川瀬巴水 旅と郷愁の風景展(八王子夢美術館)へ。

 

 

大正昭和初期、版画が下火になった頃、新しい版画を!と作られた新版画。当時の風景を版元・画家・彫師・摺師がタッグを組んで生み出した総合芸術。
鏑木清方門下の川瀬巴水は版元渡邊庄三郎に見出され、風景専門の画家として版画の世界へ。


当時の彫師さん摺師さんの技術もすごい。これが版画なんて。水彩画のようでいて、水彩画とは違う。きっぱりとした線、主張し過ぎない優しい色。

月島の渡舟場 東京十二カ月 大正10(1921)年 渡邊版画店

 

初めて私が川瀬巴水の新版画に出逢ったのは箱根山のホテルのお土産のポストカードだった。

今とは違うつつじの咲き誇る庭に着物姿の女性達。鮮やかな懐かしさを誘う一枚にとりつかれたように旅から帰って画集を買い求め、これが新版画というものだと知った。(今回そのつつじの花咲く一枚があり、しみじみと嬉しかった。)

 



川瀬巴水はある一時期スランプになるのだけど、なんと民藝運動の高まり&棟方志功の版画が原因でもあった、と先日知ったばかり。描いて彫って摺る作業を1人であれだけの作品を作り出す棟方志功と比較し、批判されたという。

比較するものと違うとは、現代に生きる私だから思うのだろうか。

 

それまで浮世絵や新版画だけしかなかった世界に、棟方の版画はあまりにも鮮烈だったのかもしれない。

 

棟方志功に仏教を学ばせ深い精神性を叩きこんだ柳宗悦との出会いが彼の作品をさらに高め、評価が高まるほどに、新版画への批判も大きくなっただろうことは想像に難くない。古いものは新しいものに凌駕され、批判の中に埋没せざるをえなくなる。惜しいことに。

けれど、川瀬巴水が切り取った何気ない、そこに生きる人の日常の光景。日暮れていく日本橋、雪降る寺。

日本橋(夜明)昭和15(1940)年       芝増上寺 大正14(1925)年

 

 

 

十和田子之口 日本風景集 東日本篇 昭和8(1933)年


遠くへ旅した気持ちになる。揺さぶられずにおれない。観た事もないのに懐かしさが溢れてくる。

川瀬巴水はその後海外を旅し、新たな題材を見つけスランプを脱出し、数々の作品を残したものの、70代で亡くなり、相次いで数年後に版元渡邊庄三郎が亡くなると新版画は廃れてしまう・・・。

 

 

 


馬込の月 東京二十景 昭和5(1930)年

昔の日本ってこんなに美しかったのか。

柳先生の生きてた時代の風景ってこんなだったんだ、こういう光景の中にいて、美を追求なさったんだな・・。先生の生きてた時代に入り込んだみたいだと心が熱くなった。

写真よりもリアルにあの時代の空気感を届けてくれるような気がする。

金沢下本田町 旅土産第二集 大正10(1920)年 版元 渡邊版画展

(私の好きな夏の一枚。)

こんな体験をさせてくれる川瀬巴水と名も知らぬ彫師さん摺師さん、そして新版画を作ろうと奔走なさった渡邊庄三郎氏に感謝しかない。

 

ふと思ったのだが、私が物心ついた時、版画といえば「棟方志功」であったし、あの荒々しく激しくも美しい世界が当たり前のようにそこにある世界に生まれていた。そんな私にとっては新版画の奏でる穏やかで優しく、かつ繊細な旋律は新鮮だったのだ。当時の人々との逆転が起こっていたのだろうと思われる。

川瀬巴水 旅と郷愁の風景展
八王子夢美術館
2024年4月5日(金)~2024年6月2日(日)

時間 10:00~19:00 (最終入場時間 18:30)
休館日 月曜日 (※祝日は開館し火曜日が休館)