今から10年以上前だと思うが、発売初期のCDはその寿命?により徐々に再生出来ないものが出てくる、という衝撃のニュースが流れた。私はあわてて所蔵のCDをかけまくったが、幸い再生出来ないものは1枚もなく、ホッとしたものだ。あれから時は流れ、あのニュースのあと続報を聞かないが、CDの寿命問題はどうなったのだろうと、気になり始めた。

 

この10余年で所蔵するCDはまた膨大に増えたが、そう言えば持っているCDの中で一番古いものはなんだろうと考えてみた。

CDの歴史を紐解くと、世界初のCDプレーヤー、そして世界初のCDソフトが発売されたのが1982年10月1日。

CBSソニーなどから50種類のソフトが同時発売、とにかく「音が良い」という事をウリにしていて、またLPよりも収録時間も長いためクラシック音楽に最適、的なアナウンスが強かったように思う。LPが2800円の時代にデジタル録音されたクラシックは3800円と強気な価格設定で、それ以外の洋楽、ニューミュージック、歌謡曲などはアナログ音源のCD化にとどまり、3500円だった。

洋楽はビリージョエルの「ニューヨーク52番街」(35DP1)など17種類

邦楽は大滝詠一の「A LONG VACATION」(35DH1)など9種類が発売された。

このように旧譜のCD化がメインであり、新譜のCDでの発売が本格化するのは1984年頃になる。

プレーヤーも高価であり、新譜の発売も殆どない状況では一部の裕福なクラシックマニア以外にはCDはまだまだ身近な存在ではなかった。

 

1985年3月に兄がCDプレーヤーの購入を決意、オーディオマニアだった私と友人のK君を秋葉原に派遣した。現在のようにどこにでも家電量販店がある時代ではなかったので、AV製品を安く買おうと思ったら「秋葉原に行く!」のが常識だった。ある程度の予算を決めてあとは私たちにおまかせ。二人分の秋葉原への交通費、昼飯代(当時秋葉原行ったら絶対牛丼だった笑)支給、あとは駄賃代わりに好きなCDも1枚ずつ買ってくれるという。これは嬉しい。

その時K君が買ったのが上記の大滝詠一の「ロンバケ」そして私が買ったのが

ASIAの「詠時感(エイジア)」である。このアルバムは1982年3月にLPで発売され、時期ははっきりしないが、1982年のうちにCD化されている。CDナンバーは35DP25である。前述の洋楽第一弾が35DP1~17であるので、そこから8枚目の発売という事になる。かなり黎明期のCDであり、(多分)私の所蔵する唯一の3500円のCDであり、そしてわが家の所蔵CDの中で最も古いCDである。今回問題なく再生出来た事はまずはめでたい。

 

1985年になっていたにも関わらず、二人とも1982年発売のアルバムを買ったのをみても、まだまだソフト数が少なかった事の現れであろう。もっともふたりともオーディオマニアではあるものの、(今で言う)特定の推しがおらず、買うのはアニメ、特撮のサントラばかりだったせいもあるのだが(笑)この当時アニメ、特撮関係のCDはほぼ出ていなかったはずだ。

私が買ったアニメのCDの1枚目(てか、これ2枚組だけど)は1985年9月発売の「うる星やつらミュージックファイル~未発表TV・BGM集」だと思います。それまでの「うる星やつら」のサントラはLPだけだったが、ここからLP、CD同時発売になった。当然わが家にはCDプレーヤーがあるので、ここからCDを購入し始めた。だが、私の本丸であった特撮は相変わらずCDはサッパリ出なかった。1984年の「ゴジラ」もサントラはLPのみの発売だった。(CD化はなんと1989年になってから)

やっと特撮アルバムがCD化され始めたのは1986年になってから。「ゴジラ伝説」3枚のアルバムを2枚のCDに再構成した「ゴジラ伝説クロノロジー1&2」と「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」が10月に発売。これは嬉しかった。1986年12月号の「宇宙船」に「特撮サウンドにもCD革命!」という記事が載っているくらい大ニュースだった。

 

そしていよいよ旧譜のCD化ではなく新譜が出る時がやってくる。伊福部昭の「OSTINATO」である。もっとも厳密にいうとLP、CD同時発売ではなく、LPは11月21日、CDは12月21日発売と時間差があり、またCDはLPより収録曲数が多いといったCDを買わせるための小細工があった。

これはCDを普及させるための常套手段であり、この頃ファンになった「推し」の荻野目洋子の4枚目のアルバム「ラズベリーの風」からCDも発売されるようになったのだが、LPは4月21日発売、CDは5月1日発売でありCDにのみ大ヒット中の「ダンシングヒーロー」の英語版が収録されていた。この1986年を境にLPとCDの売り上げが逆転し、1987年には新譜がCDで出るのが当たり前になっていく。特撮関係でも「ウルトラQ総音楽集」などCDオリジナルの魅力的な企画が出て、本格的なCD時代へと入っていくのである。

 

CDの誕生から40年以上経ち、そろそろ本当に再生出来ないCDが出てくるかもしれない。だが、音楽メディアとしてCDは既に王道ではなくなり、スマホなどデジタルメディアでサブスクなどで自由に聞く時代となっている。CDが聞けない時が来てもあまり困らないのかもしれない。探せばどこかで聞ける可能性が高いからだ。

だが私は今、別の思いがある。10年以上前にCDの寿命説を聞いた時は心底焦ったが、所蔵するCDが聞けなくなる日はそれこそまさにCDの寿命であって、私の人生もホントに終盤に入る、という事なのではないかと感じている。

40年近く大切に聞いてきたCDたち。いつかやってくるかもしれない聞けなくなる日まで、大切に聞いていきたい。