【書評】『伏 贋作・里見八犬伝』 桜庭一樹
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★★★★☆
桜庭一樹の本は、これまで読んだことがなかったけれど、
副題の「贋作・里見八犬伝」惹かれ、購入。
タイトル通り、「南総里見八犬伝」と共有された世界観の中で、大胆にアレンジされた物語。
八犬伝の物語や登場人物をある程度知っていれば、楽しめるんではないでしょうか。
あらすじ
山の中で育った漁師の娘・浜路が、兄の道節を訪ねて江戸へやって来て、
そこに蔓延る『伏』(人に化けた犬人間。凶暴。)を狩る話。
『伏』には、江戸幕府によって賞金が掛けられていて、
道節と浜路の兄妹、特に浜路は、賞金首として活躍する。
昨今、海外で流行りの「バンパイアハンター」を、純和製で再現したような物語だ。
『和製の「バンパイアハンター」モノ』なんて書くとつまらなそうだけど、
そこは上手く作られ、海外のものとの差別化も、上手く行われている。
最大の魅力は、狩られる側である『伏』という存在そのものだ。
「八犬伝」を知っている人ならば気付いたかもしれないけれど、
『伏』とは、『八房(犬)』と『伏姫(人)』の子供たちの子孫なのだ!
(つまりは、「南総里見八犬伝」の八犬士たちの子孫。)
原作では、ヒーローとして描かれていた者たちの子孫が、
江戸時代には、化け物的な存在として、人にまぎれて暮らしているわけだ。
この小説は、道節と浜路の兄妹のアクション活劇をメインと見せかけて、
実は、この『伏』という存在を描いた物語のほうが濃い。
作中作として、副題にもなっている「贋作・里見八犬伝」が挿入されているが、
これは、「南総里見八犬伝」の八房と伏姫の話を、全く異なる解釈で書いた物語。
(南総里見八犬伝の著者である曲亭馬琴の息子滝沢冥土が書いた小説でもある。)
物語の主軸や登場人物は、原作と同じながら、
より壮絶な物語として『伏』の生まれる瞬間を描いている。
正直、この「贋作・里見八犬伝」だけでも読む価値ありです。
(原作を知らないと、この評価も変わってくるでしょうが。。。)
感想
前述したように、桜庭一樹さんの本を読むのは初めて。
初めて読む著者の本っていうのは、文体のリズムに乗りにくく、読むのに時間がかかることが多い。
にしても、
この本は読み終わるまでに、すごく時間がかかってしまった。
時代小説をあまり読まないから、言葉に慣れてないからかな、なんてことも思ったけど、
どうやらそうではない。
僕自身が、この本の物語を読み終わってしまうことを「もったいない」と感じていたのだ。
というのも、この本、
主人公の浜路が伏を追い、戦いながら、やがてはその伏と心を交わして・・・
みたいな物語はあるものの、
この本の中で描かれている一番大きな物が「物語」そのものでは無いのだ。
以前、恩田陸の「ネクロポリス」の感想でも同じようなことを書いたけれど、
この本で描かれているのは、「物語」ではなく、
『伏』というものが存在してしまった世界の世界観そのものなのだと思う。
だからこそ、
物語として、いくらでも印象的に描けそうなシーンやエピソード
(遊郭での大捕物のシーンとか、浜路と信乃の心の交流とか。)
を、
日常の一部としてサラッと描いているんだろう。
あまりにサラッとしているので、
「こんなおいしいエピソードなのにもったいない」
なんてことも思うけど、
そこが盛り上がり過ぎると、読み終わった後に「物語の中の世界そのもの」が心に残ることがないのかもしれない。
作中作の「贋作・里見八犬伝」で描かれる「伏のルーツ」から脈々と続く『歴史』。
心に残るシーンやエピソードが無いからこそ、
本作は、その長い歴史の一部を切り出した物に思えて、
行間で語られる歴史と世界が心に残るのだと思った。
そして、
世界にハマれたからこそ、
読み終わってしまうのがもったいなくて、
えらく時間をかけて、ゆっくりと読んでしまったのでした。
「読み終わるのがもったいない。」
そう思える読書体験は、過去にそんなに味わったことがない。
もしかしたら、
続編やメディアミックス展開を見越しての「世界観の構築」が目的だったりするのかもしれないけれど、
新年早々、
貴重な読書体験を味わえたので、個人的には満足の一冊だった。
一部、不満点というか、「謎」が残った点が。
本作は、「南総里見八犬伝」と世界観を共有していると同時に、
登場人物の名前も大部分が共有されている。
もちろん、原作とは別人なのだけれど、
『伏』は、それぞれ信乃とか新兵衛とか毛野とか、八犬士の名前がそのまま使われている。
でも、何故か道節は人間だったり、浜路は伏(八犬士)とは敵対していたり、船虫は小物だったり。
「登場人物の名前」に対する作者の意図が全く掴めない。
これって、
「八犬士の名前を使っておけば、読者受けいいでしょ。」
的な考えだったりするのだろうか。。。
それなら、ちょっとがっかりだが。。。
今日の余談
前述したとおり、あまり時代小説を読まないせいで、僕には歴史に対する知識が少ない。
ビジュアル面でもそうで、
時代小説を読んだ際の、「脳内での映像化」のクオリティーも、すこぶる低い。
そんなわけで、
本作の映像化は、全編『シグルイ』で行われてしまった。
特にひどいかったのが、里見鈍色。
作中で、「醜い」が強調されていたせいか、
がま剣法でおなじみの屈木頑之助で脳内補完されてしまった。
後半、作中でのたくましくなっていく描写と、僕の脳内でのビジュアルとの乖離が尋常じゃなかった。
時代小説。
読む前に、教養としてのある程度の知識が必要だったようだ。特にビジュアル面で。
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