TPP《環太平洋パートナーシップ協定》では、医療分野での解禁=規制緩和が求められている。
米国は過去に「外国貿易障壁報告書」の中で、日本に対して、医薬品、医療機器の規制緩和と、営利企業による病院経営を求めてきました。
医療機関に営利企業の参入が認められれば、
株主配当が優先され、コスト削減や不採算診療科の地域からの撤退といった事態も起こりかねません。
経済力による患者の差別の懸念もあります。
利益を出すために、混合診療の全面解禁への圧力も大いに高まるでしょう。
医療の均一化が図れないばかりか、患者への負担増は必死となります。
☆国民皆保険制度崩壊の予兆☆
安倍首相は「世界に誇る国民皆保険を断固として守る」と言います。
しかし、国民皆保険とは単にすべての国民が保険に加入していればいいというものではありません。
日本医師会は
第1に公的な医療給付範囲を将来にわたって維持すること
第2に混合診療を全面解禁しないこと
第3に営利企業(株式会社)を医療機関経営に参入させないこと
この3つが守られることにより、世界に誇る『国民皆保険』といえるのです。
ところが、先のTPPの貿易障壁にもある通り、混合診療の全面解禁や、営利病院の運営となると国民皆保険制度が根底から崩れてしまい、医療保険は個人個人で民間保険会社の医療保険・がん保険に加入することになり、低所得者は保険に加入出来なくなり医療サービスを受けられなくなります。
☆医薬品費高騰のおそれ☆
医療分野でのTPP交渉の最初のテーマは、おそらく医薬品や医療機器の価格規制の撤廃・緩和要求となるでしょう。
そうなると未承認の薬使用=自由診療となり混合診療の問題が最終的な支払の時に出てきます。
◆混合診療とは◆
公的医療保険で認められている診療(保険診療)と、認められていない診療(保険外診療)を同時に受けること。
たとえば、保険診療と国内未承認薬の処方(保険外)を同時に受けると・・・
診療は不可分一体なので、混合診療で問題が発生した場合に、公的医療保険の信頼性も損なわれるため現在は、
「保険診療の全額自費(10割)+保険外の全額自費(10割)」を負担することになります。
つまり、保険診療の本来なら3割でよかった部分も保険外となる自由診療を受けると10割となってしまうのです。
これを「保険診療の一部負担(3割)+保険外の全額自費(10割)」にしようというのが、「混合診療解禁」の考え。
◆混合診療を禁止する理由◆
1)医療の平等=1つは、国民への平等な医療を保障すること。
混合診療を認めれば、お金持ちばかりが、高度な医療の恩恵を受けるという不平等(医療格差)が生じるのを防ぐためです。
そこには、医療の機会均等という考えが根底にあります
2)医療の質の確保
健康保険が保障していないような、安全性及び有効性が確保されていないような悪質な医療行為の蔓延を防止することです。
3)医療費増加の回避
混合診療が解禁されれば、科学的根拠の無い、訳のわからない、怪しげな民間療法が一気に広がることが予想されます。
安全性が確認できない治療が行われることによって、それが原因で患者に健康被害が発生した場合、その治療の為に社会保険が適用されて結果的に国民医療費が増える可能性があります。
◆現在混合診療が認められているのは◆
差額ベッド代や時間外診療、高度先進医療など厚生労働省が「特定療養費」の給付対象として認めた12分野です。
■ 特別の療養環境の提供(差額ベッド料)
■ ベッド数200床以上の病院についての初診
■ ベッド数200床以上の病院についての再診
■ 予約診療
■ 診療時間外の診療
■ 薬事法に基づく承認を受けた医薬品の授与
■ 入院期間が180日を超える入院
■ 高度先進医療
■ 治験に関する診療(治験依頼者の負担)
■ 前歯部の金属材料差額
■ 金属床総義歯
■ う触(むし歯)患者の指導管理
◆高度先進医療◆
「高度先進医療」は例外的に保険治療と保険外治療を併用する混合診療です。平成17年7月現在で、承認された「高度先進医療」は111種類(医科は100種類、歯科は11種類)あります。
◆保険が効かず自由診療となるもの◆
■ 美容整形
■ 歯列矯正
■ 自然分娩での出産および出産前の検査
■ 避妊手術、人工中絶
■ 保険医療機関以外での治療、鍼灸、マッサージなど
■ 人間ドック、健康診断、予防注射
■ 保険で認められていない検査法、手術法
■ 薬価基準に載っていない医薬品
■ 保険で認められていない材料を使った歯科治療
■ 特定承認医療機関以外で受ける高度先進医療
◆日本医師会が反対しているのは混合診療の「全面」解禁◆
混合診療の全面解禁はどんな場合でも
「保険診療の一部負担(3割)+保険外の全額自費(10割)」にしようということです。
しかし結局のところ、保険外の全額自費を支払えるのは、高所得者に限られます。
混合診療が全面解禁されると・・・
○先進医療や新薬は、その部分の全額自費で受けられるようになる。ただし、全額自費部分を支払える高所得者しか受けられない。
○先進医療や新薬は、公的医療保険にしなくても全額自費で受けられる。
そこで、国は、手間のかかる評価をしてまで公的医療保険に組み込もうとしなくなる。
そして将来公的医療保険で受けることができる医療などは少しだけに。
このままいくと・・・
医療が自由価格で提供されるようになれば、民間企業や投資家にとって、魅力的な市場が開けます。そうなると、本当にお金がなければならない時代がやってきます。
このことは『日本人の生命を外国を含む「産業」に差し出すこと』になります。
◆患者側にとって「混合診療解禁」とはどのような意味があるのか?◆
実現すれば、それぞれのニーズにあった先端治療を受けられるようになるメリットはある。
現時点で日本では未承認だが、世界では標準治療薬として使われている抗がん剤は30くらいある。
これ以外にも標準治療薬になってはいないが世界で広く使われている未承認の抗がん剤は70以上にのぼるのです。
「医者が、健康保険の使える抗がん剤をいくつか患者にためしてみたが効果がないので、アメリカで治療効果がはっきり認められている抗がん剤を患者に投与したとたん、全ての医療費が自己負担になる。」こんなことが許されていいのか、というのが患者側の問題意識の根底。
ここで、重要なのは、患者は無料で医療サービスを受けているのではないということです。
それまでどの方も毎月こつこつ掛け金を支払って将来の病気に備えてきたんです。まじめに掛け金を支払っていれば、いざというとき少ない自己負担でまともな治療を受けられると信じて支払ってきたのです。
それなのに、アメリカやヨーロッパでごく当たり前に使われている抗がん剤を使ったというだけでがんの治療費全てを自分で支払わなきゃいけなくなるなんてとんでもない話です。
こんな患者のニーズを無視した規制を続ければ健康保険はなんの意味があるのかという議論にもなるのです。