10月8日土曜日。

 

仕事をしていると外は土砂降りの雨。

 

昼までの仕事を終えた頃、雨はやんでいました。

 

まるで神様からのプレゼントキラキラ

 

大きな荷物をゴロゴロと引きずって電車に飛び乗り、9分遅れた電車にハラハラしながら東京駅に向かい、新幹線になんとか間に合いました。

 

今頃牛田くん、昼の部の演奏中かな?と思っていた頃、ちょうどファン智さん達から

 

「今、牛田くんの出番が終わりました。」

 

という連絡が。

 

あら?結構あっという間なのね、なんて思いつつ、早く聴きたいな。牛田くんの「死の舞踏」オーケストラバージョン。

 

電車を乗り継ぎホールへ急ぎました。

急いでる時って、赤信号でも車がないと平気で渡っちゃう大阪人のやんちゃな習慣がとってもありがたい♡

 

約1年ぶりに到着したザ・シンフォニーホール。

 

そう。このホールは木立の向こうにひっそりと佇んでる感じが好きです。

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10月8日(土)夜の部17:00~

大阪交響楽団名曲コンサート2016

第93回 リストとシューマン

指揮/三ツ橋敬子   ピアノ/牛田智大

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《 プログラム 》

フランツ・リスト:交響詩「前奏曲」(S97)

フランツ・リスト:死の舞踏(“怒りの日”によるパラフレーズ)(S126)

    ~~~ 休憩 ~~~

ロベルト・シューマン:交響曲第2番 ハ長調作品61

 

 

 

没後130年のリストと没後160年のシューマンを記念して企画されたこのコンサート。

1歳しか年が違わなかったリストとシューマン(シューマンが年上)の交流や曲の解説などがプログラムに丁寧に書かれていました。

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開演時間が迫り、チャイムの代わりに会場に響き渡るのは、荘厳なパイプオルガンの音。

 

席に着くとすでに、オーケストラの方達が椅子を埋め始めていました。

 

拍手の中登場した指揮者の三ツ橋敬子さん。

 

ジャケットの丈がやや長めの黒のパンツスーツ。

 

内に強いものを秘めているような人を惹きつけるオーラがあり、チャーミングでもあります。

 

 

1曲目のリストの交響詩(前奏曲)。

 

人生は死への前奏曲であるという思想のもとに書かれたというこの曲。

 

牛田くんの「展覧会の絵」といい、この頃死生観を主題にした演奏を聴く機会が多いです。

 

 

弦楽器の低いピチカートから始まった前奏曲。

 

リストのオーケストラの曲を聴くのは多分初めてです。

 

リストはこんな曲も作っていたのか。

 

優美でドラマチック。

 

ハープやホルン、ティンパニーにトライアングル。

楽器それぞれが、己の存在価値を謳い上げ、最後は勇ましく運命に挑戦することを讃える生と死の賛歌。

とても明るく、力強く、ピアノの超絶技巧だけではないリストの才能に初めて触れた気がしました。

 

もっと聴いていたいと思わせる、あっという間の16分でした。

 

 

 

舞台中央にピアノが運ばれてきました。

 

いよいよ牛田くんの登場です。

 

服装はベストとズボン。赤地に白と紺の細いストライプの入ったネクタイ。手には紺色のハンカチ。

 

今から「死」にまつわる演奏をするのに、舞台中央に歩を進めるその足取りは、笑みを湛えたその表情は、まぶしいほどの若さと生命力に溢れていました。

 

パンフレットによると、この「死の舞踏」は、ペストの流行以来、中世ヨーロッパに広まった、人間は身分に関係なくだれにでも平等に死が訪れるという死生観だそうです。

そしてこの曲、牛田くん自らが弾きたいと申し出たとのこと。

 

客席にお辞儀をし、指揮者やコンマスとアイコンタクトを取ります。

 

いきなり聴こえてきたのは、地底の奥深くから這い上がってくる悪魔の鼓動。

長く爪を伸ばした筋だらけの細い腕に心臓を鷲掴みにされそうで、きゅっと身が縮まります。

 

牛田くんの表情も真剣そのもの。

 

今までピアノのソロで聴いていたパートをオーケストラが演奏することで、その異様なまでの闇の暗さががさらに深くなったように感じます。

 

牛田くん、右手と左手がそれぞれに生命を持った別の生き物のよう。

気味の悪い低い笑い声をあげながら忍び寄る左手。

悲鳴をあげながら、激しいグリッサンドで逃げ惑う右手。

 

爆音を奏でていたピアノは突然超絶技巧の細やかな動きを見せます。

 

中間部ではうってかわってゆったりと、

慈しむように、いとおしむように、指の隙間からこぼれ落ちていく運命をもう一度すくい上げるかのように。

優しく美しく会場の隅々まで響き渡るピアニッシモ。

さっきまでの恐怖から解放されて、聖母の胸に抱かれているみたい。

 

と、唐突に再び入った悪魔のスイッチ。

それが徐々に変化して、雲の隙間から差し込む希望の光のように。

 

牛田くんとオーケストラは、この世とあの世を、光と闇を、交互に映し出します。

追いかけられ、優しく許され、再び逃げ惑い、散々に振り回される私達聴衆。

 

やがて激しいクライマックス。

何度も繰り返されるグリッサンド。

上り詰めるジェットコースターのように、目に見えないような速さで力強く動く指!

