行ってきちゃいました。
牛田智大ピアノ・リサイタル
2020年10月30日(金)
昼公演 14:00~
夜公演 19:00~
札幌コンサートホールKitara(北海道)
まさかまさか、海を越えて北海道まで、牛田くんのピアノを聴きに行くなんて!
いや、過去にも九州とか四国とか、行ったことはあるのですが、
コロナウィルスのことがあってから、万が一のことがあってはいけないと、友人や同僚達のランチや飲み会の誘いもずっと断り続けてきたこの私が。
牛田くんのせいです。
9月のYAMAHAホールで、あんなすごい演奏するから!
あの日の演奏会が終わったその瞬間から、私はもう既に牛田くんのピアノが聴きたくて、恋しくて、
ほかの音楽を聴きたくないどころか、透明人間になって誰とも会話したくない。どんな些細な音も耳に入れたくないとさえ思ったくらい。
そして次の日まず私がしたことは、ちょっと遅ればせながらの札幌のチケット購入。
(正確には私は仕事だったのでファン友さんに取っていただいたのですが(*^.^*) ありがとー! )
あの日の牛田くんのピアノ。
ショパンのソナタ第2番第4楽章の「死」と「虚無」の世界観に呆然としていた私の胸に、いきなり鉄砲水のようになだれ込んできたワルツ5番の「生」と「歓喜」。
そう。きっとあの瞬間、何ヶ月も錆びた蝶番のように頑なだった私の心のタガがはずれました。
北海道に行くのは人生で3度目。そして16年ぶり。
本当は5年半前に帯広のリサイタルに行く予定でチケットを取っていたものの、耳を患ったため涙を呑んで諦めたので、今回は様々な意味で感慨もひとしおでした。
私にとって、仕事でいきなり怒濤のような困難が次々と押し寄せた10月。
「憧れのホール、Kitaraで牛田くんのピアノを聴く」という目標が、どれだけ私を支え励ましてくれたことか。
というわけで、感染予防に細心の注意を払いつつ、GoToトラベルという追い風を受け、行ってまいりました、北の大地。
札幌に着いた頃からパラパラと雨が降り出しました。
最後に聴いた牛田くんのピアノは、アンコールの「雨だれ」だったなあ、なんて思いながら、
ひんやりした空気も、清々しいくらい広い通りも、濡れた道路に落ちた大きな街路樹の葉っぱも、
目にするもの、肌で感じるものすべてが新鮮!
パレットに並んだ絵の具のように、グラデーションに色づいた街路樹。
コンサートホールKitaraは、地下鉄の「中島公園」という駅にありました。
そしてそこは、びっくりするほど素敵な公園でした。
幸運なことに、私、紅葉が一番美しい季節に来ることが出来たのですね!
見て!この絵画のような景色。
赤毛のアンが住んでいそうな洋館。
大きな白い石の卵。
着きました!Kitaraホール。
札幌で学生時代を過ごしたという友人によると、昔このへんはスケートリンクだったのだそう。
入り口で手の消毒と検温。
チケットの裏の半券部分に名前と電話番号を記入して、各自でチケットをもぎりました。
シチュエーションといい設計構造、内装といい、こんなに素晴らしいホールだったなんて-!
今まで知らずに生きてきて、なんか損してた気分![]()
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(画像お借りしました)
木が醸し出す柔らかなぬくもり。
客席の数に比べると、舞台の広さはこじんまりとした印象で、その構造にさらに温かさを感じました。
舞台に置かれているのはYAMAHAのピアノと背もたれのない椅子。
前回YAMAHAでCFXを見たからか、私の席が左寄りだったせいか、コンパクトな印象を受けました。
ピアノの奥に三脚で固定したカメラが置いてあり、
「記録用の録画を行います」
というアナウンスがありました。
いつか私達も目にする機会があると嬉しいですね。
プログラム。
< J.S.バッハ >
♪ イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971
<F.ショパン>
♪ ノクターン第16番 変ホ長調 Op.55-2
♪ ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調Op.35「葬送」
♪ ワルツ5番 変イ長調 Op.42
♪ ポロネーズ第6番 変イ長調Op.53「英雄」
~ ~ 休憩 ~ ~
<F.ショパン>
♪ 3つのマズルカ Op.56
♪ 幻想曲 ヘ短調Op.49
♪ バラード4番 ヘ短調 Op.52
♪ 舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
開演時間になり、客席の照明が静かに落とされました。
木の扉が開いて登場した牛田くん。
タキシード姿でした。
ヤマハホール夜の部で着ていたタキシード姿があんまり素敵で、タキシードだったらいいな、と思っていたので嬉しかったです。
髪は、サイドが自然に流れていました。前髪が少し長め。
あたたかな拍手が彼を包みます。
なんだろう。この空間の心地よさ…。
イタリア協奏曲。
角のないコロコロとした音色でした。
芯を持ち、すっと糸を入れて切ったケーキやチーズの断面のようにまっすぐだけどぬくもりのある音がホールに響き渡ります。
このホール、音響も素晴らしい!
