東京が梅雨入りした6月5日。
東京オペラシオティにて
『牛田智大 with ウィーン・カンマー・オーケストラ』
のコンサートがありました。
わたくし、オーケストラとの協演の「ソリスト・牛田智大」の演奏を聴くのはこれが初めて。
ああ、どんなにかこの日を心待ちにしていたことか!
小編成のオーケストラによる『モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136』の演奏のあと
登場した牛田くん。
彼を最後に見たのは3月末の山梨リサイタル。
たった2ケ月ちょっとの間に、さらに背が伸びたみたい。
そして今回の彼は、珍しくノーネクタイ。 ベストの下に着た白いシャツの第一ボタンもはずしています。
3月のリサイタルの時、何度もネクタイに手をやる姿を目にしましたが、
首が苦しいというよりは、演奏に熱がこもって暑くなり、パタパタと襟元から空気を入れているような印象でした。
きっと今日までのツアーの中で、演奏に熱が入り、「暑いなぁ・・・」という体験を何度かされたのでしょう(*^ ^*)
さて、にこやかに登場したソリスト、前髪がかなり伸びてます(^ ^)
美しいお辞儀をした後、ゆったりとピアノの前に座り、
指揮者と団員の方に顔を向け、「はい。僕の方の準備は大丈夫です。」と言うように、ニッコリ笑顔で頷きました。
♪『ショパン ピアノ協奏曲第2番』
始まったオケの演奏に身を任せるように、体全体を揺らしながら音楽に乗っている姿は心地よさそう。
時々、目にかかる前髪を指ではらいます。
見た目は少年そのものなのに、その表情は、団員を包み込むような慈愛に溢れているんです。
体を揺らしながら、ゆっくりと会場全体を見渡して、バルコニー席に見知った人の顔を見つけたのでしょう。前方と横の方に、とても丁寧な会釈を1度ずつ。なんという余裕…。
…そして突然、スイッチが入ったように弾き始めました。
目の錯覚…? 弾き始めた途端に突然5歳くらい成長したような…・。
バルコニー席の私の場所からは、両手の動きがとてもよく見えたのですが、
白く長い指が、まるで鍵盤に吸いついているかのよう。
ただ軽く撫でているように見えるのに、その指は全く正確な音をとらえて、この上なく美しい音を出す。
本人も「一番運動している部分が成長するみたい。」と言っているように、見た目は華奢な少年なのに、手だけが大人のように大きくて、その長い指がものすごい速さで動くのを、信じられない思いで見ていました。
ラフマニノフもパガニーニも、手がものすごく大きかったというけれど、
これは生まれつき大きな手に恵まれていたわけじゃなく、人の何十倍も何百倍も努力して勝ち取った、血の通う楽器なのではないかと…。
そして、演奏に心を乗せて、人を魅了させるまでの領域に到達した者だけに与えられる、神様からのご褒美ではないかと…。
この手を勝ち取るまでに、彼はいったいどれだけの練習を重ねてきたのだろう。
そう思ったら、早くも胸が熱くなりました。
大好きな第2楽章。
牛田くんの演奏で、この美しいメロディを聴ける瞬間を、ずっとずっと待っていました。
このまま息を止めたら、時間も止まってくれないかな。
そう思って思わず息を止めてしまいたくなるほど、美しい音色が生まれては消えていくのが名残惜しい。
そして、そのせつなげな表情。
まだ一度も恋をしたことはないと言っているけれど、
きっと彼の魂は何度も何度も生まれ変わっていて、幾多の前世で枯れつくすほどの恋をしたに違いない。
彼の魂が、それを思い出しているから、こんな表情で、こんな演奏が出来るのではないだろうか…。
そんなふうに思ってしまうくらい、その表情も音色も、見ている者の胸をせつなくさせるんです。
第1、第2、第3…と楽章が進むにつれ、ピアノの音も柔らかくなっていくみたい。
オケのみのパートの時は、さっきまで自分のピアノが聴衆の心を鷲掴みにしていたことなんて全く忘れたかのように、信頼と安心に満ちた表情で、団員の方に上半身を向けて優しい表情を浮かべていました。
不思議。このくらいの年頃の少年にみられる自己顕示欲やエゴのようなものを、彼からは全く感じることがありません。
ただ、そこにいて楽しんでいる…。
けれど、自分の番になると、突然何かが憑依したかのように、ものすごい迫力で指が動きます。
指だけじゃない。体全体がピアノと一体化しているように・・・。
私の場所からは、オケの人たちの表情は見えませんでしたが、
団員達が安心して、ソリストのピアノを喜びつつ、楽しみつつ演奏しているのが分かりました。
まるで、「信頼のバトン」を渡し合っているみたいに。
取りつかれたようにピアノを弾く牛田くんの姿を見ていると、
こんなにも音楽の神様と相思相愛のピアニストがほかにいるのだろうかと思ってしまいます。
ピアノが好きで好きで好きで好きで…。 大好きで仕方ない。
それが伝わってくるから、私たちの胸はこんなに熱くなるのでしょう。
