【映画】『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』※長文注意 | 『e視点』―いともたやすく行われるえげつない書評―

【映画】『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』※長文注意

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バンクシー,ティエリー・グエッタ a.k.a. ミスター・ブレインウォッシュ,スペース・インベーダー,シェパード・フェアリー,ゼウス

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★★★★★

あらすじ



ビデオ撮影が趣味の男ティエリー・グエッタが様々なグラフィティ・アーティストと出会い、彼らの素顔を撮影するうちに念願だった伝説のバンクシーとの接触が叶う。
本人はアートの知識も技術もないティエリーはやがて、バンクシーによってアーティスト "ミスター・ブレインウォッシュ" に仕立て上げられ、ついには個展を開くことに。
全ては仕組まれたことなのか、あるいはリアルなドキュメンタリーなのか…。

感想

「アート」、特に「現代アート」が好きな人ならば絶対に見るべき映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』。
ここ数年のアート界の最重要人物の一人であるバンクシーの手による「ドキュメンタリー映画」なんだけど、一体どこまでが“真実”でどこまでが“虚構”なのかすらわからない迷宮映画だった。
超売れっ子アーティスト自身が「アートの価値」を皮肉たっぷりに語るという意味で、文化的な価値も非常に高い作品であり、これから先「俺、アート好きなんスよ。」なんて安易には言えなくなっちゃうほどに、今までの自分の言動に恥ずかしさを覚えるような映画でもあった。

本作は、「覆面芸術家・バンクシーのドキュメンタリー映画を撮ろうとしたティエリー・グエッタだったが、ティエリーにセンスが無いことに気づいたバンクシーが、逆に自分が監督をしてティエリーの映画を撮ることにした」というストーリーのドキュメンタリー映画。
被写体と作家が逆転するという意味で、すでにかなり複雑な話だが、映像で語られていない部分にも大きな“含み”があって、この作品の“真実”を知るのは非常に難しい。

$e視点-イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ


そもそも、本作は映像作家であるティエリーがストリートアーティストを追いかけ、映像撮影をしていたことに端を発する。
ティエリーは映像作家といっても、あくまで『自称』レベル。常にカメラを回してはいるけれど、セルフドキュメンタリー作家のような自己愛や作家性を持っているわけではなく、本当に“ただカメラを回している”というだけのカメラバカ。
それでも、常にアーティストをつけ回しているうちに、トップアーティストたちとどんどん仲良くなり、やがてシーンの牽引者であるバンクシーと出会うことになる。
ストリートアーティストオタクであるティエリーは、ほとんど盲目的にバンクシーに尽くし、やがてバンクシーからの信頼を得ることになる。
そして、バンクシーの勧めもあり、ストリートアート界のドキュメンタリー映画を作ることになるわけだ。
ただ、先述のとおりティエリーには才能がなく、バンクシー曰く「1分も正視に耐えない」ものだった。

と、ここまでのティエリーの印象は、愛すべきバカ。ただ、ここから少しだけ様子が変わる。

<ここから、ガッツリとしたネタバレがあります。あくまでドキュメンタリー映画なので、強烈なオチのある話ではありませんが、ご注意ください。>


ティエリーの映像作家としての才能に見切りをつけたバンクシーは、「映像はやめてアートをやってみたら?」と気楽な気持ちでアート活動を勧める。
「神」であるバンクシーにそんなことを言われてテンションが上がったティエリーは、今までに出会った数々のアーティストの作品をもろパクリしながらアート活動を始め、やがてMBW(Mr. Brainwash)として個展を開くことになる。
ただ、普通のアーティストが苦しみ、もがきながら長い年月を費やす「自分の作風を探す(磨く)」という行為をすっ飛ばしたティエリーのアート活動がうまく行くはずはない。個展の期日が迫っているのに何も進んでいないことに焦るティエリーは、バンクシーを始めとする知り合いのアーティストに手伝いを依頼。結果的に「バンクシーお墨付きの新人アーティスト」という肩書きを得た彼は、人生初の個展(しかも展示作品は空虚なパクリ作品。しかも、「ダミアン・ハーストはこうしてる」みたいな表面的な根拠で、自分は手も動かさない!!)で大成功。マドンナのCDジャケットまで手がけるようなトップアーティストになってしまう。

