「少年ジャンプ 愛読者賞作品特集号2」(1975年1月10日増刊)。以前取り上げた「ベストコミック」と並んで雑誌1冊まるごと傑作揃いで子供の頃からずっと大事に読み続けてきた本である。わが家は夫婦共働きで、それこそ盆も正月もなく両親は働きづめだった。そんなわけで子供たちは正月もずっとどこにも行かず、きょうだい3人でおとなしく留守番をしていたものだ。当然親の田舎に帰省するわけでなく、親戚回りをするわけでなくわたしたちきょうだいは「お年玉」を親以外からもらった記憶は殆どない。そんな状態であった私が「お正月の間おとなしくしてるから!」と懇願して買ってもらったのがこの本だ。1975年の正月の増刊だが、実際の発行は1974年の暮れなので、私は冬休みの間中繰り返し読んでいた。

このラインナップの豪華さ。しかも愛読者賞作品特集号なのであるから面白くないわけがない。今回はじめは「ベストコミック」の時と同様1回で書き切るつもりだったのだが、掲載作品の作者について調べていたら興味深い事がいろいろわかってとても1回では終わらないので、何回かに分けて書く事にしました。初回の今回は今さら語る必要もないくらいの大家(たいか)の先生方の作品を中心に紹介します。

「おっ母」(川崎のぼる)

父を殺されみなしごになってしまった武士の又兵衛は仇討ちの相手を探すが、ひょんな事で知り合った町民の「おっ母」から初めて母親の愛情を知り・・・というストーリー。表紙だけとはいえカラーで巻頭を飾っているので相当な人気作であったのだろう。

「真夜中の戦士(ミッドナイト・ソルジャー)」(永井豪)

火鳥ジュンが目覚めた時、そこは戦場だった。ここはどこなのか、何のために戦うのか。全くわからないまま仲間とともの戦いを繰り広げるジュン。果たしてこの戦いの意味は何か・・・・?永井豪先生はホントにギャグからSFまでふり幅が広い。前回紹介した「くずれる」と並ぶ傑作である。

「硬派山崎銀次郎」(本宮ひろ志)

その後連載作品となる「硬派銀次郎」のエピソード1。この作品が評判が良く連載になったのだろう。ケンカにあけくれるが人情に厚く、オンナには全く疎い銀次郎。そんな銀次郎に転校生・高子は・・・。

事故で亡くなったあんちゃんの遺児を育てる銀次郎だが、子供を引き取りたい兄嫁がやってくる。しかしあんちゃんをないがしろにした兄嫁を許せずに追い返した銀次郎を高子は優しく諭すが、銀次郎は思わず高子を殴ってしまう。生まれて初めて女に手を上げてしまった事に自己嫌悪する銀次郎だが・・・。

本宮ひろ志はその後「俺の空」などで結構エロ全開になっていくが、私はこの頃の高子みたいなかわいらしいお色気くらいの方が好きだったなあ。

「ぼくはチャンピイ」(飯森広一)

「ぼくの動物園日記」など動物マンガで有名な飯森広一が日本初の盲導犬・チャンピイを描いた実録マンガ。以前ブログでも書いたが「ぼくの動物園日記」は私の血となり肉となったとても大切な作品であり、この「チャンピイ」もそれに連なる作品だ。以前は集英社を中心に作品が出版されていたが現在は入手しづらい状況であり、是非復刻してほしい作家のひとりである。

「屋根うらの絵本かき」(ちばてつや)

満州からの引き上げの途中で中国人の知り合いに屋根裏にかくまってもらい、そこで退屈しのぎに弟たちに絵本を描いてやったのが現在の漫画作りのベースになった、というちばてつや先生の自伝マンガ。

絵本つくりのエピソードは微笑ましいが、満州からの引き上げの状況など、この頃の漫画家は戦争体験を背負っている方がたくさんいて、そんな背景も心の片隅において作品を読まなければいけない、と子供心に思ったものだ。

「ウンコール・ワット」(赤塚不二夫)

とにかく潔いまでにウンコのネタだけで攻める赤塚不二夫先生に最敬礼の一作(笑)劇中マンガに「おそ松くん」ならぬ「クソ松くん」まである大暴走ぶり。これって現在も復刻してるんだろうか?

「カエルが燃えるとき」(望月三起也)

「ワイルド7」で有名な望月三起也の自伝マンガ。私は「秘密探偵JA」くらいしか読んだ事はないのだが、この自伝マンガは印象に残っている。

なかなか芽が出なかった望月先生がやっと一人前になり母親に欅のタンスを買ってあげると「まるでわたしは、お、お嫁にいくようだわねえ・・・」というシーンが好きだ。漫画家として成功する人は一握り。大変な職業だと改めて思う。

「ゴッドファーザーのむすこ」(手塚治虫)

手塚治虫の戦時下の体験を元にした自伝的作品。私はこの作品が大好きでこれを収録した単行本「紙の砦」も購入した。

「ゴッドファーザーのむすこ」の他、表題作「紙の砦」、続編「すきっ腹のブルース」などを収録。

「紙の砦」はそのリアルな空襲シーンに慄然とさせられた。マンガ作品でこれだけ空襲の恐怖を描いたコマはなかなか見当たらないのではないだろうか。

 

知りあった少女・京子はオペラ歌手を目指していた。いつか平和な世の中になったら自分は漫画家に、そして京子はオペラ歌手になるという夢を語り合う。だが、空襲で顔に大けがを負ってしまった京子は戦争が終わったあと行方知れずになってしまう。戦争の残酷さと怖さが描かれた秀作である。

 

愛読者賞作品特集号の掲載作品+「紙の砦」を駆け足で紹介しました。これからこの雑誌掲載の作品からいくつかを何回かにわけて紹介していきます。よろしければまたおつきあい下さい。