻想曲、バラ-ド4番、舟歌。
ロマン派として知られているショパンは非常に古風な作曲家でした。
リストなど、同じ時代に活躍した作曲家達が次々と標題音楽を作曲しましたが
ショパンは運命に立ち向かい、それを受け入れ、やがて悟りを開く…というような
ロマン派の曲を作りました。
どうぞお楽しみください。」
運命に立ち向かい、受け入れ、悟りを開く。
まるでさっき読んだばかりの「死の受容」です。
私の中で、点と点が繋がって線になりました。
今までずっと、どう受け止めていいのか、どう解釈していいのか今ひとつ分からなかった後半の3曲。
牛田くんのこの言葉で、ストン、と腑に落ちて
大きなヒントをもらったような気がしました。
マイクを置き、ピアノの前に座る牛田くん。
今日の椅子は、背もたれのあるタイプです。
ソナタ2番。
第一音を聴いて、とても個性的な音色だと思いました。
おかしな表現ですが、「レトロな印象の音色」。
まるで古い8ミリフィルムを見ているようで
その音色につられて、意識が遠い昔にタイムトリップするような。
第一楽章の終わりに、鍵盤から離れた左腕が、ブラリと下に垂れました。
第二楽章。
懐かしい音色はまるで若き日の母のよう。
力みのない軽やかな演奏でした。
ピアノの角に顔が隠れるくらい、前屈みの姿勢で始まった第三楽章。
静かに広がる不安の闇。
一滴ずつ落とした黒いインクが
水の中にゆっくりと広がり、やがてすべてを深い闇に塗り替えます。
展開した長調は、しっくりと心地よく
凍えた身体を温かなバスタブに沈め、四肢を伸ばして寛いでいるような気分。
哀しいほどの優しさ、美しさに思わず涙が滲みました。
柔らかな音色が生きていて
再び訪れた短調は、さらに厚く、深く。
漆黒のつや消しスタンウェイのこの個性的な音色を
早くも牛田くんは手なずけたように感じました。
第四楽章は、耳元で聞こえる死神のささやき。
子供の頃、高熱を出すと、いつも同じような夢を見ました。
細かった蛇口の水がどんどん太くなってきて止められない。
小さな川の流れがいくつも合流し、激しい濁流になって押し寄せる。
幼い自分の手には負えない、巨大化していく何者かに飲み込まれそうな恐怖。
熱にうなされた小さな自分の瞼に焼き付いている
実家の和室のカーテンの葉っぱの模様が、突然鮮やかに蘇りました。
そこから続けて英雄ポロネーズヘ!
いつもより幾分軽やかに。
そしてお洒落なポロネーズ。
低音の響きがゾクゾクするほど色っぽい。
白とワインレッドが混ざり合うような大輪の牡丹の蕾が
ゆっくりと花弁を広げていく様子が目に見えるよう。
圧倒的に優雅です!
休憩の時、牛田くんと同世代くらいの若い男性2人が、興奮気味に話しているのが聞こえてきました。
「すごく参考になる!あの場所はこんなふうに弾くんだな、とか、こんな強弱をつけるんだな、とか。」
休憩の間に、調律が入ったようです。
幻想曲の第一音。音がとてもクリアになっていました。
ブログのタイトルとは裏腹に、耳には全く自信のない私ですが
なんだかものすごくホッとして
「牛田くん、お帰り!」
という気分になりました。
現実と幻想を行ったり来たりする幻想曲。
疾走、混乱、葛藤、安寧…。
冒頭の牛田くんの解説があらためてしっくりきました。
目をつぶったまま弾き始めたバラード4番。
ああ、どうしてこんな音が出せるのでしょう!
闇の濃いとても寒い夜に吐き出した白い息のよう。
体内から放たれた空気が、一瞬にして浄化されキラキラと冷たく輝いていくみたい。
さらに深くなる黒い闇。
この曲は「夜」だと思います。
耳だけじゃなく、体中のすべての器官に訴えてくるこの音色。
カラカラに干からびたスポンジにゆっくりと水が染み渡り
満たされて 潤って ポタポタと水滴を垂らしているかのよう。
これは、世界が聴くべき演奏だと思います。
早く早く、世界の舞台で牛田くんのバラード4番を響かせて欲しい。
この演奏を知らずに生きている人達に届けたい。
ああ早く、コロナが収束しますように。
今ここで、こんなふうにこの演奏を聴ける贅沢は
もしかしたら、コロナがもたらしてくれた奇跡なのかもしれません。
まるでひとつの曲のように
そのまま弾き始めた舟歌。
あまりにも間髪入れずだったので驚きました。
大きな海に抱きしめられているみたい。
ずっとこのままでいたい。
あまりの心地よさに、終わりがあることを忘れてしまいそう。
深さを増す音の波。
晩年のショパンは、自身のもっとも幸福だった時期を思い出しながらこの曲を作ったのでしょう。
幸せのまっただ中ではなく、
39歳という若さで、この世からの旅立ちを意識しながら作った曲。
私もいつか人生の幕を閉じるとき
こんなふうに幸せだった頃の自分を思い出すのでしょうか。
少女時代のこと
恋をしたこと
母になったときのこと。
そしてきっと、牛田くんのピアノを聴いて
幸せな時間に身を委ねた日々を
思い出すのだと思います。
アンコールはなんだろう?
小犬のワルツだったらいいな。
と、思っていたら
小犬のワルツでしたーっ!
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コロコロと、キラキラと
光沢を放ちながら滑るようなワルツ。
ああ、牛田くんの小犬のワルツ、大好き!
右手を胸に当て、笑顔を浮かべてお辞儀をする牛田くん。
ありがとう!
ありがとう!
今日も幸せだったーっ!![]()
夜の帰り道、牛田くんの音楽を抱きしめて帰りました。
コンサートのあと、ファン友さん達と賑やかに打ち上げをするのも楽しい。
興奮さめやらぬまま、今日の演奏について語り合うのも嬉しい。
だけどこんなふうに、自分の胸の中を牛田くんの音楽でいっぱいにして
一人で帰る夜もいい。
ちょうど1年前の、川崎のリサイタルを思い出しました。
コロナが落とす陰が濃くなって
それぞれに不安を抱えながら行った夜のリサイタル。
あの日聴いた牛田くんのショパンが、その後何ヶ月も
日々の私を支えてくれました。
今日も牛田くんは、たくさんの人達の心に
きっと灯りをともしたと思います。
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コンサート情報です!
プログラムと一緒に配布されてました。
2021年11月23日(祝)14時開演
君津市民文化ホール(千葉県)
コンチェルト(ショパンピアノ協奏曲第2番)
千葉交響楽団
指揮/山下一史
問い合わせ:君津市民文化ホール 0439-55-3300
今日はお休みのはずだったのに、急なシフト変更で今から仕事です![]()
限られた時間の中で書いたので、またしてもいろいろおかしいと思いますがお許しくださいm(_ _)m
お読みいただき、ありがとうございました。







