【書評】『恥知らずのパープルヘイズ』上遠野浩平 | 『e視点』―いともたやすく行われるえげつない書評―

【書評】『恥知らずのパープルヘイズ』上遠野浩平

恥知らずのパープルヘイズ -ジョジョの奇妙な冒険より-恥知らずのパープルヘイズ -ジョジョの奇妙な冒険より-
上遠野 浩平,荒木 飛呂彦

集英社

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★★★☆☆

あらすじ

これは、一歩を踏み出すことができない者たちの物語――。
多くの犠牲の末に"ボス"を打ち倒したジョルノたち。
しかし、彼らと袂を分かった少年・フーゴの物語は、未だ終わっていなかった・・・。

感想

マンガや小説を原作とした映画の中に、時として不可解な名作というものが存在する。

テンポも悪ければ演出もダメダメ。原作を読んでいないと話の筋さえ追えないような酷い脚本。それなのに感動し、あまつさえ涙まで流してしまうような作品。
つまり、映画としての完成度は明らかに最低レベルにも関わらず、原作のポテンシャルだけで、作品自体の価値をある水準まで持ち上げているような作品があるのだ。
(まあ、具体名を出すと『ワンピース THE MOVIE エピソード オブ チョッパー+ 冬に咲く、奇跡の桜』のことです。)

そして、本作『恥知らずのパープルヘイズ』も、そういった類の小説だと思った。

「小説としての完成度は最低レベル」とまでは言わないが、本作で「アツい!」と感じた部分の多くが「ジョジョの奇妙な冒険・第5部」という奇跡的かつ天才的な物語の熱に依存したアツさなのだ。

まあ、そのアツさの中に再び身を投じることが出来るというだけで、非情に価値が高い小説であることは間違いない。
要するに、本書の冒頭に掲載されたイラスト(ジョルノが撮影したメンバーの集合写真)だけで泣けちゃうような奴は、読んで絶対に損しない作品だと断言できるということですよ!
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【警告】 ネタバレが嫌な人は、これより先は読んではいけない


さて、冒頭に書いたとおり、本作は「小説としての完成度は最低レベル」とまではいかないけれど、「ジョジョの奇妙な冒険」という作品の完成度と比べると、どうしても見劣りしてしまう部分がある。

致命的なほどの大きな誤記はないものの、洗練されていない文章が多いという印象だ。(「お前が言うな!」はひとまず置いといてください。)
なんというか、「細かい文章の粗」が気になって、リズムよく作品に没頭していけないのだ。
かつてフーゴのことを、敵対していた暗殺チームの男イルーゾォが、調べた資料をこんな風に読み上げたことがある。P.048
……いや、あなたはミスタから、その指示を仰ぐようにと言われた方ですから、立場は上だと考えていますがP.061
そいつは痩せこけて背が伸びなかった欠食児童のミイラのような、包帯でぐるぐる巻きにされたガリガリの姿をしていた。P.228

と言った具合で、句読点の位置の問題なのか、なんだかとても読み難かった。


また、細かいところで微妙に辻褄が合わないところも。(シーラ・Eがディアボロの存在を知っているかどうかの設定が危うい、など。)

そして、物語の根幹にもかかわるような設定の変更(というか、超解釈)も多い。
例えば、ミスタが、
ジョルノはオレに、二人の関係はあくまでも対等だと言ってるが、オレの印象としては違う。ブチャラティはジョルノの、事実上の部下だった。P.019
なんてことを言ったり。

あれほど馬鹿にしていたナランチャでもわかっていたことを、秀才ぶっていたフーゴは、彼に遅れること半年も経って、ようやく理解できたのだ。P.265

それほど馬鹿にしてたんかい!とか。

"群体"の能力の持ち主というのは、心の中に大きな空洞を抱えているらしい。リゾットの<メタリカ>もこのタイプだったらしいし、日本の杜王町という土地にいた<バッド・カンパニー>とか<ハーヴェスト>といった能力の持ち主たちも、やはり精神に決定的な欠落を抱えていたのだという――目的のために手段を選ばなかったり、目先のつまらない金銭欲に駆られて平気で友人を裏切ったりしていたそうだ。P.238

おい、ミスタはどうなる!(そして、パール・ジャムのトニオ・トラサルディは?本作にもちょっとだけ登場するトニオ。本作における彼の描かれ方はとても空洞を抱えている人物ではないじゃない!)

さらには、
<マニアック・デプレッション>で強化された肉体は、能力攻撃でもあるので彼女のパワーとスピードが通用しない――逆に砕かれる。P.253

という超解釈でもって、生身の肉体でスタンドを攻撃するという展開に。。。(まあ、ジョジョ本編でも『凄み』で解決することは多々ありますが。)

という感じで、ちょっとしたことが気になって、なかなか気持ちよく読み進めることが出来なかった。


しかし、冒頭にも書いたように、本作はあの「ジョジョの奇妙な冒険・第5部」という奇跡的かつ天才的な物語を下敷きとして描かれた物語。

第5部から半年後を舞台としているが、フーゴによる回想が中心の物語でもある。
つまり、続編的な位置付けの物語でありながら、事実上はフーゴ視点での5部の補完と追体験の物語なのだ。


