きなこの部屋

まだ6月だというのに、焦げ付くような太陽の光と熱。道路沿いの紫陽花は枯れかかって。

大きな日傘の影に縮こまるように歩いて、突然、異国にたどり着いたような！

モネの睡蓮が書かれた窓！素敵な門！

門をくぐると中庭が。

部屋の扉の色はそれぞれ違う・・！

先月プレオープンしたばかりの「きなこの部屋」へ。

きなこの部屋とは・・

かつて根津にあったアンティーク着物のお店「きなこ」の店主さんが月に数日間オープンする小さなお店。

アンティーク雑貨や着物、素敵な布たち、きなこハウスの保護猫チャリティーグッズ、美味しいものなどの展示販売を。

（売り上げは保護猫活動の資金に）

以前のお店を始めた場所には野良猫がたくさんいて、そういう場所には猫を捨てに来る人もたくさん・・。なんとかしてあげたい、と里親さんを探すところから、保護猫活動へ。

「ボランティアをしていると動物達の相談を受けることも増えました。
飼育放棄される動物達、野良猫をめぐる地域のトラブル、多頭飼育崩壊、生体販売…問題は沢山あります。

ボランティアを通じて分かったことは、これらは全て人間の問題だということでした。
法律を変えることも大事ですが、私達ひとりひとりが現実を知り、行動を変えることが何より大切だと感じました。」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　きなこさんのブログより

保護猫活動きなこハウス私がお店を始めた場所は、野良猫が沢山いました。猫が沢山いる所には、捨ててゆく人も多く、何とかしたいと1匹ずつ保護して里親さんを探すところから始めました。ボランティアをしていると動物達の相談を受けることも増えました。飼育放棄される動物達、野

kinako.biz

猫自身の問題ではなく、「これらは全て人間の問題」

身勝手に安易に、命に関わるから、問題は常に起きる。

声なきもの達の声。

きなこさんは声なき声が聞こえる方だったのだろうなぁ・・。

猫飼いさんたちはそれを「猫が選んだ」「猫が呼んだ」と表現するそうだ。

私は人間（身内）の世話で精一杯で、とても別の生き物を自分のテリトリーにいれる気が毛頭ない。毛頭ないけれども・・生き物に選ばれた方々は偉いなぁ～と、ただただ尊敬。

きなこさんとは催事で何回かお会いして、柔らかな物腰、優しい声、ほっとさせる雰囲気に惹かれるものがあって、ささやかだけれど活動を応援させて頂いてきた。

今年の2月26日、19年一緒に暮らし、お店の名前にもなった猫「きなこ」が亡くなる。

「きなこ、今朝9時19分、亡くなりました。
朝イチで病院に行く予定で準備していたら、あれ？様子がおかしいと感じて、それから本当にあっという間に。
最期は抱きしめて、私の腕の中で息をひきとりました。

亡くなったあと瞼を閉じようとしても、どうしても目は開いたまま。
いつもきなこは、この大きな瞳で私のことをじっと見つめていました。
晩年に大きな声でいつまでも叫ぶように鳴いていたのは
「私を見て！私だけを見て！！」って言ってたんだよね。
だから夜中に1時間ごとに起こされても、出来る限りきなこを抱きしめるようにしていました。

私のことずっと見ていたから、手を煩わせないようお金を使わせないように、あんなにあっけなく逝ってしまったのかな、、、と思うと、きなこが不憫で、いじらしくて、胸が痛いです。

あんな素晴らしい子と長い間一緒に暮らせて、私の方は本当に本当に幸せだったけど
きなこは、私が保護活動などしていない普通の飼い主だったら、もっと幸せだったろうな。いつもそう思ってた、ごめんよ。」（Instagramより）

4月16日には保護猫のぴぴが。立て続けに命を看取られて、そんな哀しみの中で、こつこつと準備なさったお店。多くの方々がささやかな手助けをして、足りないものがすこしずつ満たされてお店ができていく。あたたかい思いが繋がる。

