2013年に宮崎駿監督の引退作品(当時)である「風立ちぬ」が公開され、翌2014年にはスタジオジブリの最終作(当時)である「思い出のマーニー」が公開された。「紅の豚」(1992)以来の全宮崎駿監督作品、そして殆どのジブリ作品を配給してきた東宝としてはドル箱を失う危機に直面していた。なんとしても「ジブリ後」を担うアニメ作品が欲しい。そこでまず白羽の矢が立ったのは「おおかみこどもの雨と雪」(2012・興行配収42億円)で実績充分な細田守であった。

「バケモノの子」は2015年に公開、前作以上の58億円の興行収入をあげる。しかし、長編アニメーション映画、特にオリジナル作品であれば、その企画から完成まで何年もかかるのは当然の事であって、細田守ひとりに頼るわけにはいかない。

そこで「秒速5センチメートル」などでカルト的な人気があった新海誠を大抜擢、2016年に公開された「君の名は。」はRADWINPSの主題歌「前前前世」のヒットなど複合的な要素が絡みあい、252億円というおそらく配給の東宝の想定以上の大ヒットとなった。

2017年はジブリ出身の米林宏昌監督の「メアリと魔女の花」を公開。興行収入的には33億円と充分なヒットと言えるが、作品内容の評価はあまり芳しくなかったか、2024年現在、「東宝夏アニメ」への登板は見送られているようだ。

尚、この年は7月に「メアリ~」、8月に岩井俊二監督によるドラマ(奥菜恵の美少女っぷりが半端ない伝説のドラマ!)を原作としたアニメ「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」(興行収入16億円)が公開され、結果「東宝夏アニメ」が二本公開されている。

2018年は細田守の「未来のミライ」(興行収入28億円)

2019年は新海誠の「天気の子」(興行収入142億円)。2020年はコロナ禍で映画公開スケジュールが大幅にずれ込み、延期、中止が相次いだ。そのためこの年は所謂「東宝夏アニメ」は存在せず、結果的に夏の時期には「ドラえもん のび太の新恐竜」が公開された。ちなみに興行収入は34億円。

2021年は細田守の「竜とそばかすの姫」(興行収入66億円)

2022年は米林宏昌も所属するスタジオボノック作品の「屋根裏のラジャー」(百瀬義行監督)が夏に公開予定だったが延期となった。(公開は2023年12月)時期はずれたが新海誠作品の「すずめの戸締り」が11月に公開され興行収入149億円の大ヒット。

2023年はついに御大・宮崎駿監督が復帰し、3度目?の引退作品「君たちはどう生きるか」が公開。興行収入は2023年末現在で88億円。・・・と錚々たるメンバーの監督たち、そして大ヒット映画の後に「東宝夏アニメ」の枠を託された初の女性監督が山田尚子監督だったわけである。

山田尚子の映画監督デビューは「映画 けいおん!」であり、その「けいおん!」ブーム真っ只中の公開という事もあり、深夜アニメ発の映画としては異例とも言える興行収入19億円のヒットとなった。

聴覚障害やいじめという重いテーマを扱った意欲作「聲の形」(2016)は興行収入23億円と山田尚子監督作品としては今のところ最大のヒットを飛ばしている。

2018年に公開された「リズと青い鳥」はファン、映画関係者どちらからも評価の高い作品だが、こと興行収入についてだけ見ると、1億円にも届かない6千万である。(スタッフブログによる一説によると3億円とも言われているが)

こうして見ると山田尚子は評価も高く、ファン人気もあるが、如何せん宮崎駿、新海誠、細田守のように名前で人が呼べるような監督ではまだないと思うし、配給会社の思惑通りにヒットが見込めるような商業主義のレールには乗れない、いや乗らないかもしれない、と私は思っている。

 

「きみの色」の初週動員はあまり芳しくなかったようで、翌週以降盛り返せるかかは口コミなどの評判にかかっているかもしれない。「東宝夏アニメ」の歴史を辿ってくると、そこにはめ込まれそうになっている山田尚子監督というピースに私は違和感を感じてしまう。ヒット作=傑作ではないのは言うまでもないが、山田尚子が配給会社側からのヒットのプレッシャーに押しつぶされる事なく、これからもマイペースで「自分の色」の作品を作って欲しいと祈っています。