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【映画】『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』

劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ Blu-ray劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ Blu-ray
二階堂ふみ,森下くるみ,劔樹人,坂井真紀,野間口徹,入江悠,大柳英樹

ポニーキャニオン

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★★★★★

あらすじ



カリスマ的人気を誇るバンド・神聖かまってちゃんをモチーフに、「サイタマノラッパー」シリーズの入江悠監督が描いた群像ドラマ。
神聖かまってちゃんのライブが目前に迫る中、さまざまな悩みを抱えた人々が新たな一歩を踏み出すまでを綴る。

感想

本作は、最近『SRサイタマノラッパー』シリーズがめざましテレビでも取り上げられ、一気に有名監督化が進んでいる入江悠監督の作品。
タイトル通り、人気バンド「神聖かまってちゃん」をフィーチャーした映画で、“音楽によって救われる人々”を描いた群像劇だ。
個人的に『SR サイタマノラッパー』への思い入れが強すぎたせいか、「アレに比べると・・・」と感じる部分はあったものの、音楽に過度な“魔力”を持たせるのではなく、音楽の“生の力”が誰かにとっての“救い”になっていく様が感動的な作品だった。

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入江悠監督作品の魅力って、何と言っても「特殊な世界を描いた物語に見えて、実は誰にとっても共感できるような普遍的な物語になっている」点だと思う。

例えば、『サイタマノラッパー』はHIPHOP文化(特に“日本の”HIPHOP文化)という、どこか嘲笑の対象になるような閉じた世界が舞台。
「男子シンクロ」「フラダンス」など、青春映画の題材に「ちょっと変わった舞台」は多いものの、「日本語HIPHOP界隈」という、多くの人にとってはかなり共感しにくい題材の映画が「サイタマノラッパー」だった。

それでも、『サイタマノラッパー』の“あのラストシーン”があれほどに感動的で胸を打つのは、「何者でもなく、何者にもなれなかった男に、生まれて初めて“心から伝えたいこと”が出来て。それを伝える方法として“ラップ”以外の術を持たないから、それがダサくて、みじめで、情けないとわかっていてもなお、“伝えたいこと”を発信している」ところにあると思う。
考えうる限り一番ダサい道かもしれないけど、確かに“自分の言葉”で叫んだ主人公だからこそ、その“叫び”が伝えたい人へと届くわけで。
そして、その叫びがちゃんと届いたからこそ、絶望の中に追い込まれた最後の最後に、ほんの少しだけ“扉が開く”わけなのだ。
だから、“日本語HIPHOP”という舞台そのものが理解しにくかったとしても、「“自分の言葉”で伝えた想いがちゃんと伝わって、“心が触れ合う”」という物語の主軸は、限りなく普遍的で。
だからこそ、おそらく万人が共感できる感動的なラストシーンになったんだと思うのだ。

で、本作『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』もまた、決して普遍的とは言い難い「神聖かまってちゃん」(サイタマノラッパーよりはメジャー感のあるミュージシャンとはいえ)の音楽を軸に置きながら、ガッツリと共感出来る普遍的な物語だった。

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本作は、「神聖かまってちゃん」自体を物語の主役に据えているわけではなく、特に「かまってちゃん」の象徴的人物であるボーカルの「の子」に関しては、最後のライブシーン以外は登場すらしない。(あの特異なキャラクターに演技なんかさせてイメージをぶっ壊さなかったのはエラい!)

その代わりに、「かまってちゃん」の音楽によって救われる人々を描いた3つの物語が並行して語られる、という構成になっている。
並行する3つの物語は、それぞれが劇的に関わりあう(伊坂幸太郎の小説みたいに、物語が一点収束に向かう)わけではなく、つながりは緩やかなもの。
「かまってちゃん」の音楽によって、閉じていた世界が“ちょっとだけ外の世界とつながる”。つまり、それぞれの物語の登場人物の誰しもが、音楽によって“ちょっとだけ救われる”という奇跡的な瞬間を描いた作品なのだ。

“救い”の物語である以上、登場人物はみな問題を抱えているんだけど、その問題は「音楽業界の腐敗構造」に始まり、「引きこもり」「親子の確執」「シングルマザー」「モンスターペアレント」など、普遍的な物語にしたいためなのか、“今現在問題になっているっぽい問題を表面的に詰め込んでいる感”がないこともない。
なので、「サイタマノラッパー」で感じたほどの“肉薄するような共感”を感じることはなかったし、キャラクターがやや記号的に思えてしまうのも事実だ。
(特に子供が出てくるシーンの「嘘っぽさ」は、かなりイマイチ。)

