まぼろしの白馬 エリザベス・グージ あかね書房読了。

中学校の図書室にあかね書房の国際児童文学賞全集がずらりと並んでいた。ほとんど誰も借りた形跡のない図書カード。

題名とユニコーンの布表紙に惹かれて手に取った。(ビニールカバーついてたけど・・)

 

現在岩波書店の岩波少年文庫より復刊されている。

大人になって復刊を知って小躍りして買い込んだ。

 

 

 

 

 

あらすじは

 

「古い領主館ムーンエイカーにひきとられた孤児の少女マリアは,館にまつわる伝説に興味をいだき,その謎を解こうと大はりきり…….活発で明るいマリアは,長いこと女っけのなかった森の館の静かな生活を一変させ,周囲のおとなたちを事件にまきこみます.カーネギー賞を受賞した,スリルあふれるロマンチックな物語」

 

紙のケースの物語の説明↑

責任編集がそうそうたるメンバー!!すごい~~~!!

(ん・・・?美少女マリアになってるとこだけ気になる。)

 

「マリアがこのお話の主人公です。(略)眼は銀色がかった灰色で、何事も見抜いてしまいそう。髪はカールしていない赤毛、顔はやせていて、青白くそばかすまでついていました。つまり、マリアは美しい子ではありませんでした。しかし、妖精のように小柄で、背すじはまっすぐにのびていて、威厳がありましたし、小さなきゃしゃな足は、なによりもマリアのごじまんでした。」(P11)美少女、というより、印象的な芯の通ったちいさな淑女。

 

 

小さく華奢な足がご自慢のマリアが履いているとびきりお気に入りの靴は、やわらかい灰色の皮で出来ていて足首のまわりに水晶の球が縫い付けられたもの。誰かの目に見えないけれど、そこに美しいものがあるだけで勇気が出る、そんな美しい靴。一体どんなだろう?そんな靴を履いてみたい。想像して溜息をついたものだった。

 

いわくありげな古い城、ムーンエーカー、塔の上の小さなマリアの為の部屋。(ルパン三世カリオストロの城のクラリスの閉じ込められていたあの塔の小部屋を思い出す!)天井は円形で、中央の一番高いところには、星で囲んだ三日月の彫刻が。そして天蓋つきのベッド!(青い絹のカーテン)はぁ~・・・。


 

何回読んだかわからないのに、あれ・・?こんなとこあったかな?と新鮮に読んだ部分がいくつか。

久しぶりに読むと読み始めた途端にふわぁ~~っとあたたかなものに包まれる。お帰り!とラブディかあさんのあたたかな抱擁と蝶がとまったような軽やかなキスを頬に受けているような安心感。
 

 

あかね書房版の冒頭に、訳者の石井桃子さんはこんな言葉を私達に向けて書いてくださっている。

 

 

エリザベス・グージが私達に伝えたかったものって、なんだろう?

 

マリアの勇気、詮索好きな心を抑えて、時を待つことの大事さ。意地を張らない、赦しあう尊さ。

黒い男たちとの対決、伝説の月姫や黒ウィリアムの最後の足取りを見つける冒険、謎が次々に明かされ、遂にたった一人で敵の頭と対峙する。

子どもの頃はその解決がなんとなく、あっけないな~と感じていたけれど、今は、超自然的な現象に遭遇した時、人がどんなに圧倒され、根底から覆されるのかわかる。

 

海の波が白い白馬になる映像美。これは本を離れたあともずっと頭の中に残り続けて、「まぼろしの白馬」を思い浮かべると真っ先に浮かぶ光景。

 

それ以上に「まぼろしの白馬」と言えば、やっぱり食べもの。

ここぞとばかりに美味しいものが次から次へと。当時は食べたことのないものもあって、どんな味だろうか、と想像したり。

 

物語を追っていく楽しさというより、一つ一つを思い浮かべながらあの世界に入っていくのが好き。

 

 

出てくる食べ物で好きなものに順位をつけてみた。

 

第1位 あわだっているしぼりたての牛乳!(P160)

ムーンエイカー館の凄腕料理人マーマデュークが、軽食に出してくれた。ピンクのさとうごろものかかったかわいらしいケーキを盛ったおさら、銀のおさらいっぱいのサクランボのさとうづけと一緒に。(・・軽食?)

