私はクイズ問題制作の責任者でしたから、クイズ作家に、いつも厳しい注文を付けていました。
若い学生を中心に、主婦やOLの皆さんもアルバイトで毎週沢山のクイズを作り、中には放送作家として成功した人も沢山居ます。
クイズ問題は、文章を読めば、僅か10秒か、15秒の短い文章ですが、その中に人を惹きつける材料がある、新しい発見がある、面白い見方がある、といった魅力が求められます。
物事を、いつもそのような目線で見る癖を付けると、最初はズブの素人でもやがて良い問題を作れるようになってきます。
最初の頃は、時々クイズ会議に作者を出席させ、自分の作った問題を読み上げると言うこともやってみました。
しかし、会議に出席している熟練のディレクターやプロデューサーが、「どこが面白いの?」と突っ込みを入れたりすると、作者は言葉を失ってしまうような場面になります。
これでは、気持ちが萎縮してしまうので、クイズ作者を会議に出すのは止めにしました。
その分、時々作者を集めて、自分たちだけで問題を読み上げ、お互いの良い点、悪い点を指摘しながら勉強会を行い、腕を磨くようにしていました。
前にもクイズ問題の作り方について書いた事がありますが、面白いクイズ問題は、普段の生活の中にある盲点を突いた問題です。
例えば
「ハゲタカも子供の時はふさふさと頭に毛が生えている」
○か×か?
そういえば、幼鳥の時にはどんな鳥だって、ふさふさと産毛が生えていそうだし、だが待てよ。これは引っ掛け問題で、大人も子供も禿げているからハゲタカなんだ、と大いに迷ってしまいます。
恐らく、この問題の正解を最初から知っている人は、専門家か、或いは鳥が大好きな人しかいない筈です。
これこそ、目の付け所が良くて、面白い問題なのですね。
テレビを見ている人も「さあ、どっち?」とみんなが参加したくなるわけです。
因みに、この問題の正解は×でした。(通称「ハゲタカ」と呼ばれているコンドルやハゲワシは、子供も成鳥も頭の毛〈羽毛〉が薄く、禿げているように見えるのです)
また、ウルトラクイズの問題は、単なる常識や知識は避けるようにしていました。
例えば、歴史の問題を考えて見ます。
徳川幕府の将軍の名前を挙げろ、というような問題は採用されません。
何故なら、これは単なる知識で、教科書に出ている事を丸暗記した人なら誰でも答える事が出来るのです。
会議で、このような問題が読み上げられた場合には、
「教科書問題!」という一言で、却下されてしまいます。
同じように、将軍の名前を答えるにしても、歴代将軍の中で1人だけ異なる条件の人を探した場合は問題として成立します。
例えば、第8回のリノで出題された問題がこれにあたります。
問「室町幕府の足利15代将軍の中で、ただ1人、「義」という字がつかない将軍は誰?」
と言う問題がありました。
15代、全部の将軍の名前を答える訳ではありませんが、1人だけ変わった名前は誰だったのか?
これは、クイズ問題を勉強していた人なら、多分皆さん気が付く問題と言えます。
歴代将軍の表を見ると、初代・足利尊氏から始まって、2代義詮、3代義光、4代義持、と15代義昭まで「義」の文字が羅列されています。
最初の「尊氏」だけが、例外であり、懸命な挑戦者なら瞬時に、初代が正解!と解答を導き出して早押し機を押しているはずです。
この時のVTRは、手元に無いので確かめようはありませんが、大学のクイズ研究会あたりは、多分想定問題で同じような問題を作っていたのではないでしょうか。
ウルトラクイズに挑戦した方達は、普段からクイズ問題になりそうな出来事をチェックして、想定問題を作ったりしている、という噂を聞いたことがあります。
我々クイズ制作者も、その人達との戦いと言う思いで毎日を過ごしていたので、日ごろの出来事を全てクイズ問題に置き換えて見ていました。
私にとって、あの時代はクイズ問題が中心に世の中が回っていた、そんな日々だったのです。
今流に言えばクイズオタク だったのでしょうね。