このタイトル、まるで牛田くん自身が戴冠式を迎えたみたいですね(*^ ^*)




でも、ある意味その通りだと思います。



2015年10月30日(金)


東京フィルハーモニー交響楽団 

第871回サントリー定期シリーズ


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ご存知、現在療養中の中村紘子さんのピンチヒッターとして、牛田くんがソリストに大抜擢された今回の公演。


10月から新しいプログラムでのリサイタルツアーが始まり、先日札幌、釧路の公演を終えたばかりだというのに、なんというチャレンジャー!


きっと、このお話が来た日から、寝る間も惜しんで猛練習を重ねてきたことでしょう。



ランラン、ユンディ、中村紘子さん…、と、世界の名だたるピアニストの演奏を、サントリーホールで聴くたびに、いつか牛田くんの演奏をここで聴いてみたいな、と思っていました。




その日がこんなに早く来ようとは!


(中村紘子先生のご快復を、心よりお祈り申し上げます)



サントリーホールの椅子に腰をおろし、見れば舞台中央に置かれているのはいつものスタンウェイではなくYAMAHA。

これはちょっと意外でした。


リハーサルの感触で、牛田くん、YAMAHAにしたんでしょうか。



オーケストラの団員が次々と舞台上の椅子を埋め尽くし、


清々しい笑顔で登場しました、16歳になったばかりのピアニスト。


離れた席に座っていた友人の周りのおじ様方の口から、


「おおっ!こんな若い子が…!」


という声が漏れたそうです。


そう。あの大巨匠、ぴろ子先生の代役を、まだ幼さの残るこの彼が務めるのですよ(エッヘン!)



このところ、リサイタルでもジャケット着用の演奏が続いていたので、今日もジャケット姿かと思いきや、

いつものベスト姿に赤いネクタイ。

私、デビュー当時から変わらない、この牛田くんのベスト姿が大好きですラブラブ



この日の舞台、元々はぴろ子先生のピアノが聴きたくてチケットを買った方が大半でしょうから、牛田くんにとっては言うなればアウェイの状態です。


でも、団員たちの間を縫って舞台前方に登場した瞬間から、彼は聴衆の心をしっかり掴みました。


2階席に、1階席に、前方に、横に、後ろの席に。

心を込めた極上の笑顔と優雅な動きで挨拶した瞬間から、

彼を愛さずにいることなんて出来るのでしょうか。

だって、彼の方から先に真心を贈ってくれるんですもの。



椅子に座って、指揮者にニッコリと「はい。大丈夫です。」と言うように頷く様子からは、

ピリピリした空気は全く感じられず、むしろこの緊張感を楽しんでいるようにも見えました。


そういえば、約1年前、埼玉で「ラフマニノフピアノ協奏曲第2番」を初披露した時の彼は、

緊張した面持ちで、演奏する前に「ふうー」と大きなため息をついていました。


この1年間が、牛田くんにとってどれだけ濃いもので、

どれだけ彼を強く大きくしたことでしょう。


しばらく続くオーケストラの演奏を聴きながら、小さなカイロで指を温めて「その時」を待つ牛田くん。


緊張とワクワク感の混在を楽しむような、余裕さえ感じるその様子。

先日ショパンコンクールで優勝した、チョ・ソンジンさんの演奏前の表情を思い出しました。


「その時」が来て、牛田くんのピアノがオーケストラの演奏と溶け合いました。

今日のYAMAHAの音色は、いつものスタンウェイよりもやや硬いような気がします。

でも、だからこそ、軽くなりすぎず、まっすぐで、忠実で瑞々しい若葉のようなモーツァルト。


時に口を少し尖らせて口笛を吹くように、

手元を見ずに視線を上げて、

にっこりと微笑みながら、

集中しているときの癖?それともリラックスしてるから?

いつものようにぐっと下顎に力が入って桃色の舌が顔を出す。


いろんな表情でモーツァルトを奏でる牛田くん。


ああ、牛田くん、楽しそう!(^-^)音譜


音楽の喜び。ピアノを弾く喜び。音を融合させる喜び。


そんな喜びを全身で現している。


だから、聴いているこちらも心が喜びで満ち溢れてくるんです。



一昨年12月の「お菓子の世界」のコンサートで、洋菓子評論家の今田美奈子先生が、

「自分をモーツァルトの生まれ変わりだと思わない?」

と彼に質問したところ、

「思いません。」

と、きっぱり答えたというエピソードを思い出しました。



そうだよね。

モーツァルトはモーツァルト。

牛田くんは牛田くん。

世界にたった一人のオンリーワン。



ああ、だけど、牛田くんにはどうしてこんなにモーツァルトが似合うんだろう。


それは、モーツァルトの音楽と、牛田くんの持つ天使性が共通しているからでしょうか。天使


ロシアの先生に、「君の弾くショパンは悪魔的」と言われたそうですが、


牛田くんの弾くモーツァルトはどこまでも天使的だと思います。



私、やっぱり牛田くんの弾くモーツァルトが大好き!!!