 

第2位 海のあわのようなフンワリとかるいマーマデュークのパイ皮のパイ!(P106)

パイの中身は、子牛の肉、ハム、ゆでたまご、パセリ、タマネギのみじんぎりのつめもの。パイの表面は楕円で、花や派の形の飾りつけ。(そんなにかるいパイ皮って相当手早く作ってて、しかもどんだけバターが?きっと、さくふわほろっと崩れてじゅわりとバターの味が詰め物と調和していくらでも食べられそう。絶対に罪深い食べ物🤤)

 

 

第3位 マーマデュークがマリアとロビン(マリアがロンドンで出会っていた男の子)の為につくったお弁当!(P225)

ハム・サンドイッチ、ジャム・サンドイッチ、ソーセージ・ロールにアップル・パイ。ショウガのケーキにサフラン・ケーキ。ハツカダイコンに、瓶にはいった牛乳。角で作ったコップ。(角のコップはずっと持ってなきゃいけないから、飲み切れる分だけいれて二人は牛乳を飲んでいたのかな。それとも片手で持ったまま、反対の手でサンドイッチをつまみ食べ?アフタヌーンティのような甘味多めのお弁当。)

 

第4位 うす青の木の箱の中にはいっている花形にかためたおさとうのついた、きれいなビスケット(P32)

お腹が空いた時に食べられるように、マリアの部屋の炉棚に置かれていた!細やかな気遣いにキュンとなる。リンゴの木と松かさの燃えるかぐわしい香りの部屋でこんなかわいらしい気遣いがされていたら、一発でメロメロに。

 

第5位 初めてムーンエイカー館に訪れた夜の晩餐。(P36)

自家製の皮の固いパンに、熱いタマネギ・スープ。兎のシチュー、銀のおさらにのった焼きりんご🍎、はちみつに、こがねいろののバターに、あたためられた赤葡萄酒、ナプキンにくるんだ焼きたての栗。(タマネギ・スープはオニオン・グラタンスープかな?皮の固いパンははちみつやバターで楽しんだあと、最後にスープやシチューに浸して食べたら美味しそう・・。)

 

第6位 初めてのムーンエイカー館での朝食。(P55~P56)

こうばしくいいにおいのソーセージ。(自家製で茹でて焼いたもの?)自家製のハム、ゆでたまご、珈琲、紅茶、パン、はちみつ、クリーム、バター、しぼりたてのミルク。

 

第7位 牧師館でラブデイ・ミネットが持ってきてくれた朝食(P138)

ゆでたまごにコーヒー、ミルクとハチミツとバター、カリカリした自家製のパン。(ホテルのアメリカンブレックファーストみたい。カリカリした自家製のパンが気になる!

 

第8位 夜明けに招かれてマリアが食べたマーマデュークのささやかなる朝食(P262)

ピンクのゼラニウムの並んだ窓、赤と白の格子縞のテーブルクロス、美しいお皿や壺にたっぷりとはいった、リンゴ、牛乳、分厚いバターを塗った菓子パン!(入口のドアは緑。細長く一方のつきあたりは壁一面が窓。ベッドは足に車が付いていて移動可能、テーブルクロスとオソロの赤と白の格子縞のおふとん。マーマデュークの部屋が可愛すぎる!)

 

第9位 大団円のお茶会のメニュー(P265)

お茶にあうクラレット(フランス産の赤葡萄酒)に香料をいれ、お燗したもの。プラム・ケーキにサフラン・ケーキ、チェリー・ケーキにフェアリー・ケーキ、エクレアにショウガ入りケーキ、メランゲ、ミルク酒。

 

(なんだろう、フェアリー・ケーキって。妖精のケーキ・・?と、ず~っと思っていて調べてみたら、 Fairycake=イギリスの伝統的なカップケーキの呼称だった~!🧁マーマデュークは器用にちいさなかわいらしいカップケーキをたくさん作っただろうなぁ・・。)

 

第10位 黒い男たちが城で作る荒々しい男の料理!(P230~P232)

大きな炉の丸太の炎であぶった焼き串に刺した大きな肉のかたまり。村から盗んだ卵やパン、リンゴ酒。ピチピチした魚と盗んだ野菜で作った魚料理。(魚料理が何かすごく気になる。マリアが食べて「ほんとにおいしいおさかな」と感じているので更に気になる・・!)

 

第11位 ロルフ(大きな猫と思わせておきながら実はライオン)が食料貯蔵室に入り込んで食べてしまったもの。(P219)

昼食用のヒツジの足をまるまる一本、夕食用の牛肉、翌日の朝食用のハム全部。

 

番外編

 

☆物語で実際には食べない、マーマデュークの回想の館の晩餐会のメニュー(P266)

 トマト・スープに葡萄を添えた蒸しヒラメ

 

 

🍷青い鉢にたっぷりはいった玉子と青い甕の中の牛乳からマーマデュークがつくるミルク酒(P107)

 その日の晩餐に飲むものだから、エッグノッグみたいなお酒だろうか?

