現在でこそアニメや特撮はかなり市民権を得て市場を形成し、それらを掲載した雑誌やムック本などはそれこそ星の数ほど出版されているが、ここに至るまでには先人たちの様々な苦労があったればこそなのである。1970年代前半までアニメや特撮は「テレビマンガ」と十把一絡げにされており、”ジャリ向け番組”として日陰の存在であった。この状態を変えるきっかけになったのは間違いなく「宇宙戦艦ヤマト」(1974)の登場である。「ヤマト」をきっかけにそれまで子供向けであったテレビマンガ関係の出版物が、ハイティーン以上向けのムック本として進化し、いかに現在に至るまで続いているのか私なりにその経緯を紐解き、書き留めておきたい。またムック本の黎明期を牽引した双璧である「ファンタスティックコレクション」(朝日ソノラマ)と「ロマンアルバム」(徳間書店)についても解説する。

 

私が子供向けではないムック本を初めて意識したのはこれ「TVアニメの世界」(月刊マンガ少年臨時増刊・朝日ソノラマ・1977)である。母の実家のある田舎に遊びに行った際、当時高校生であった従兄弟のHちゃんが見せてくれたのだ。Hちゃんは特にアニメマニアなどではないが、やはり子供の頃からアニメに触れて親しんだ年代であり、アニメ第一世代とも言えるかも知れない。この本は再放送をきっかけに人気が出てきた「ヤマト」を中心に比較的ハイティーンに人気の「ガッチャマン」や往年の名作「サイボーグ009」(モノクロ版)や「レインボー戦隊ロビン」などを中心に編集されていた。ここで注目して欲しいのがこの本は「月刊マンガ少年臨時増刊」な事である。月刊マンガ少年は1976~1981年に朝日ソノラマから発行されたマンガ雑誌で、メインは手塚治虫の「火の鳥」であった。この連載中に実写版(1978)、アニメ版「火の鳥2772 愛のコスモゾーン」(1980)の二度の映画化があり、雑誌を巻き込んでの所謂メディアミックスの先駆けともなった。「マンガ少年」は別冊や増刊の形で「火の鳥」「地球へ・・・」「鉄腕アトム」「サイボーグ009 海底ピラミッド編」などのコミックスや前述の「TVアニメの世界」や「すばらしき特撮映像の世界」などを出版した。

これは「すばらしき特撮映像の世界」の裏表紙であるが、当時の朝日ソノラマの出版状況が良くわかるので参考までに載せてみました。ちょっと時代は前後するが「マンガ少年」の編集部が作った「ファンタスティックTVコレクション・科学忍者隊ガッチャマン」が1977年の5月に発売されている。「TVアニメの世界」が同年の12月に発売なので、この「ガッチャマン」が子供向けではないムック本の元祖なのかもしれない。

このファンタスティックTVコレクションの第二弾が「ウルトラマン」(1978発行)であり、この本と「すばらしき特撮映像の世界」の売れ行きが好調だったため創刊されたのが”21世紀をめざすビジュアルSF世代の雑誌”と銘打たれた「宇宙船」(1980~2005・朝日ソノラマ発行分)であり、朝日ソノラマと「マンガ少年」が果たした役割はとてつもなく大きい。No.4から「ファンタスティックコレクション」と名前を変えたこのムック本シリーズはNo.54の「電撃戦隊チェンジマン」まで続き、その後Noなしのムック本が約30冊ほど発売された。初期はアニメ作品も扱ったが途中からは特に特撮作品に力を入れたシリーズとなった。このファンタスティックコレクションはWikipediaに発行リストも載っているので興味がある方は参照されたい。

そしてファンタスティックコレクションと並ぶムック本のもうひとつの雄、「ロマンアルバム」は1977年の9月に産声をあげた。記念すべき第一号は「宇宙戦艦ヤマト」である。

当時のハイティーン向けアニメの人気は「ヤマト」あってのものであり、”「宇宙戦艦ヤマト」の本を出版する”というのは当然の選択であっただろう。ここでもこの本の右上に描かれた「テレビランド増刊」という部分に注目して欲しい。「テレビランド」は1973~1997年に徳間書店から発行されていた子供向けのテレビ番組情報誌である。現在も発行されている「テレビマガジン」(講談社)「てれびくん」(小学館)と同種の雑誌だ。当時はまだハイティーン向けのアニメ情報誌は存在しないので、子供向け雑誌である「テレビランド」の増刊という形を取ったのだろう。

