【書評】『ネクロポリス』恩田陸
ネクロポリス


★★★★☆
懐かしい故人と再開できる場所「アナザー・ヒル」。
ジュンは文化人類学の研究のために来たが、
多くの人々の目的は死者から「血塗れジャック」事件の犯人を聞き出すことだった。
ところがジュンの目の前に鳥居に吊るされた死体が現れる。
これは何かの警告か。ジュンは犯人捜しに巻き込まれていく。
聖地にいる173人全員に殺人容疑が振りかかる。
だが、嘘を許さぬ古来の儀式「ガッチ」を経ても犯人は見つからない。
途方にくれるジュンの前に、「血塗れジャック」の被害者たちが現れて証言を始めた。
真実を知るために、ジュンたちは聖地の地下へ向かうが……。
イギリスと日本の文化が混在したような文化背景を持ち、
死者のよみがえりが、日常として起こる場所「アナザー・ヒル」。
その「アナザー・ヒル」を、旅行記的な雰囲気で描いた超長編小説。
登場人物の一人が、「アナザー・ヒル」という場所を描写した表現が、
そのまま、この小説を一言で表している。
「ミステリとファンタジーとホラーが混ざっている」小説。
この小説の魅力は、
描いているものが「物語」ではなく、
アナザー・ヒルという場所の世界観そのものである点だと思う。
事件として起こるミステリで、ファンタジーで、ホラーな部分。
それを軸に物語は進行していくものの、
それは、アナザー・ヒルという場所(世界観)を描写するための、一要素に過ぎない。
あくまで、描かれているのはアナザー・ヒルという「場所」だ。
全てを読み終わった後は、本当に旅行から返ってきたような感覚になる。
今、この感想を書く上で、冒頭に本の表紙の画像を貼った。
そして、そこで初めて、上下巻の絵が繋がっていることに気がついた。
この表紙は、本当によく出来ていて、
アナザー・ヒルという場所を一枚の絵で的確に表している。
描かれているモノ、街並みや運河や鳥居はもちろん、
昼と夜(ここでは、めんどくさいのでそう言います)の景色に分かれていることにも、
すべて意味があり、
読み終えた今、すべてが懐かしい。
この「懐かしい」という感覚を覚えるところが本書の素晴らしさ。
世界観が密に描かれたからこそ、
この表紙を見たときに、
実際に旅行した場所の写真を見たときのような感覚を覚える。
それは、確かに僕の中に、アナザーヒルという架空の場所の「思い出」があるってことだ。
さて、話はちょっと変わるけど、
僕の中で、小説でこれをやられたら「冷める」っていうことがいくつかある。
一つは、オチの無い話、もしくはオチが訳わかんない話。
そしてもう一つは、「非日常的な舞台の、非日常的な出来事」を描いた話。
これが冷める理由は、ラーメンズの小林賢太郎が言っていたことに共感したから。
彼曰く、ラーメンズのコントは、「非日常での日常」を描くのが基本らしい。
つまり、演じている「非日常」の世界の中においては「日常」のことだけど、
それを「日常」の側から見ると、エンターテイメントになる。
大友克洋の「MEMORIES」に収録された短編映画「大砲の街」なんて、
まさに、「非日常での日常」そのもので、何の事件も起きないけれど面白い。
逆に、「非日常での非日常」を描いてしまうと、
何でもありの世界になってしまう。
映画「NEXT」なんて、まさにそれで、
ストーリーに合わせてルールがブレまくっている。
他にもあるだろうけど、ここでこの2つを挙げたのは、
本書、『ネクロポリス』が、この両方を満たした作品だからだ。
そして、それを欠点としないのが、この本のスゴさなんだと思う。
まず、「オチが無い」っていう点は、
これは、本書に限らず、恩田陸の作品のほとんどがそう。
恩田陸の作品は、中盤の盛り上がりに対して、
結末は、驚くほどあっけないものが多い。
初めて恩田陸の作品を読んだときは、そこに戸惑ったものの、
慣れてしまえば、それが魅力。
「経過」よりも「結果」を求められる世の中において、
趣味の読書くらい「経過」を楽しむのも悪くない。
そして、もう一点の「非日常での非日常」を描いている点。
これは、
主人公が、読者と同じ「日常」側(アナザーヒルをよく知らない)の存在で、
主人公の周りの「非日常」側のキャラクターが、
主人公に対して「非日常での日常」を説明するという構成で描くことによって、
読者に対しても、「非日常の日常」を違和感なく説明することが出来ている。
とはいえ、
それでも、後出しっぽい設定も多い。
特に、物語の終盤は、ご都合主義的で、何でもアリな展開が続く。
それは、普通の小説であれば、「最低!時間を返せ!」と思っちゃうような展開。
それでも、この小説が心地良く読み終えられる理由は、
冒頭にも書いたように、
この小説の中で描かれている本質が、「物語」ではなく、
アナザーヒルという「世界」そのものであることによるのだろう。
そもそも、最初の設定として、
帰ってくる死者、つまりは「幽霊」的なものの存在が許容されている時点で、
ミステリーとしての正当性は保たれない。
つまり、最初から「この世界は何でもアリです」、と宣言されているわけで。
解決編の「何でもアリ」感、「オチが無い」感は、
「まあ、このアナザーヒルという場所でなら、そういうこともあるよな。。。」
という、感覚によって、むしろ違和感なく受け入れることができた。
というわけで、
この小説は、「本質が物語ではない」というレアな小説で、
かなりの長編ながら、
「終わるのがもったいない、もっとこの場所にいたい」という、
とても小説の感想とは思えない感情を抱く小説だった。
まだまだ、「こんな小説読んだこと無い!」と思えるような小説はあるんだな。
小説って奥深い。


★★★★☆
あらすじ