 

🍷クラレット酒(フランス産の赤葡萄酒)(P264)

調べてみたら12世紀くらいからつかわれている「ボルドーの赤ワイン」を指す呼び名だった!当時の赤ワインは現在よりも発酵時間が短かく色は淡いロゼだったので、濃く赤いボルドーの赤ワインをクラレット酒と呼ぶように。また、現在のボルドーワインと比べれば品質は低く、価格も安価。と、いうことは・・夜の晩餐のあたためられた赤葡萄酒は色の淡いロゼに近いお酒だったのかな?

 

こんなにお酒出てきてたのにびっくり。


 

抜き出してみたけれど、これだけ美味しいものが出てくるの、すごい。食事を共にしながら、心通わせていく人々。美味しい食事は平和の象徴のように感じる。

 

物語の中で読んだ食べ物は、味もしてほんとうに食べたみたいな満足感がある。幼い時分に読んで心で食べたものは、殊に。

(ナルニア国のエドマンドが食べた魔女のプリンやぐりとぐらのホットケーキみたいに。)

 

マーマデュークやラブデイが心を尽くし、手間暇をかけた食べ物。それをマリアに同化して私達もお腹いっぱい食べる。それは愛のたべもの、なんだと思う。

 

「貴方もマリアのように大事にされてしかるべき人ですよ、さぁ、たんとおあがり」

 

作者のエリザベス・グージさんからの、訳者の石井桃子さんからの、物語で心養う大切さを知っている大人達から飢えた私達へのごちそう。

 

いつでもこの本の扉を開けると、私は最大限の甘やかしを受けて幸福感に包まれる。まだ終わらないで、もっと続いていて。読み終えていくのが惜しいほどに。

 


 

 

 

岩波少年文庫の表紙と挿絵は原書のもので、とても可愛い。

 

岩波少年文庫のマリアとラブデイ・ミネット↑ドレスも帽子も髪型も、かごもみんなかわいい!!

 

 

 

あかね書房のほうのイラストも、最初がこちらだったので、やっぱり馴染み深い。

カラー口絵はすっかり忘れていて、手に入れてから気が付いて、おお~✨

 

読み始めてすぐ、マリアと家庭教師のヘリオトロープ先生のイラストがあり、そのヘリオトロープ先生が、説明そのままの姿で・・。

「先生の鼻は、ワシのくちばしのようなカギ鼻で、赤黒い色をしていました。(中略)背が高く、すこし前かがみに歩く先生は、うすくなったしらがで小さな輪をいうつもつくり、ピッタリと顔の周りにとめていましたが、これは先生が18の頃はやった髪形でしたから、もう60になった先生に似合うはずもありません。」

 

中学の時、ファンタジー好きな友達に「まぼろしの白馬」を勧めた時、「私さ~、イラストも綺麗なイラストがいいんだよね。イラストが今一つだと読む気なくなっちゃうの。あれ、あんまり好きじゃないからやめとく!」と言われたことが・・・。おそらく、ヘリオトロープ先生の挿絵・・・。うぅ、仕方ない。だって・・ヘリオトロープ先生の外見はまさにこんな感じで、だけど外見じゃなくて!マリアをすぐれた女性に育てあげることに、慣れない子育てに人生を捧げて、ほんものの愛情でマリアと結ばれてる先生のよさを作者は伝えたかったわけで!と心で吠えるも、そこは読まなきゃわからないよねぇ・・と諦めたのだった。

 

物語ではラブデイ・ミネットとマリアの心の交流の方が大きく描かれていて、ヘリオトロープ先生はほとんど活躍しないのだけれど、このマリアを育てたのがヘリオトロープ先生なのだから。

 

もしこの原書のイラストだったら、彼女は読んでくれただろうか。残念。

 

 

マリアとそう変わらない年齢(13歳か14歳)でこの本を読んでいた私は、ヘリオトロープ先生のこと、えらく年寄りと思っていたけれど、今回読み直してみて「まだ60歳?!やだ、私と4歳しか違わないじゃない?!」と少々衝撃だった。いつの間にこんなに時が経ってしまったのだろう。

 

でも、あの頃からずっと好き。そしてきっとこれからも好き!

 

 

一人で読み返しては「やっぱりまぼろしの白馬、いい~!」と感動していただけだったので、(4,5年前にメルカリで当時のあかね書房の古本を手に入れて、岩波少年文庫の方を姉に貸して初めて同志が。)今回読書会に取り上げて頂けるなんてとてつもなく嬉しい!たくさんの仲間が増えることに感謝を!