明るくて、優しくて、あったかくて、柔らかで…。



『戴冠式』というゴージャスなタイトルのわりに、これを作った時のモーツァルトはお金に困っていて、

その場しのぎのようにこの曲を作り、発表時も評判がよくなかったそうですが、

本当なの?と思ってしまう。


この演奏をモーツァルトに聴かせてあげたい。

約200年の時を越えて、あなたがその場しのぎで書いた曲が、

今、日本という国で、たくさんの人達を幸せで包んでいるよ、って。


楽曲解説をよく読んでみると、第2楽章に関して

「ピアノ独奏パートの楽譜は、左手には音符が何も書かれていない。今日ではたいてい、モーツァルトの没後、初版の出版時に(おそらく)ヨーハン・アントン・アンドレが補筆した左手パートで演奏する。」

「一部、即興も入れるそうだ。」

と、あるのですが、牛田くん、第2楽章を即興で演奏した部分がもしかしてあったのでしょうか?

わたくし、この日のために図書館で戴冠式のCDを借りて、何度も何度も聴いてきましたが、そんな高度なこと全く分かりませんでした(T▽T;)

(どなたか分かった方、教えてください)



第3楽章では、ピアノソロの休憩の時には、指揮をするように、膝の上に置いた指を小さく立ててリズムを取るように動かしていました。


キラキラとビーズを散りばめたようなクライマックス。



しばらくの沈黙の後、押し寄せてきた大きな拍手の波!


立ち上がって、指揮者と、コンマス・副コンマスと握手を交わし、自らの胸に手を当てて、会場の四方に挨拶する牛田くん。



中村紘子さんが演奏していたら、もっと芳醇で、もっと濃厚なモーツァルトだったかもしれません。


でも、紘子さんを意識することなく、最後まで自分らしく、真っ直ぐな16歳の牛田くんそのものの「戴冠式」。



素晴らしい!

牛田くん、本当に素晴らしい!!



袖に入っても拍手はおさまらず、それを受けて段になった舞台に再び登場する時の牛田くんの姿が、

一瞬舞台横にある鏡部分に映りました。


ぴょん、と駆け上がるように勢いよく段をのぼる牛田くんの姿は、自由な野うさぎのようで、若さに溢れていて…。ウサギ



舞台中央に立ったまま、真心のこもったご挨拶。



何度も言います。


だから私達はあなたを愛さずにはいられない。



「定期演奏会の時はアンコールはないみたいだよ。」とファン智さんから聞いていたのですが…


2回目の挨拶が終わって、袖に入る牛田くんを、指揮者の渡邊さんが追いかけて、何か伝えた様子でした。


鳴り止まない拍手に再び舞台に姿を現した牛田くん。


なんと!ピアノの前に座りました。


弾いてくれたのはおなじみのプーランク「エディット・ピアフを讃えて」。


少し硬質な(と私は感じました)YAMAHAが奏でるエディット・ピアフは、強く深く心にしみこんで、

柔らかで軽やかなモーツァルトの後で、人々の心にしっかりと楔を打ちこみました。


またもや拍手の嵐。


よくやったね!大きな重圧の中、すっかり聴衆を魅了して。

大役をやり終えたね!おめでとう!


そんな心のこもった、みんなからの拍手喝采でした。


牛田くんが姿を消しても、その大快挙に拍手を止めることが出来ず、

それを受けて、4回目にも姿を現して、愛と感謝のこもった挨拶で応えてくれる牛田くん。


牛田くん。見て!聴いて!

この割れるような拍手、全部あなたのものだよ!

しっかり味わってね。しっかり受け止めてね。


本当にあなたという人は、どこまで凄い人なんだろう。


柔らかな物腰でありながら、どこまでハートの強い人なんだろう。



この演奏こそが、療養中の紘子先生への大きな大きな花束になったと思います。




そして、紘子先生から、牛田くんにも「経験」という大きなプレゼントが贈られましたね。


奇しくも、今日のタイトルの『戴冠式』。


本当は牛田くんの頭に、輝く王冠を乗せてあげたい。王冠1

(もうさっき載せちゃったけどね(≧▽≦) )



一歩一歩、着実に階段をのぼっていく牛田くん。

そんなに急いで遠くに行かないで。

ううん。どんどん世界にその翼を広げていって。



嗚呼…。

ファンの気持ちと言うのは、げに複雑なものですね。(ノω・、)






紘子さんの演奏が聴きたくてチケットを買った人も、

牛田くんのピンチヒッターを知ってチケットを買った人も、

全員が大満足してこの日家路についたと思います。


ええ。私もその1人です。



牛田くん、おめでとう!

そして、ありがとう!