2015年の大晦日、家族で唐桑の旅館「つなかん」へ行った時の思い出が、映像を観ているとまざまざと思いだされる。
2011年の津波で大きな犠牲をだした街のひとつ。
車で案内された街中は、テレビで見知った場所で、当時はまだ今ほど復興も進んでおらず、なんとも言えない思いで街中を見つめていた。
灰色のイメージ。
だからこそ、旅館へ着いて「おかえりなさい!」と明るい女将さんに出迎えて頂いた時は、その笑顔に花が咲いたような気持ちを覚えた。
名物女将、一代さんはそこぬけに明るくて、お喋りが楽しくて、とても素敵なひと。
寡黙な旦那さんはかっこいい海の男で、日焼けして、船を操り、養殖しているカキを海からあげてみせてくれた時の誇らしげな表情は忘れがたい。
舞い上がる鴎の群れ。
かっぱえびせんを投げると鴎はうまくキャッチして飛びついて食べて。
311の時に続々とやってくる学生ボランティアを受け入れ、取り壊さずに旅館にしたのだと簡単な説明を聞いてはいたが、映画になってようやくいろいろなことが繋がった。
災害後にボランティアでつなかんを訪れ、助けるつもりが逆に明るさや強さに力をもらった学生達。
彼等の幾人かはこの唐桑で生きる道を選ぶ。
一代さんとやっさん。その二人の吸引力。
たった一度の出会いだったけれど、深く胸に刻み込まれたお二人には、その翌年、2017年3月26日に思いがけない別れが訪れる。
やっさんと長女さん、そして三女さんのお婿さんの乗った船が転覆。
そのニュースを私は速報で観た。
名前に聞き覚えがあり、まさかまさか・・・と足元が震えてくるようで、身体の奥底が冷えていく。祈るように続報を待っていた。つなかんを大好きなリピーターの友人達もまた祈りながら。
けれども、長女さんのご遺体だけが発見され、やっさんとお婿さんは行方不明のまま。
一代さんは3人の葬儀を執り行うと、3代続く水産業を廃業し、売り払う。
その片付けを関係のない業者さんにたのむのでなく、ボランティアでつなかんに繋がった人々に頼んだのだと映画で知った。
そんな風に在る日突然、もぎとられるように現実が捻じ曲がることがある。
時は、戻らない。
数時間前まで、すぐそこにいて手に触れられた人が、もうどこにもいない。
どこにも。
重く苦しい痛みを抱えながらも、一代さんはゆっくりゆっくりと日々を生きていく。
再び人々と繋がりながら。
思いがけず上映後に監督のトークイベントがあり、映画に登場した人々の今に触れることができた。
リアルタイムで最後にちょっとだけ登場した一代さんの笑顔は曇りなく輝いていて、やっぱり泣けてしまった。
家族が監督さんにサインを頂いたパンフレット。やっさんの思い出話で笑いあったらしい。
映画にしてくださって、ありがとう・・そういう気持ち。
そして、たくさんの人につなかんを知ってもらいたい。
つなかんに新しいサウナ小屋をつくるクラウドファンディング、期日を残して目標額達成!
それでもまだ少しずつ金額が日々増えてゆく。
一代さんが願ったように、たくさんの人が繋がってサウナ小屋の完成を待っている。
映画「ただいま、つなかん」は2023年4月21日(金)まで!