気品があって誠実で、牛田くんそのもののような透明感ある音色は、華美ではないけれどシンプルでセンスのいいシャンデリアやパイプオルガンのあるこの会場にとってもよく合っていました。
目をつぶって深く息を吸い込むと、胸の中が研ぎ澄まされていくようでした。
1曲目と2曲目の間に、割と長い間を取りました。
弾き終わると立ち上がり、挨拶をして袖に入って行った牛田くん。
一気呵成に弾き進めていくスタイルがこのところ多かったので、ちょっと意外でした。
ノクターン16番は、情熱的な愛の告白だと思っていたけれど、
今日の演奏は男女の恋愛を超えた、もっと深い母性愛、父性愛。そして人類愛まで感じるようなスケールの大きさを感じました。
ピアノソナタ第2番。
変人かもしれませんが、私は第4楽章が一番好きです。
特に牛田くんが演奏する第4楽章が好き。
高熱に浮かされているような、この世とあの世との狭間を行ったり来たりしているような、なんとも不思議な感覚。
消えていく命の炎と、最後に勢いよく振り下ろされる死神の鎌。
6月にショパン展で見た、この絵を連想します。
…からの、ワルツ5番。
この、闇から光への移行が、私は本当に好き。
それまでの闇が深ければ深いほど、次の長調が圧倒的な喜びとなって胸に溢れてくるんです。
このプログラム、神すぎる!![]()
特に私個人的には、ソナタ2番 → ワルツ5番 → 英ポロ の流れがたまりません![]()
ワルツ5番。
トリルで始まるこの曲。
牛田くんのトリルは、本当に美しいです。
さっき通ってきた中島公園の色とりどりの葉っぱを思い出しました。
明るい音色が、鮮やかな紅葉と重なって、ホールの中を踊るように舞いました。
秋をこんなに美しいと実感したのは初めてです。
そして、ショパンは秋によく似合う。
言いようのない幸福感で胸がいっぱいになりました。
英雄ポロネーズ。
幸福感でいっぱいなところに大好きなこの曲で、もはやテンションMAX!
今日の英ポロは、気品や勇ましさの中に艶っぽさが混じり、クラクラするほど素敵でした。
演奏が終わって牛田くんが袖に消えてからも拍手が鳴り止まず、
再び登場した牛田くんは、前方に、後ろの2階席に、サイドの2階席に、とっても丁寧な挨拶をしてくれました。
深々と頭を下げる時にぴょこんと跳ねるサイドの髪。
彼の誠実な人柄を物語るようなこのお辞儀が大好きです。
休憩時間にロビーに出ると、サイン会がないにもかかわらず、大勢の人たちがCDを買い求めていました。
高齢の方が多い印象を受けました。
「何度でも聴きたい。」
そう思わせる演奏ですよね(^^)
休憩が終わり、再び舞台があたたかく色づきました。
3つのマズルカ。
1曲目はセピア色。妖精の踊りのよう。
2曲目はちょっと雄々しく、民族的で土の香りがしました。
3曲目は印象深いフレーズが繰り返され、郷愁を誘います。
マズルカを弾き終えると、そのまま幻想曲ヘ。
ほとばしる情熱のうねり。
弱音は月明かりの下で読む詩のように。
かと思うと濁流の渦に飲み込まれ、回転しながら墜ちていくような。
やがて天使的な音楽は、さらにスケールを増して神のように。
まさに幻想的で本当に素晴らしい演奏でした。
拍手が起こり、牛田くんは立ち上がって挨拶をすると袖の中へ。
バラード4番。
母の腕の中で、そっと優しく揺られているような柔らかな始まり。
曲はそのあと涙色に変わります。
私が3歳くらいの頃でしょうか。
一緒にお風呂に入った母の様子がいつもと違っていました。
私の身体を洗いながら、泣いていたのかもしれないし、涙をこらえていたのかもしれない。
私の手や足や、お腹を石鹸の泡を立てて優しく擦りながら
「可愛いおぺちょ(オヘソ)だね。ママのあげたおぺちょ、これからもずっと大事にしてね。」
身体の部位を洗うごとに、そんな言葉を繰り返した母。
こくりと頷くことしか出来なかった小さすぎた私は、母がとても哀しそうなこと、そしてどこか遠くに行ってしまうのではないかという不安を感じながら、なすすべもなくおとなしく母に身体を洗ってもらっていました。
あの時の母に何が起きていたのか、何を思っていたのか、今でも分かりません。
もしかしたらあの時、母は死のうと思っていたのかもしれない。
今あの時のことを訊いたとしても、母はもうきっと忘れているでしょう。
バラードを聴きながら、あの日の母の涙を思い出しました。
涙を流す母の顔を見上げる、幼子のような気持ちで聴きました。
やがて運命の扉が開き、ドラマチックに展開し、
老いた母の背中に、そっと毛布をかけているような、
写真立ての中の母の笑顔を眺めながら、幸福な回想をしているような穏やかな時間。
再び荒れ狂う音楽。うねりと狂気。
ドラマチックなラスト!
