大佛次郎の小説は、これまで「宗方姉妹」と「霧笛」を読んだだけだが、この「花火の街」も含めて、耐え忍ぶようにそれぞれの人生や思惑がからまりあうのを最後まで緊張感と共に読み進めていくと、派手な花火が空いっぱいに上がるように物語が急転直下し、鮮やかな忘れられない場面を読者に植え付けて終わる。

 

その終わり方があまりにドラマティックで、一瞬頭がついていかない。

何度も終わりの場面を読みかえし、ようやく腑に落ちて、ぼーっとその場面の余韻に浸りながら本を閉じる。

 

その終わりをもっと理解したくなってもう一度読み返してしまったりする。

 

恐らくこの結末を描くために、様々な人間模様を配置して描いてきたのだろうな、などと考えたり。

 

 

御維新後、世界はがらりと変わり、侍は仕事を失う。

矜持の高さから、食うためになんでもやる、とはならず、身を持ち崩す者も多い。

主人公の一人、金四郎もそのような男だ。

そして、同じくお武家の家の一人娘お節は、病身の父に代わり細々と家にあった道具類を売って暮らし、門田馨(かどたかおる)と恋に落ちるが男は彼女を捨て、身分にあった妻を娶り、日本を去る。

信じ切った男に捨てられ、偶然関わりあいを持った金四郎に縋るように心を寄せるも、2人の道は分かれてしまう。

 

流されるまま意思の弱い控えめでおどおどした女性、お節が、金四郎を守るために思い切った行動を起こして物語が終わる。

 

舞台はグランド・ホテル。

 

明治時代に建てられ、海外から船でやってくる客を50年近く迎え入れてきた横濱の顔・高級ホテル。

世界のホテルラベルのコレクションカタログさんのサイトからお借りしていしまいました💦ごめんなさい💦貴重な当時の横浜のポストカード!!ぜひこちらのサイト↓をご覧になってくださいませm(__)m

 

このホテルを舞台に過去の男と、裏切られた女が出会うのである。

ほぼ外国人しか利用しないホテルに宿泊できる男と

かたやそのホテルには不似合いな貧しい身なりのお節。

 

夜の海には船が出て、次々に花火が空と海を染める。

 

お節の想いの強さに初めてそこで出会って呆然とする。

お節と金四郎を支えるらしゃめん・ヘップバーンのお千代がまたいい。

 

今はもう見ることのできない、遠い時代の横濵があざやかに。

 

 

 

 

 

 

 

横濱のニューグランドホテルって、なぜ名前に「ニュー」が付くのだろう?新しくなったからだろうか。ならば「グランド・ホテル」があったのだろうか?と前からなんとなく考えてはいた。花火の街を読み終えて、にわかに興味が湧いて調べ始める。

 

今のニューグランドの位置ではなく、横浜人形の家あたりにあり、ニューグランドとは経営者も異なる。

建て増しを重ね入り組んでいて、ボーイがいないと泊り客が迷ってしまったそうだ。飛行機はまだなく、長い船旅を経て到着した横浜港、そこに堂々と建つグランド・ホテルを人々は弾む気持ちで眺めたのだろうか。

 

大正の関東大震災で繁栄を誇ったホテルは瓦礫と化し、経営者はホテルの再建を諦め撤退する。

 

その後、テントを張ってホテルがわりにしていたが、横濱市長の呼びかけにより、現在のニューグランドの建設が始まったのだそうだ。当初、市長は「フェニックス・ホテル」を候補に挙げていたが、フェニックスという名のつく企業は長く続かなかったことから却下され、長くこの地にあったグランドホテルの名を冠し、ホテル・ニューグランドと命名されたという。そしてニューグランドの広間にフェニックス・ルームという名が付けられた。

 

歴史を知ると、ホテルもホテルのある街並みも違ったものに見えてくる。

 

 

何もかもが壊れた横濱の姿。大正時代の関東大震災の映像が残っていた。

 

 

 

 

映画にもなっているようで、お節の覚悟を決めたような表情がとてもよく。どこかで見てみたいものだ。