「千年女優」(2001)

 

46歳の若さで夭逝された今敏(こん・さとし、1963~2010)監督作品。以前から気になっていた作品であったが、今年全国規模の劇場での再上映が行われたのを機会に鑑賞した。宮崎駿、新海誠、細田守といったアニメーション監督に引けを取らない才能の持ち主だと思うが、一般層に対する「わかりやすい」作品ではないため、好みは分かれるかもしれない。

 

映画会社の撮影所の閉鎖に伴い往年の大女優・藤原千代子に対してインタビューを行うため、映像製作会社の社長・立花とカメラマン・井田は千代子の家を訪ねる。女優引退後、公の場に姿を見せなかった千代子が久しぶりに現れ、その半生を語りだす。女優デビュー前に特高に追われる青年をかくまい、その青年への淡い恋心から彼との再会を夢みつつ女優になった千代子。そこで語られるのは事実と出演した映画の内容が虚実入り混じったものになっていく。

 

虚実入り混じったメタフィクションのような構成は、その美しい映像とともにとても魅力的である。ただ、その「虚実入り混じった世界」に立花と井田が入り込む、という設定はどうだったのだろう。私は正直言って違和感がありました。千代子と青年に話を絞った方がストーリーに入り込みやすかったかもしれない。人生そのものが「演じている」ような千代子。彼女の生き様はまさに女優。この映画のタイトルが「百年女優」ではなく、「千年女優」であるのはテーマ的に肝だろう。その意味合いを考えつつ、もう一度見たい作品である。

 

この作品の音楽を担当したのは平沢進。非常に魅力溢れる音楽で、作品全体のレベルを更に押し上げた。尚、余談だが私が愛する「けいおん!」の主人公・平沢唯の名前は彼から取られている。その事は知っていたが、この「千年女優」で私は彼と初めて出会った。そんな縁もちょっと嬉しく感じた。

 

「風立ちぬ」(2013)

 

恥ずかしながら今更やっと見たのです。公開から11年も経ってしまいました。この年生まれた姪っ子が今春もう小学5年生になる事を考えるとどれだけ見なかったんだよ、って感じです(汗)「もののけ姫」(1997)以降の宮崎駿作品は、やたら大風呂敷を広げるわりにちゃんとオチで回収されなかったり、小難しい事を言い始めるのが苦手であまり好きじゃないのです。「千と千尋の神隠し」(2001)を最後に劇場に足を運ばなくなり、今年久しぶりに「君たちはどう生きるか」を見に行ったくらいなのだ。「風立ちぬ」はゼロ戦の設計者・堀越二郎のお話、というのもあまり興味の対象ではなく、「また「紅の豚」(1992)みたいに宮崎さんのシュミ全開の映画なのかな」くらいの印象だったのと、主人公の声優をド素人の庵野秀明がやるというのもドン引きで、全く食指が動きませんでした。

 

テレビ放送を録画したきりずっと放置してあったのですが、やっと見る気になって妻と鑑賞。1ミリも期待していなかったのですが、この映画面白いじゃないですか!びっくりしました。宮崎駿作品の中で一番好きかもしれない。

何というか、宮崎さんが自然体で肩の力を抜いて作った感じがいい。大風呂敷は広げないし、小難しい思想性もない。ストーリー展開上、やや舌足らずに思えるところもあったが、二郎の飛行機愛や、夫婦愛がとても自然に感じられた。ジブリ作品の中では一番オトナっぽい夫婦愛だったんじゃないでしょうか。せっかく設計したゼロ戦が一機も帰って来なかった、というラストのセリフは沁みました。声高に反戦を叫ぶよりも好きだなあ。

 

庵野秀明の声優は、ハイ、良くないですね(笑)なんでプロの声優を使わないんでしょう。ただ、今回はストーリーに引き込まれたからか、意外にもあまり気にならなかったです。もちろん良くはないんだけど、愚直な性格の主人公に重なる部分があったからだろうか。久石譲の音楽もステキでした。「君たちはどう生きるか」の音楽もそうですが、作品ごとに音楽的アプローチを変えてきますね。スゴイと思います。私がこの映画で一番気になったのは、庵野秀明の声じゃなくて、人間の声をサンプリングして作った効果音を多用していた事です。そんな音響演出要ります?なんかシロウトが作った8ミリ映画かと思いましたよ。でも、全体的には大変好きな映画でした。「君たちはどう生きるか」より、「風立ちぬ」で引退した方が良かったかもしれない、と思っちゃいました(笑)

 

「LUPIN ZERO」(2022)

 

配信作品でしたが、CS放送に下りてきたので見てみました。いやあ、いいじゃないですか!私、この作品大好きです。「ルパン三世」のファーストシリーズが好きな人にはオススメです。音楽担当の大友良英は山下毅雄の音楽の復刻や再演奏のCDに関わっているくらい山下毅雄リスペクトの人なので、オリジナルの山下毅雄サウンドをアレンジした音楽を多用して、いい雰囲気です。オープニングの映像もファーストシリーズへのオマージュがたっぷりで、嬉しい。

 

「ルパン三世」のテレビスペシャルみたいに特別感に「逃げず」、普通に「ルパン三世」ぽいストーリーの話なのがいいね。

声優さんがまた素晴らしい!次元大介役の武内駿輔は、声質も演技も小林清志かと思うくらい似てる。ルパン役の畠中佑(「ウルトラマンZ」のゼット様役で特撮ファンにもお馴染み!)は声質は敢えて山田康夫に寄せてないんだろうけど、演技力が素晴らしく、ルパンそのもの。このふたりのコンビ、また聞いてみたいなあ。ルパン二世役が古川登志夫なのもニクイ配置。「風魔一族の陰謀」(1987)でルパン三世を演じていた古川のルパンへの帰還はホントに嬉しい。三世の時とは全然違う演技なのに、そこはかとなく「ルパンのおやじ」っぽい雰囲気を残してるのがスゴイなあ。声優さんのスキルの高さ、改めて感じます。

 

 

先日のテレビ放送で「かがみの孤城」(2022)を改めて見ましたが、これも素晴らしいですね。「クレヨンしんちゃん」の劇場版「モーレツ!オトナ帝国の逆襲」(2001)や「アッパレ!戦国大絵巻」(2002)で名を馳せた原恵一監督の演出力が光る傑作です、ファンタジーの形を借りながら、イジメや登校拒否の問題に踏み込んだりと、日本のアニメってふり幅が広いというか懐が深いというか、素晴らしいですね。

 

日本のアニメの素晴らしさに改めて感じ入った今日この頃です。