「もう二度とドキュメンタリー映画には手を貸さない」と呆れるバンクシー、「もう二度とMBWには関わらない」と憤りを見せるアーティストたち。そして、トップーアーティストとしての生活を謳歌するティエリーの姿で、映画は終わる。

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いやー、なんとも難しい映画だ。
表面上のストーリーを見ると、「どんなに才能が無いやつでも、才能が在るやつがお膳立てすれば“一流”という評価を得ることができる。悲しいけど、それが現代アートの世界なのね」と受け取ることができる。
つまり、僕が美術館で現代アート作品を見て「ふむふむ、これはなんだか考えさせられるなー」とか、「なんて才能が迸る作品なんだ!」と思っているアレやコレ。それって本当ですか?という問いを痛烈に突きつけられるわけだ。
もちろん、アートだけに限らない。このブログでも取り上げている「映画」や「小説」に対する評価も、「それ、ホントに君の評価なの?」ってことだ。

「誰かが『良い』って言ってるから、君も『良い』って思っただけじゃないの?」と。

直木賞や芥川賞をとった小説は名作で、カンヌで褒められた映画は傑作で、『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ! 』はクソでした、なんていう意見は、本当に僕の内側から生まれた感想なんだろうか。
ただ、世間的な反応に影響されて、褒めやすい作品を褒め、貶しやすい作品を貶しているだけじゃないか!!


また、作品の値段が常軌を逸して高騰していく現代アートの世界において、トップアーティストのバンクシー自らが、その風潮を痛烈に皮肉った作品でもある本作。

「街中のイケてる壁に絵を描けば、美術館の馬鹿馬鹿しいほど高い入場料に金を払うやつはいなくなる」と語るバンクシーの言葉に反するように、無能な作家「MBW」の作品に常軌を逸した値段が付けられていくのは痛快だ。
バンクシー自らが語る「MBWはアンディ・ウォーホルの後継者だ」という言葉も、すさまじく重い。
(ウォーホルに才能がない、という意味では無いですよ。念のため。)

「アートの価値」。深いテーマだ。。。

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しかし、そういう感想だけで終われないのがこの映画。
そもそも、「これって実話なの?」という疑いも、これまた消せない。
MBWをとことん貶すための映画になっていながら、MBWがそれに対して何の反応を示していないというのも違和感があるし、そもそもティエリーとして撮影した動画を提供していることにも無理がある。

この映画を「バンクシーの宣伝映画」として捉えると、非常に効果的で出来過ぎにすら思えるし、そもそもMBWなるアーティストは、本当に才能がない見せかけだけの芸術家なのだろうか?

そうこう考えてみると、実はこの映画は「才能がない男を芸術家にみせかける」というテーマのインスタレーション作品なんじゃないかと思えてくる。
文字通りの「覆面作家」であるバンクシーとの対比構造のせいで、ティエリーは実在する凡人と思い込んでいるけれど、顔も素性も明かしているティエリー(MBW)こそが「作り物」なんじゃないかという気さえしてしまう。(「Mr.Brainwash(洗脳)」という名前も意味深!!)
つまり、「MBW=バンクシー」とまでは言わないが、少なくとも、「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」という映画だけじゃなく「MBW」の存在までがバンクシーの作品である可能性は非常に高いと思うのだ。


うーん。考えれば考えるほどに、何だかわからなくなってくる。
どこまでが「フィクション」で、どこまでが「リアル」なのか。
気になって海外のサイトを調べてみているが、僕の英語力不足と、やっぱり何か煙に巻くような記事が多いので、真相はわからずじまい。

結局、「どこまでが“虚”で、どこまでが“実”かわからないこと」を楽しむ映画として、知恵熱出して、頭から煙を吐いて、頭のなかをグルグルグルグルさせながら観るのを楽しむ!
そう納得するしかないのでした。


まあ、いつもにまして長々と書いてしまいましたが、実際のところ「クッソ面白いドキュメンタリー映画だった」と、一瞬で説明可能な映画だったのでした。
いやー、クッソ面白かったぜ!


否!
でも、この感想も、誰かが「この映画は素晴らしい」って言うのを聞いたからなのかもしれないわけで。自分の内なる感情は、本当にこの映画を素晴らしいと思っているのか?

ああぁぁ、、グルグルグルグルるグルグルグルグル・・・・・・

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