そんな中、もう一匹の保護猫チャビコが体調を崩し、病院に預けながらの6月のオープン。

猫も高齢になるとあちこちいろいろ出てくるそうで、なんとなくそれは高齢者を3人抱えて、転倒や体調を崩して受診だのに振り回される自分の姿にも重なる。

5日前にも義父の不調で半日通院付き添いだった。3人が入れ代わり立ち代わり・・。少し前までその都度、両親に自分の時間や自由やいろんなものを搾取されているような、そんな追い詰められた気持ちになっていた。その上義父もかぁ～トホホ・・。（今はすっかり元気でホッ。）

なんとなく母も父もあと10年もないな、長くても5年くらいかな、と感じた瞬間があり、致し方ない、最後までとことん付き合ってみよう、と腹をくくってからは、なんとなく違って感じられるように。まだまだ、母のおむつ替えではやるせない気持ちに襲われたり、中々慣れないけれども・・。命を燃やし尽くそうと最後まで生きる姿から、きっと学ぶことがあるんだ。

エリナー・ファージョンの童話の中の、パスタがない、パスタがないと泣き叫ぶ人々の声が対岸から聞こえてきていてもたってもいられずに、人々にパスタをもたらす為に海へ、教会へ、リンゴの木へ、オリーブの木へ、空飛ぶ鳥へ次々にお願いをしにいく、トリポリの王さまの物語を想い起こす。

何か、得体のしれない大きな力に否応なく巻き込まれて、対岸から響く嘆きに耳をふさぐことができなかったトリポリの王さま。

召使いが止めようとも「自分の心が安まらぬからだ」。玉座から立ち上がり、胸の中で聞いた嘆きの声の理由を探し求めて。（「トリポリの王さまがパスタをもってくる」ファージョン全集２イタリアののぞきめがね：岩波書店）

猫であっても人であっても、同じ気がする。

私には猫ではなくって、年老いた人たち3人の命を燃やし尽くす姿を最後まで見届ける役割が与えられただけで。見なかったことにして逃げる、とか聞こえなかったふりも出来たかもしれないけど、それは選ばなかった。

きなこさんのInstagramでの投稿は、日々病状が変化する猫との生活で本当に本当に大変なんだけれど、大変でもそこに大変なだけでない、弱弱しいけれども透明に発光するきよいひかり、みたいなものをみいだしてる気がして・・あとほんのちょっとがんばってみようかなって勇気をもらう。

「こんにちは」と、扉を開けると、きなこさんが私の名前を呼んで笑顔で嬉しそうに出迎えてくださる。ちょっとこう、それだけでグッときてしまう・・。

入り口には古い建具で作られた猫の為の脱走防止柵が。

これがここに出来上がるまでにもドラマがあった。

保護猫を連れてきたいけれども、脱走防止柵がなければ・・。設置には相当な費用がかかる、と悩まれていた矢先、数年前にアンティークの花嫁衣裳をお貸ししたご夫婦からの申し出があり、きなこさんのご実家の物置にあった古い建具を使って手作りの防止柵が完成したのである。

そのご夫婦がご結婚なさる時のこと。

和装のレンタルを探してあるお店に行くと、レンタル代は50万！とてもだせない・・と諦めかけていたけれど、たまたま近くにあったきなこさんへ。レンタル料5万円！（しかもとても豪華なアンティークの花嫁衣裳！）お二人はその後遠方に引っ越されたけれど、Instagramでずっと繋がっていて、ちょうどこちらに戻ってこられることになり、もしかしたらお役に立てるかも？と申し出てくださったそうだ。

あの時の御恩がやっと返せますね！と心込めて美しい木の脱走防止柵を作ってくださった。

もうねぇ、私は特別に安くしたわけじゃなくって、5万円でレンタルしていたから普通にお仕事として料金は頂いたのに、そんな風に言ってくださるのよ、と。

きなこさんも私もうるうるしながら、新しい木と古い木で作られた建具にそっと触れて飽きずに眺めてしまう。

人と人との思いが繋がって、なんともはや・・こういうあったかいことがあるから、なんとか今日もがんばっていこう！と思えるのだなぁ。