懐かしい故人と再開できる場所「アナザー・ヒル」。
ジュンは文化人類学の研究のために来たが、
多くの人々の目的は死者から「血塗れジャック」事件の犯人を聞き出すことだった。
ところがジュンの目の前に鳥居に吊るされた死体が現れる。
これは何かの警告か。ジュンは犯人捜しに巻き込まれていく。
聖地にいる173人全員に殺人容疑が振りかかる。
だが、嘘を許さぬ古来の儀式「ガッチ」を経ても犯人は見つからない。
途方にくれるジュンの前に、「血塗れジャック」の被害者たちが現れて証言を始めた。
真実を知るために、ジュンたちは聖地の地下へ向かうが……。
感想
イギリスと日本の文化が混在したような文化背景を持ち、
死者のよみがえりが、日常として起こる場所「アナザー・ヒル」。
その「アナザー・ヒル」を、旅行記的な雰囲気で描いた超長編小説。
登場人物の一人が、「アナザー・ヒル」という場所を描写した表現が、
そのまま、この小説を一言で表している。
「ミステリとファンタジーとホラーが混ざっている」小説。
この小説の魅力は、
描いているものが「物語」ではなく、
アナザー・ヒルという場所の世界観そのものである点だと思う。
事件として起こるミステリで、ファンタジーで、ホラーな部分。
それを軸に物語は進行していくものの、
それは、アナザー・ヒルという場所(世界観)を描写するための、一要素に過ぎない。
あくまで、描かれているのはアナザー・ヒルという「場所」だ。
全てを読み終わった後は、本当に旅行から返ってきたような感覚になる。
今、この感想を書く上で、冒頭に本の表紙の画像を貼った。
そして、そこで初めて、上下巻の絵が繋がっていることに気がついた。
この表紙は、本当によく出来ていて、
アナザー・ヒルという場所を一枚の絵で的確に表している。
描かれているモノ、街並みや運河や鳥居はもちろん、
昼と夜(ここでは、めんどくさいのでそう言います)の景色に分かれていることにも、
すべて意味があり、
読み終えた今、すべてが懐かしい。
この「懐かしい」という感覚を覚えるところが本書の素晴らしさ。
世界観が密に描かれたからこそ、
この表紙を見たときに、
実際に旅行した場所の写真を見たときのような感覚を覚える。
それは、確かに僕の中に、アナザーヒルという架空の場所の「思い出」があるってことだ。
さて、話はちょっと変わるけど、
僕の中で、小説でこれをやられたら「冷める」っていうことがいくつかある。
一つは、オチの無い話、もしくはオチが訳わかんない話。
そしてもう一つは、「非日常的な舞台の、非日常的な出来事」を描いた話。
これが冷める理由は、ラーメンズの小林賢太郎が言っていたことに共感したから。
彼曰く、ラーメンズのコントは、「非日常での日常」を描くのが基本らしい。
つまり、演じている「非日常」の世界の中においては「日常」のことだけど、
それを「日常」の側から見ると、エンターテイメントになる。
大友克洋の「MEMORIES」に収録された短編映画「大砲の街」なんて、
まさに、「非日常での日常」そのもので、何の事件も起きないけれど面白い。
逆に、「非日常での非日常」を描いてしまうと、
何でもありの世界になってしまう。
映画「NEXT」なんて、まさにそれで、
ストーリーに合わせてルールがブレまくっている。
他にもあるだろうけど、ここでこの2つを挙げたのは、
本書、『ネクロポリス』が、この両方を満たした作品だからだ。
そして、それを欠点としないのが、この本のスゴさなんだと思う。
まず、「オチが無い」っていう点は、
これは、本書に限らず、恩田陸の作品のほとんどがそう。
恩田陸の作品は、中盤の盛り上がりに対して、
結末は、驚くほどあっけないものが多い。
初めて恩田陸の作品を読んだときは、そこに戸惑ったものの、
慣れてしまえば、それが魅力。
「経過」よりも「結果」を求められる世の中において、
趣味の読書くらい「経過」を楽しむのも悪くない。
そして、もう一点の「非日常での非日常」を描いている点。
これは、
主人公が、読者と同じ「日常」側(アナザーヒルをよく知らない)の存在で、
主人公の周りの「非日常」側のキャラクターが、
主人公に対して「非日常での日常」を説明するという構成で描くことによって、
読者に対しても、「非日常の日常」を違和感なく説明することが出来ている。
とはいえ、
それでも、後出しっぽい設定も多い。
特に、物語の終盤は、ご都合主義的で、何でもアリな展開が続く。
それは、普通の小説であれば、「最低!時間を返せ!」と思っちゃうような展開。
それでも、この小説が心地良く読み終えられる理由は、
冒頭にも書いたように、
この小説の中で描かれている本質が、「物語」ではなく、
アナザーヒルという「世界」そのものであることによるのだろう。
そもそも、最初の設定として、
帰ってくる死者、つまりは「幽霊」的なものの存在が許容されている時点で、
ミステリーとしての正当性は保たれない。
つまり、最初から「この世界は何でもアリです」、と宣言されているわけで。
解決編の「何でもアリ」感、「オチが無い」感は、
「まあ、このアナザーヒルという場所でなら、そういうこともあるよな。。。」
という、感覚によって、むしろ違和感なく受け入れることができた。
というわけで、
この小説は、「本質が物語ではない」というレアな小説で、
かなりの長編ながら、
「終わるのがもったいない、もっとこの場所にいたい」という、
とても小説の感想とは思えない感情を抱く小説だった。
まだまだ、「こんな小説読んだこと無い!」と思えるような小説はあるんだな。
小説って奥深い。
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