このロマンアルバム「ヤマト」の大ヒットにより1978年に創刊されたのがアニメ情報誌「アニメージュ」である。(「アニメージュ」創刊後は「ロマンアルバム」も「アニメージュスペシャル」などと表記されるものも存在する)現在でも「アニメージュ」は「アニメディア」(学研)「Newtype」(KADOKAWA)とともにアニメ雑誌御三家と呼ばれているそうだ。

1980年前後のアニメ雑誌は同人誌的マニアックさで読ませた「OUT」(1977~1995・みのり書房)、評論や設定画の掲載で独自色を出した「Animec」(1978~1987・ラポート)の他「アニメージュ」を追うように創刊した「ジ・アニメ」(1979~1986・近代映画社)、「マイアニメ」(1981~1986・秋田書店)など百花繚乱状態であった。その激戦を勝ち抜きアニメ総合誌のパイオニアである「アニメージュ」が現在も発行され続けているのはスゴイ事であると思う。

余談だが、アニメージュ発行以前の徳間書店というと「アサヒ芸能」や「問題小説」といったオトナ向け、はっきり言うと三流エロ雑誌(と「テレビランド」)を発行している三流出版社のイメージだったので、「アニメージュ」発行以降のイメージは格段にあがったはずである。また「アニメージュ」から生まれた「風の谷のナウシカ」のアニメ映画化をきっかけに設立されたスタジオ・ジブリの生み出す諸作品によって「徳間書店」という名前を覚えた人も多いのではないだろうか。

 

さて「宇宙戦艦ヤマト」の大ヒット(40万部売れたとか)によりロマンアルバムは続々と発行された。”ロマンアルバム”というネーミングからもわかるように当初は資料性よりもビジュアル的な面白さを前面に出し、「サイボーグ009」「タイガーマスク」といった旧作をメインとしたラインナップで、”メモリアルアルバム”的な側面が強かった。ページ数も少なかったが、No.11「さらば宇宙戦艦ヤマト」に初めて「ロマンアルバムデラックス」と銘打ち、その後「ヤマトシリーズ」や松本零士作品を中心に「デラックス」化が定着、更にNo.35「機動戦士ガンダム」で「ロマンアルバムエクストラ」となり資料性も充実されるようになる。その後No.53&54「宇宙戦艦ヤマトパーフェクトマニュアル1&2」では「ロマンアルバムエクセレント」として更に厚冊化している。

ロマンアルバムは70冊ほどNo.付きのムック本が発行され、その後は不定期に「仮面ライダーシリーズ」などの特撮作品や「山田康雄メモリアル」、別冊として「高荷義之画集」、「サンダーバード」「エアーウルフ」などの海外作品、「ロマンアルバムプラモ編」と銘打ったホビー特集、「ロマンアルバムハイパームック」と銘打った「東映特撮ヒロイン写真集」、また「Kanon」「AIR」「CLANNAD」の記録全集といった幅広いジャンルの作品のムックを発売した。だが近年は自社(徳間グループであるジブリ)作品の映画化に合わせて発行する事が殆どとなり、全盛期のようなシリーズ全体のバラエティさに比べるとやや寂しい状況である。

 

これは現在ではメディアミックスが進み、作品製作に関わった出版社からムック本が出るのが当たり前になった事と、アニメ作品の多くが独自のHPを持ち、そこからリアルタイムで情報が得られるようになったからだと思われる。そういう意味でシリーズとしての「ロマンアルバム」は役目を終えたといえるだろう。だが、「ロマンアルバム」のブランド名をいまだに残して使っている徳間書店には愛と誇りを感じるし、80年代から90年代のムック本を牽引した双璧として「ロマンアルバム」と「ファンタスティックコレクション」の名前は永遠に語り継がれるだろう。

※「ファンタスティックコレクション」はWikipediaが存在するが、意外な事に「ロマンアルバム」は存在しない。今回のブログの補完資料として近々に(私のわかる範囲で)ロマンアルバムのリストをアップします。