お金があっても食べ物があっても、愛情に溢れた中にいたとしても、
もし、彼からピアノを取り上げたら、彼は本当に死んでしまうのではないだろうか。
彼にとってピアノとは、命そのものではないのだろうか。
ピアノを弾くために、この音楽を私たちに届けるために、彼とピアノとの出会いは、生まれる前から決まっていたのではないだろうか…。
3月の山梨リサイタルの記事の中で、私は
「小さな少年ピアニストとして愛されてきた彼が、思春期の壁を迎えて戸惑っているかもしれない。
でも、安心して成長を続けてほしい。」
というようなことを書いたのですが、
今、私の目の前にいる彼は、「可愛い少年ピアニスト」という最大のチャームポイントを失いつつあることに、なんの不安も寂しさも感じていない。
体が大きくなり、力強い音が出せるようになったこと、手が大きくなって今まで弾けなかった曲が弾けるようになったことを、ただただ喜んでいる。
音楽を学び、新しいものを吸収し、新しい経験をしていくことが、嬉しくて楽しくて仕方ない。
そんなふうに見えました。
私たちファンの方こそ、彼の成長と音楽に、安心して身を委ねていればいいのかもしれない。
彼の演奏を目の当たりにして、何か大切なことを教えられたような気がしました。
華やかなフィナーレとともに演奏を終え、拍手の渦と飛び交う「ブラボー!」の中、立ち上がって深々と頭を下げる14歳のソリスト。
客席からはピアノの陰になって見えなかったかもしれませんが、指揮者のヴラダー氏と、両手でしっかりと握手を交わしていました。
胸の前で小くパチパチと拍手をしながら、舞台を去っていった牛田くん。
白熱した演奏で、右に左に体を動かしたからでしょう。
ベストの裾から白いシャツが出ている姿がいとおしい。
友達(の友達)の席からは、舞台袖に入ってすぐ、紙コップで水を飲む彼の姿が見えたそうです。
やはり、相当なエネルギーを使ったのでしょうね。喉も渇くよね.。(*^ ^*)
アンコールを求める拍手と、団員たちの靴の音に迎えられ、再びピアノの前に座った彼が弾いたのは、
大好きな「乙女の祈り」
さっきまでの襟を正したくなるようなピアノ協奏曲から一転、
会場全体が柔らかなピンク色に染まったような気がしました。
会場中の老若男女、オケの団員も指揮者も、すべての人が、彼と彼のピアノに恋をしたのではないでしょうか。
昨年12月、浜離宮の「お菓子の世界」のコンサートで初めて牛田くんの「乙女の祈り」を聴いた時、
あまりの甘く優しい音色に、私は自分の体が溶けて液状化したのではないか、と確認したくなるほどでした(笑)
ピアノを習うと誰でも一度は弾いてみたいと思うこの曲。
鍵盤の上を、白く長い指が、それはそれは優しく美しく舞っているようでした。
最後のオクターブ奏法のところ、ここを叩き付けるようにフォルテで弾く人が多いと思うのですが、
牛田くんの演奏は、優しく柔らかく、ひとつひとつの音が途切れずに真珠の首飾りみたいにつながっていて、この上なく心地いいんです。
プログラムの曲の時とはまた違って、牛田くん自身がとても楽しそうにリラックスした表情で弾いてくれるアンコール。
牛田くんの体温が一番感じられる時間だと思います。
新潟、大阪では、どんな曲が飛び出すのでしょうか♪
協演したウィーン・カンマー・オーケストラ。
初日の福岡公演でホルンがコケたと聞いていたので、ちょっと心配していたのですが、
今回はホルンも問題なく、弦楽器が揃っていて驚くほど綺麗でした。
指揮者のヴラダーさんは、とっても表情豊かに、楽しそうに、踊るように指揮棒を振っていらっしゃいました♪
指揮者、ソリスト、オーケストラ。三位一体のとてもまとまりのあるいい演奏会だったと思います。
今回はずっと欲しかった「思い出」の楽譜を購入。
直筆サインはCD「Lizst & Chopin」を買った人しかもらえない、とのこと。
でも、私、「Lizst & Chopin」は既に2枚持ってるし、だけど、この「お目々ぱっちりバージョン」のサイン、まだ持ってないから欲しいし…(T T)
と嘆いていたら、友達(の友達)が、私のために、一度買った「デビュー」を返して、「Lizst & Chopin」を買いなおして、サインをプレゼントしてくれましたっ!
「素敵な演奏会を紹介してくれたお礼」 ですって♪
(≧▽≦)うれし~っ!
ちなみに、今回初めて牛田くんの演奏を聴いたという、友達(の友達)二人…、いや、もう私の「友達」でいいや(笑)、
いろんなジャンルのコンサートや舞台に行っているそうですが、
「今まで牛田くんの演奏ほど心を揺さぶられるものに出会ったことはなかった」
そうです!!
次も絶対行きたいとのこと (^ ^)
私のまわりでは、確実にファンが増えてます♪♪
今回も、とっても幸せな気持ちになりました。
牛田くん、どうもありがとう!!!![]()
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