フィニッシュ!

 

すごい!すごいものを目の当たりにしてしまった!

 

当然沸き起こる大喝采。

 

弾き終わると牛田くん、すぐに立ち上がり、三ツ橋さんのところに駆け寄ってハグ。

こっちを向いている表情から、微笑みながら口元が「ありがとうございました」と動いているのが見えました。

 

 

えー、皆さま。

ワタクシ、以前書いた記事で、

「初の女性指揮者との共演で、牛田くんは演奏後にハグするのだろうか?」

という俗物極まりないことを書きました。

 

牛田くん、なんの迷いもなく、三ツ橋さんとハグしてましたよ。

でもそれは、智に素晴らしい音楽を作り上げた同士を讃え合う、とても爽やかで素敵なハグでした。

なので私、心に波風立てず、尼僧のような平常心でその光景を見守ることが出来ました。

 

 

 

・・・ってのはウソ。

 

スミマセン。わたくしちょっと見栄をはりました(//・_・//)

 

本当は、とっても裏山鹿ったーーーっ!

。゚(T^T)゚。

(ええ、やっぱり私はゲス野郎です智)

 

 

 

 

さて、おのれを取り戻しましょう(*v.v)。

 

 

牛田くん、コンマス、副コンマスとも握手を交わし、舞台袖に入りましたが、拍手に応えて登場。

 

次に出てきたときはピアノの前に座りました。

 

さて、何を弾くのかな、と思いきや、ファーストアルバム「デビュー」に入っていたリストのコンソレーションでした。

 

さっきまで悪魔の音楽を奏でていた同じ作曲家、演奏家が、今度は天使の音楽を…。

 

懐かしさと、あまりの音色の優しさに、思わず涙がじわり。

 

昼の部のアンコールがシューマンのトロイメライだったそうですので、夜の部でのリストのコンソレーション。

この「リストとシューマン」という企画を意識した粋なはからいですね。

そんなところもニクいです。

 

それにしても、久しぶりに聴いたコンソレーション。なんて、なんて美しい曲なのでしょう。

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終わって深々と頭を下げ、袖に入っていきましたが、何度目かに三ツ橋さんと繋いだ手を上げて挨拶してくれました。

 

その表情には、やり切ったという充実感と高揚感が見て取れて、見ているこちらも幸福な気持ちでいっぱいになりました。

 

牛田くん、お疲れ様。

激しいグリッサンドで指を傷めてないといいけど。

 

 

 

3曲目のシューマンの交響曲第2番。

 

シューマンが精神疾患と戦いながら書き上げた曲だそうですが、曲自体は普通に心地よく、でも、ドラマチックな2曲のあとだったのでやや退屈に感じました。

 

それよりも私は三ツ橋さんの指揮にすっかり見入ってしまいました。

 

小柄でありながらエネルギッシュで、その指揮は男前。

 

時々横の方を向いたとき表情が見えましたがとても楽しそうに微笑んでいて、瞳がキラキラ輝いていました。

 

ああ、この人も音楽が好きで好きで仕方ないんだろうなあ。

昨日大東市であったという公開リハーサル。三ツ橋さんのトークもあったそうで、この方の声やしゃべるところ、聞きたかったなあ。

 

この方、まだお若いのに経歴も素晴らしく、かの小澤征爾氏のアシスタントを務め、中国公演では小澤氏の代役で指揮をしたこともあるのだとか。

 

長い髪を後ろでひとつにまとめ、小さい体を精いっぱい伸ばして、体全体で指揮をする後ろ姿はとても頼もしく、私もオケの団員になって、この人の指揮で演奏してみたなあ、なんて思いました。

 

演奏後、たくさんの、たくさんの拍手を受けて、再び舞台に登場した彼女の額には汗が光り、笑顔がとても素敵でした。

 

美しいドレスに身を包んだ演奏家の女性も素敵だけど、

黒いパンツスーツに身を包んだこの方の魅力は全く別物で、そして圧倒的でした。

 

 

音楽って、やっぱりいいですね。

 

牛田くん、三ツ橋さん、大阪交響楽団の皆さま、

 

素敵な演奏をありがとうございました!