「素晴らしい」としか表現できないのが悔しいけれど、本当に素晴らしい演奏でした。
牛田くんの演奏にはドラマがある。
そして、私がいつも最もドラマを連想するのは彼のバラードです。
沸き起こる拍手。
これは土地柄なのでしょうか。
サントリーホールでも、ヤマハホールでも、彼の集中力の邪魔をしてはいけないと、聴衆は息を殺すようにして彼の一挙手一投足を見守り、牛田くんもプログラム全体の流れを止めたくない、とでも言うように一気に演奏しました。
けれどこの会場では、ほとんどの曲が終わるごとに拍手が起こり、牛田くんもそれに応えます。
演奏会って本当に一期一会。
そして、舞台裏のスタッフ、奏者と共に、聴衆も一緒に創り出しているのですね。
なんだかとても温かい感じがしました。
サントリーホールでは、あんなに汗だくだった牛田くんは、今回はタオルやハンカチを手にさえしていませんでした。
ラストの舟歌は、今まで聴いたどの時よりも柔らかで優しく、ロマンチックでした。
懐が深くスケールが大きいのは変わらないけれど、穏やかな波にゆったりと揺られているみたい。
私は今回の演奏が一番好きです。
そしてやっぱり牛田くんのトリルは最高!
「幻想曲」、「バラード4番」、「舟歌」。
やっぱりこのプログラム、神!![]()
アンコールは「子犬のワルツ」。
さらりと気品のあるそぎ落とされた演奏に、21歳の大人の余裕を感じました。
アンコールが終わってもずっと拍手が続き、再び戻ってきた牛田くん、四方に丁寧に挨拶をしてくれました。
終演後もCDを買い求めている人がたくさんいました。
サイン会がないのは少し寂しいけれど、バタバタしない分、純粋に音楽の余韻に浸れていいかもしれません。
2年前までKitaraホールのスタッフをしていたという友人の高校時代のお友達が迎えに来てくれて、公園の中にバーンスタイン像もあるよ、と連れて行ってくれました。
夕暮れ時のホールの外観もとっても綺麗。
ホールのレストランが満席だったので、3人でコーヒー専門店でお茶を飲みました。
このホールの魅力やホールでのお仕事の話などをしていただき、とても興味深かったです。
友人とお友達は、旧交を温めに夕ご飯を食べに行ったので、1人お店に残って余韻に浸り、夜の公演を聴くために再び会場に向かったけれど、
昼と違って真っ暗になった外に出たら道に迷いました(T T)
やっと辿り着いたら、明日ブルームーンだという丸い月が幻想的でした。
夜のホール。
さて、長くなるのでサクっといきます。
夜の部もタキシード姿で登場した牛田くん。
弾き出した一音。
あ!音がとってもクリアになってる!
ノクターンは今度は艶っぽい愛の歌でした。
骨太に愛を語ります。
ああ、ため息が出そう…。
拍手が起こり、立ち上がってお辞儀をしました。
ソナタ2番。
情熱。疾走感。
昼の演奏は、全体的に少し抑え目な印象を受けたけれど、牛田くん、少しセーブしてたのかな。
音がいくつもの輪になって、さざ波のように広がります。
「待ってました!」と言いたくなるような牛田節もたくさん。
解き放たれたように演奏する牛田くんとピアノを優しく包むように
柔らかな照明が床に丸い影を落としていました。
第3楽章の短調の葬送では、沈み込むように、うなだれるように。
転調し、天国的なフレーズでは、雲間から光が射し込み、ホールの天井近くで天使が舞っているようでした。
再び転調。沈み込むように。
十分な余韻を残して第3楽章が終わりました。
第4楽章は毒薬のような魅力。
ゾクゾクします。
体中に毒が回り、幻覚を見ているよう。
弾き終わると自ら立ち上がり、挨拶をして袖の中へ。
こんなにインターバルのあるリサイタル、牛田くんにしては珍しいです。
ワルツ5番。
トリルが聴こえた時点で夢の世界の始まりです。
私は多分、牛田くんが今まで演奏してきたワルツの中でこの曲が一番好き。
とても天使的。
高音でじゃれる音たち。
跳ねる!歌う!はしゃぎまわる!
