話題の新海誠の新作アニメーション「すずめの戸締り」を見てきました。

 

核心に触れるネタバレは避けるつもりですが、何も触れないとブログにならないので、ネタバレを含みます。

 

未鑑賞の方はここから先はご遠慮下さい。

 

 

 

 

 

 

 

もう一度警告します。

 

ネタバレを含みます。

 

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この「すずめの戸締り」は直接的に東日本大震災を扱っている。それ故見る人を選ぶと思われる。被災された方、家族を亡くされた方には辛い映画であろうと思う。私自身あの震災では直接的な被害は何も受けていないが、それでも見ていて辛いものがあった。

 

ただ、である。新海誠監督は正面から震災を描いた。当然賛否両論は覚悟の上であっただろうし、被災者の心を痛めてしまう危険性も覚悟の上でこの題材を選び、映画監督として伝えたい事、訴えたい事があったのだろう。その志の高さは理解出来るし、大変な力作、入魂の一作、超大作であると思う。

 

だが、震災を題材にしている以上当然「楽しい映画」ではない。もう一回見たいか、と言われたらいや、見ない、見たくない、と私は答えるだろう。楽しくはないけれど、では辛い作品ではあっても良く出来た映画なのか、と言われればそれもちょっと、うーん、と考えてしまう。

 

もちろん志の高さも含め素晴らしい点は多々ある。主役・すずめを演じた原菜乃華をはじめとして声優陣はどなたも素晴らしかった。本業の声優さん以外もたくさん出演されているが、ジブリ映画で感じる強烈な違和感を感じる方はほぼいなかったし、映像の美しさは安定の完成度だ。

 

私が一番疑問に感じたのはダイジンという擬人化された話が出来る猫と、そのダイジンに椅子に封じ込められてしまった草太というキャラクターたちだ。基本的にシリアスなストーリーの中心で「話す猫」と「動く椅子」が動き回る世界観がどうもしっくりこなかった。

 

劇場で配られた特典の小冊子「新海誠本」に「すずめの戸締り」の企画書の一部が掲載されている。そこには「ターゲットとする観客を想定するのだとしたら、ラブストーリーを求める十代に向けるのはもちろんだが、同時に家族連れも退屈させないという大望を抱きたい。走って喋る椅子となってしまう草太や、トリックスター的に主人公を翻弄するダイジン(猫)には、アニメーション的なコミカルさを担ってもらう必要がある。ヒロインの境遇をはじめ個々の要素はシリアスとなるが、人物たちの明るさと併せて、映像の力で観客の笑みの絶えない映画を作れたら幸せだと思う」と書かれている。

問題はここなのではないか、と私は感じた。全ての年代の観客に楽しんでもらうために八方美人的に設定やキャラクターを作ってしまい、かえって一貫性を失ったのではないか。震災を正面から描く、という覚悟を決めてこの映画を作るのならこういう「年少者向けのかわいいキャラ」や随所に挟み込まれるギャグ、後半の東北行のドライブシーンでかかる数々の懐メロは不必要ではなかったか。シリアスなテーマへの緩衝材としてのギャグやほっこりシーンなのだろうが、厳しい言い方をすると「震災を描く」という覚悟を決めたのならこういう「逃げ」はして欲しくなかった。年少者や家族連れには「こんな暗いテーマの映画は見たくなかった」と言われるくらいシリアスに徹しても良かったのではないか、と私は感じた。

 

またこの映画はロードムービーであり、こういうジャンルの映画が好きな私には結構響く部分であった。四国で出会う千果、兵庫で出会うルミとの別れのシーンでは訳もなくついウルッとしてしまう私なのである。だが、ここもまたこの映画の「弱点」にも感じる。どうしてこう各地で出会う人々はいい人揃いなのか。そしてどうして誰ひとり家出女子高生の事を通報しないのか。草太の親友・芹沢含めて善人だらけで、震災を描くリアルと対照的にほっこりしすぎな印象だ。これもギャグシーンと一緒で敢えてそうしたのかもしれないけれど。東京のシーンでは裸足で衣服ボロボロで電車に乗るすずめに対してヒソヒソ話はするが、誰ひとり声をかけもしない。これって、どう見ても訳アリ、もっと言えば犯罪被害者にしか見えないのに誰も声かけすらしない。善人だらけの地方と関わり合いにならない人だらけの東京を対比したかったのかもしれないが、どうもこういう細かい所が気になってしまう。

九州、四国、神戸と三か所で「ミミズ」を封じる場面が特段のドラマの展開に差異が見られずやや単調なのも残念だった。この辺もっと練られたら良かったかな。すずめが「戸締り」をする場面で決まり文句のように「お返しします!」って言うのがなんか時代劇か戦隊モノかよ、って感じもあった。

 

震災で受けた傷を多少なりとも癒し、魂が救済されるオチには救いがあるが、これをどう受け止めるかによっても評価が分かれるかもしれない。救いがあって良かったのか、こんな甘いもんじゃない、と感じるか。

 

私は「君の名は。」は青春映画の佳作として楽しく見られたが、「天気の子」はあまり心に響かなかったので、もともと今回の「すずめの戸締り」を映画館で見るつもりはなかったのだが、RADWINPSの主題歌「カナタハルカ」が気に入り、特に「あなたと見る絶望は あなた無しの希望など霞むほど輝くから」の部分にグッときてどんな場面で使われるのか見届けたくなったのだ。だが残念ながらこの主題歌はエンドロールにのみ使われていた。「君の名は。」の「スパークル」、「天気の子」の「グランドエスケープ」のような名場面を期待してしまったのでちょっと肩透かしであった。

 

志の高い作品である事は間違いないこの作品だが、繰り返しになるが見る人を選ぶと思うし、震災の傷を持つ人は鑑賞に注意が必要だと思う。まだ公開されて間がないが、世間の人々がこの映画をどう受け止めるのか、様々な感想を聞いてみたい作品だ。