春川ますみさん(1935~)と言えばまず「江戸を斬る」の第Ⅱ~Ⅵシリーズ(1975~81)の魚政の女主人・お政の印象だろうか。徳川斉昭の妾の子である雪姫(松坂慶子)を自分の娘”おゆき”として育て、また遠山金四郎(西郷輝彦)の乳母でもあり、遊び人”金さん”の正体を知っているこのドラマのキーパーソンを好演した。

その後「暴れん坊将軍」シリーズでもめ組の頭・辰五郎(北島三郎)の妻・おさい役(初代)を1978年から87年まで演じた。

お政と役回りは似ているが、お政の方は金さんの正体を知っており陰ながら見守るのに対し、おさいは”貧乏旗本の三男坊である遊び人・徳田新之助”の正体が将軍・吉宗(松平健)とは知らずに結構冷たくあしらうなど、微妙にキャラクターが違い三枚目色が強い。裏返ったような高い声で早口で喋るのもおさいの特徴か。

そんな時代劇の印象が強い春川ますみだが、特撮作品でも忘れ難いキャラクターを演じている。

「ウルトラマンレオ」(1975)の第4クールである第40話~51話の”恐怖の円盤シリーズ”に看護婦の美山咲子役でレギュラー出演している。それ以前のレギュラーであったカオルや百子が円盤生物の襲撃によって死亡し、天涯孤独となったトオル(新井つねひろ)を引き取る優しい女性である。この美山家は長女の大学生・いずみ(奈良富士子)、次女の小学生・あゆみ(杉田かおる)と女性だけの賑やかで温かい家庭であり、ここに居候する事になったトオルとゲン(真夏竜)含めてホームドラマ的要素をレオに加えて新しい魅力を作った。結構人が死んだりとハードな描写も多いレオの中においてこの美山家のパートが好きなファンも多いのではないか。

レオの第50話「レオの命!キングの奇跡!」では円盤生物・ブニョに誘拐監禁されベッドに縛り付けられるアダルト?な描写もあった。このブニョの人間体を怪優・蟹江敬三が演じているのも有名か。

同じく円谷プロ作品の「恐怖劇場アンバランス」の第3話「殺しのゲーム」(1973放送・製作は1969)にも事件のカギを握る看護婦役で出演。考えてみればこれも看護婦役なのですね(笑)ただこちらはもっとミステリアスで”女”を感じさせる役である。

映画「トラック野郎」シリーズ(1975~)で”ヤモメのジョナサン”(愛川欽也)の妻役で出演、長距離輸送の仕事から亭主が帰るとセックスをせがむというお約束のシーンがあるお色気のある役だった。

もともと春川ますみは浅草の劇場でストリップをしたり、日劇ミュージックホールで踊るダンサーだったりしたがスカウトされて映画界に入り、その演技力で次第にお色気要員だけではなく幅広い役を演じるようになった苦労人?である。日劇ミュージックホール時代には作家の谷崎潤一郎が贔屓にして大いに気に入り、映画界入りを勧めたのも谷崎であるらしい。熟年期もふくよかで魅力あるが、若い頃はほっそりとしていて谷崎が気に入るのも納得の美しさといえよう。

私の大好きな映画「砂の器」(1974)でも事件の解決の糸口を今西刑事(丹波哲郎)に伝える伊勢の旅館の女中役で出演している。

私は所謂脇役になってからの春川ますみしか知らないが、主役を張った「赤い殺意」(1964・今村昌平監督)などは大変高い評価を得ているようだ。私も機会があったら是非見てみたい。