マティス自由なフォルム展@国立新美術館へ。



 

 

マティスは70代で十二指腸ガンになり、以前のように絵を描けなくなり、ベッドにいながらでも制作できる切り絵手法に変えた人。



過去に執着せず今出来る事にフォーカス。

ままならない出来事に振り回され、ぐっと堪える場面がどれほど多くても打ちのめされずに人生を楽しむ秘訣かなぁと思う。自分の根源的な思想と似ていて惹かれる。



あまりに即興で作りすぎているように見え、最初は画商達はハアー?何作ってくれちゃってるの?!(売れるのか~~?)な反応だったそうだけど、マティスといえば私には晩年の切り絵✴️✳️
単純なフォルムとスピード感、跳ねて画面いっぱいに満ちるエネルギー。

 

 

 

マティスの切り絵作品「ジャズ」はこちらで↓

 

切り絵作品をタペストリーにした「ポリネシア、海」の音声ガイドの解説がよかった。

 

この作品を作る16年前にマティスはタヒチへの旅へ。観るものすべてが物珍しく、ただ茫然と見るだけで何か作品になることはなかったが、時を経て、成熟した記憶の結晶がこのタペストリーとして実を結んだ、と。

 

記憶が成熟する。そんなこともあるのか。観たままではなく、それはマティスの中で成熟し、イメージと化して形になる。「黄金の光に包まれた常夏の永遠に幸せな世界」として。タペストリーの海の色が急に、常夏の熱い日差しに照らされ、キラキラと光っているような錯覚に襲われる。海のにおい、波の音、鴎の鳴き声・・。

 

旅でもどんな経験でもそういう側面がある。その時に何にもならなくても失望することはないのだ。今はただ心の赴くままに出かけていって茫然とそこで過ごしたらいい。
 

最晩年の超大作「花と果実」縦410×横870cmは神殿のよう。荘厳すぎて言葉がなかった。ちょうど絵の前に座って眺められるようにベンチが配置されており、しばらく見入ってしまった。

アトリエの試作品。壁一面・・!

 

壁面の高い部分にアトリエなどの写真があり、もうちょっと下にあれば・・!と思いつつもこういう展示も面白い。

 

ニースのヴァンスにあるロザリオ礼拝堂の実物大の再現が今回の目玉。いつかニースに行って観てみたいと思っていたマティス晩年の集大成の仕事が日本で観れる。

 

再現の部屋に行きつく前に、模型やさまざまな試作品の展示が。

影すらも美しい!

「私はこの十字架が、軽やかな祈りのように、煙のように高く、空に上がることを願う」 H.マティス

 

聖ドミニクス 実物大習作。修正の跡から、マティスの線へのこだわりがうかがえる。

 

実際の礼拝堂では白いタイルに黒で描かれ、修正は効かない。マティスは目をつぶっても描けるようになるほど習作を繰り返したのだという。


 

 

聖母子像の習作。実際にはマリア像の装飾はほとんどない。

 

ステンドグラスの試作品

 

司祭の纏う祭服のデザインも切り絵の作品。

あの礼拝堂の中でこれを纏う司祭は作品の一部のように見えるだろう。

 



そしていよいよ最後の部屋、ロザリオ礼拝堂の再現へ


数分かけてゆっくりと早朝から夜が繰り返され、ステンドグラスの光の影の変化までも体験できる。

夜からゆっくりと陽射しがステンドグラスを明るく照らしていく。



場所を変え、礼拝堂の夜と朝とを何度も何度も何度も体験してきた。



仕切りが丸みを帯びた木の椅子。一番後ろの壁際に座って礼拝に出席してみたい・・!

 


ステンドグラスに使われた色は、模型を作り様々な色の組み合わせの試行錯誤から決定した青、緑、黄色の3色。ガラスの品質にもこだわったそう。(黄色は半透明の若いレモン色、緑はエメラルド、青は透き通ったウルトラマリンなのだそうだ。)

もう一つの壁のステンドグラスの影がどんどん伸びて、向かい側の聖母子像に光が届く。

 

実際にはもっともっと広範囲に光が当たり、白いタイルがまるでキラキラと光り輝くタイルのようになる。

 

「光あれ」聖書の一節がふとよぎる。神は世界を作る時に光を招いた。

神の作り給うた星々の運行に寄って、白と黒の色のない世界が妙なる光の色彩に彩られる。礼拝堂にこれ以上なくふさわしい。

 

 

 

11月のある時間帯だけ、光の角度で青と緑と黄色の三色の影が異なる色を礼拝堂に映し出す。

紫?ピンク?

影は伸びて礼拝堂の床と聖ドミニクスを染め上げていく。

 

光の競演は最終楽章へ。

光は影のように小さく儚く散っていき、静寂と暗闇が訪れる。

 

真っ暗な夜が続き、そして再び朝のひかりが礼拝堂に射しこんでくる。朝と昼と夕方と夜と、そしてまた朝。ニースに行っても朝から晩まで佇んで光の変化を見ているわけにはいかないだろうから、これは貴重な体験✨✨ニースの光と風の中で実際にこの礼拝堂に立つ感動には敵わないだろうけれど。

 

「この礼拝堂は 私にとって画家としての人生すべての結果であり、真摯で困難で絶大な努力が実を結んだものである。」

                                         マティス

 




見終わった後は頭の中はマティス一色。

 

絵にも描かれたあの!赤いタペストリーの本物もある!!残念ながら図録の写真ちいさい・・!じっくり見て・・しみじみ感動。

貝殻みたいな背もたれの椅子も!!

 

 

 


2024年1月27日~5月27日
国立新美術館は火曜日休館、月曜に開館🥰
10時〜18時(※金曜土曜は入館が19時半、20時まで。)

 

 

 

公式ガイドは安藤さくらさん🌸