あの日袂を分かった少年・フーゴ。
「船に乗なかった」のではなく「乗なかった」ことを、彼自身が知るための物語。
そして、「トリッシュの傷は自分の傷だ」と言い、自分には踏み出せなかった一歩を踏み出したナランチャの心を『理解』し、自分の一歩を踏み出す物語。

どれほど文章が稚拙であれ、このキャストこの物語
そんなもん、最高に決まってるのだ。

「能力というのは、本人の性格を反映する。精神が変化すれば、能力も変わるんだよ」P.271

なんていう、相変わらず『凄み』としか言えないような超解釈的説明であったとしても、それがパープルヘイズ act.2的な何かを予感させる『凄み』であるならば、そんなもん、テンション上がるに決まってるのだ。


そんなフーゴの成長の物語に感動すると同時に、すっかりマイケル・コルレオーネ化しているジョルノの存在感にも惚れなおしてしまう。

「あれ?それってゴールド・エクスペリエンスじゃなくてクレイジー・ダイヤモンドじゃ・・・」なんてところが気になってしまうものの、
ブチャラティは、その意味でチームの誰よりも遅れていたのだ。他の者たちは全員、彼と出会うことで人生が変わったのだが、ブチャラティ自身は……その少年と出会うまで、その感覚を知らなかったのだ。
<中略>
それなのに彼は、こんなにも簡単なことさえ、それまで知らなかったのだ。
誰かに憧れて、その人に未来を、夢を託したいという気持ちを。
P.278

なんて、もう泣けるじゃない!
あの日、天に昇ったブチャラティを思い出して、号泣しちゃうじゃない!

この描写もまた、ジョルノとブチャラティの関係性についてのフーゴ視点からの補完。
つまり、ここでの号泣もまた、原作ありきの感動なわけだけど、そんなのどうでもいいじゃない!グッとくるんだからいいじゃない!

まあ、ジョルノの口から語られる「フーゴに指令を与えた理由」については、ブチャラティに対するジョルノの信頼を感じつつも、巨大な組織のボスになったが故の「非情さ」を感じるものだった。
しかしその非情さもまた、ボスになった後はそれまでの義理や人間関係を切り捨て、冷酷に組織を巨大化させていくマイケル・コルレオーネ化と捉えれば、何となく納得してしまった。



というわけで、本作「恥知らずのパープルヘイズ」は、文章的に読みにくい所があったり、面白さの大部分が原作の持つポテンシャルに依存している作品であることは否定のしようがない。
しかし、「ジョジョの奇妙な冒険」の持つ圧倒的ポテンシャルがゼロに帰してしまうような酷い作品ではないのは間違いない。

つまり、ジョジョが好きで、5部が好きで、あの物語に対して新鮮な涙を流したいなら、それはもう本作を読むしかないですよビックリマークと、結局は絶賛せざるをえないのでした。

今日の余談

ジョジョのノベライズを読むのは、乙一の「The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day」に続いて2作目。
そして、どちらの作品も「原作と比べると・・・。」というのが素直な感想だった。

ジョジョの奇妙な冒険というマンガの画期的な点の一つは、「超能力」を「視覚化」したことにあると思っている。

それまではものが空中に浮いたり、折れ曲がったり、壊れたり、人が壁に叩きつけられたり、なんていう描写で表現されていた「超能力」に対して、
「人型」のビジョンが物を持ち上げ、折り曲げ、壊し、人を持ち上げて壁に叩きつける、という行為として読者に見せたこと。
それが、第3部以降のジョジョの奇妙な冒険のオリジナリティの重要なポイントなのだ。

つまり、「ジョジョ」を「ジョジョ」たらしめている重要な要素が「視覚化」であるということだ。
うーん。それはまあ、ノベライズとの相性は悪いよね。。。

今日の余談②

本作の文章表現として、過度な修飾が目についた。
月のない闇夜に向かって飛び去っていき、そして虚空に溶け込むように消え、見えなくなる。任務完了。P.273
神<ディオ>のように気に入らぬものを破壊するのではなく、星<スター>のようなわずかな光明でも、それを頼りに苦難を歩いていかなければならないんだP.273

など、見た目だけが過度に綺麗な文章が多い。

しかし、くどいなぁとは思いつつ不快さを感じないのは、こういった文章で表現したい雰囲気は『理解可能』だからだ。

あらためて、
「そういう雰囲気」を一枚の絵で表現している荒木飛呂彦スゲーと思った。

今日の余談③

ジョジョ好きならばニヤリとさせられる小ネタの嵐だった。

「同じことを二度言うのは無駄」「その理由を頭ではなく心で実感した」なんていう第5部へのオマージュが多いのは当然ながら、
「ノックして、もしもーし」とか、「勇気を知らないという点で君は、賢い人間の血を吸おうと噛みついて叩き潰されるノミにも等しいなんていう他の部からの引用も多い。
さらには「地は、生命なり」なんていう言葉も使われるし、
「そいつに触れることは死を意味する」なんていう、まさかの「バオー 来訪者」ネタまで飛び出す。

あざといといえばあざといけれど、当然ながらニヤニヤが止まらないのでした。

今日の余談

写真からじゃ分かりにくいかも知れないけれど、銀色と紫の表紙がかなりカッコイイ。
これは保存用も買うべきだったかもしれない。。。
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