可憐で気品がある。
ああ、幸せ~♡
:*:・( ̄∀ ̄)・:*:
演奏後拍手が起きましたが、座ったまま胸に手をあてそれに応え、そのまま英ポロに入りました。
昼の部より骨太さを増した英ポロは、男らしく。
でもロマンチックなタメもあって、やはりどこか艶っぽく。
徐々に近付いてくるクレッシェンドがたまりません。
モー、最高~っ!
(≧▽≦)
休憩時間には調律が入っていました。
休憩後に登場した、タキシード姿の牛田くんを見て、つくづく成長したなあ、と思いました。
もう21歳の青年なのだなあ…。
ヤマハホールの時も思いましたが、1日2回公演のときは、同じプログラムでも夜の部の方が自由度が増すような気がします。
そして牛田くん自身のカラーがより出てくる。
マズルカは音がキラキラ。
そのまま幻想曲ヘ。
とても一言では表現できないいろんな魅力が混在してました。
バラード4番は、こんこんと湧き出る泉のような始まりでした。
そして感じる郷愁。
17歳の頃の牛田くんがfacebookにも書いていた、ポーランド独得の「ZAL(ジャル)」なのでしょうか。
「本来あるべきものを失った哀しみ」という意味のこの言葉。
「もののあはれ」にも通じるものがあり、ショパンが日本人に深く広く愛され続けているのが分かるような気がします。
十分な「間」を取って歌い上げるような演奏は、
厚みがあり、懐深く、とっても壮大でした。
舟歌は入りからスケールが大きかったです。
ロマンチックで、光を反射した水面(みなも)のキラキラが目に浮かぶようで、夢見心地で聴きました。
たくさんの、いろんな音が聴こえてきて、でも少しもそれがいやらしくなくて、
だただた心地よい。
最後の方の高音のパッセージは、この世のものとは思えないような美しさでした。
ああ、北海道まで聴きに来て、本当に本当によかった!
客席の人数が少なくても、沸き起こるたくさんのたくさんの拍手。
牛田くんの挨拶にも、しっかり心がこもっているのを感じました。
ありがとう。
ありがとう。
アンコールは今回も「子犬のワルツ」。
さらりと弾くその感じがお洒落です。
そして、あれこれ食い散らかさずに、アンコールをこの曲で徹底しているところも牛田くんらしい。
牛田くんのTwitterにもありましたが、このホールは11月2日から改修に入ったそうです。
改修前の最後を飾った牛田くん。
トリを飾るのにふさわしい素晴らしい演奏会だったと思います。
ローティーンの頃から、もう何度もこのホールで演奏会をしているんだものね。
私も来ることが出来て、本当によかったです。
ごっついプログラムの昼夜の演奏、本当にお疲れ様でした。
素晴らしい演奏をありがとう!!!
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この10月に21歳のお誕生日を迎えた牛田くん。
期間限定公開してくれていた4年前のfacebookが予告通り31日で終わりましたが、なんとか全部の投稿を見ることが出来ました。
けど、スクロールしすぎて目が痛くなったわー![]()
17歳のお誕生日から始まった約1年半。
まだ少年のあどけなさの残る牛田くんの写真や日常。
ピアノの音色や牛田くんの声。
懐かしくて、愛おしくて、見るたびにキュンキュンしました。
17歳といえば、今のうちの娘と同じ年。
あらためて感じる、彼の賢さと音楽への情熱。プロ意識。精神的な成熟度。
そうそう、精神年齢はかるアプリで調べたら、牛田くんの精神年齢65歳だったのよね(笑)
(ちなみに私も同じく65歳でした(///∇//) )
牛田くん、facebook、大切に残してくれて、シェアしてくれてありがとう。
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コンサート情報ですが、えーと、私どこまで書いてましたっけ?(^^;)
2021年2月27日(土)14時~
ピアノ・リサイタル
城址公園ホール(栃木県)
3月14日(日)14時~
ピアノ・リサイタル
柏崎文化会館アルフォーレ(新潟県)
どんどん新しい情報出てくるの、嬉しいですね![]()


