ただ、「引きこもり」の兄を持ち、友達に彼氏を奪われてしまう女子高生の美知子が、大学進学をやめて目指すものが「棋士」だったり。クセのある子供を持つ「シングルマザー」のかおりがポールダンサーだったりと、絶妙に“一般人”と言い難いキャラクターで。
しかも、それを演じているのが、あの「二階堂ふみ」と、あの「森下くるみ」という、只者じゃない雰囲気が溢れている二人なわけで。
この二人のキャラクターが、シナリオの「表面的で記号的」という枠を、圧倒的破壊力ではみ出している点こそが、この映画を魅力的なものにしてくれている。

特に森下くるみの演技がスゴい。
入江悠監督は「サイタマノラッパー」でも『みひろ』という元AV女優を起用していたんだけど、森下くるみとみひろの両方に共通するのが「世間的に“負け犬”とされる生き方をしているように見えるものの、最後の一線で負けてない感じ」、もっと端的に言うと「ブレてない感じ」がにじみ出ている点だろう。
それって、男目線のゲスい偏見かもしれないけど、“元AV女優”っていう演者自体のキャラクターも内包させた見事なキャスティングだと思うわけで。

この「元AV女優キャスティング」に代表される、“その演者だからこそ出せる魅力”を100%以上引き出して物語に影響させるという入江悠監督の手腕は、見事としか言いようがない。

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さらに、3つ目の物語である劔さん(かまってちゃんの本物のマネージャー)の物語が、これまた見事。

一昔前のギョウカイ人を思わせる音楽プロデューサーの「引きこもり撲滅キャンペーンに『かまってちゃん』を使って、ミリオンヒット出しちゃおうよ!」というゴリ押しに対し、「かまってちゃんにはかまってちゃんらしい音楽をやってほしい!」という想いと、エライ人の言うことには従ったほうがいいという気持ちの間で揺れる劔さんの、演技と言っていいのかすらわからない困った顔の魅力たるや!
結局、「いや、そううんじゃないと思うんです。好きにやらせたいんです。」という想いでプロデューサーのゴリ押しを拒絶→そのままかまってちゃんおライブへと突入するんだけど、そのライブの演出がこれまた見事。

並行していた他の物語の登場人物の物語が、ライブの影響を受けて“走りだす”のはもちろんのこと、ずっと嫌なやつだったプロデューサーにまで、「かまってちゃんの音楽に対して、明らかに何か感じ入るものを受け取っている」という顔をさせているのだ。
こんなヤツにまで“救い”を与える。なんて優しい映画なんだ!

映画はその後、かまってちゃんの音楽を聞いたことで、ずっと何年も引きこもりだった美智子の兄の部屋の扉を開くというシーンで終わるんだけど、この終わり方もステキ!
これはつまり、「かまってちゃんの音楽を引きこもり撲滅キャンペーンに使おう!」「いや!そういうんじゃないんです!」という劔さんの想いに対して、「かまってちゃんの音楽は、オトナが変にゴリ押しなんかしなくても、ちゃんと“救い”たりうるというメッセージになっているわけで。
ずっとかまってちゃんの事だけを考えた劔さんに対する“答え”として、ものすごく優しい“答え”じゃないですか!

考えてみると『サイタマノラッパー』も、IKKUの魂のラップにTOMが“答えようとする”瞬間で幕を閉じた。
両作品に共通しているのは、どちらも「追い込まれた最後の最後に、ちょっとだけ“扉が開く”」という瞬間を描いた映画であるという点。
「かまってちゃん」の方は、文字どおり“扉が開く”わけで、ちょっと安直すぎる気がしないでもないけれど、「心からの“自分の言葉”を伝える→伝えた相手の心がちょっとだけ動く(閉じられていた扉がちょっとだけ開く)」という、人間関係における極めてエッセンシャルな喜びが、作品の根底にはあるということ。
ここに、入江悠監督の作品が普遍的な共感を誘う理由の一端を見た気がした。

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というわけで、多少荒削りな部分や、表層的(記号的)と感じる部分はあるものの、やはり本作も“圧倒的共感”を生む感動的な映画だった。

『人と人の間にある壁』。
その壁にある“扉”が開く瞬間っていのは、なんとも心を動かすもんだ。

と同時に、元々ちょっと苦手とすら感じていた『神聖かまってちゃん』というバンドの魅力にヤラれてしまう映画でもあるわけで。
特に「の子」に関しては聖人にすら見えてくる映画だった。
そんなわけで、「神聖かまってちゃん」のプロモーションという意味でも、素晴らしい映画なのでした。

今日の余談

本作を見た後は、まあ間違いなく「かまってちゃん」の音楽が聞きたくなるのは仕方ないもの。
まさに、『ロックンロールは鳴り止まないっ』のです!!


そして『あるてぃめっとレイザー』。やっぱり僕は、全力で走るシーンのある映画が大好きで。
それがチャリでも走るシーンの魅力は素晴らしいんです!!
何が言いたいかというと、チャリを全力でこぎながら『あるてぃめっとレイザー』を歌う二階堂ふみがたまらんのですよ!!


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